即席スマイル

そんなわけでまだ名古屋にいます。
だいたいどこのデパートでも毎朝朝礼を行うんですが、
名鉄に於いては2人ひと組で向かい合って
「さあ笑顔の練習をしましょう!」などという気恥ずかしい慣例があり、
「目を動かして〜」とか「口角を上げて〜」とか
まるでコントの如きスマイルレッスンを行うので、
やだ、絶対にやりたくないわ!と思った私は決して組にならぬよう細心の注意を払い、
忍びの者、もしくは透明人間となって誰とも目を合わせず孤高の人と化し、
能面の如き「ザ・無表情」を貫くというパンクな姿勢でやり過ごしているのですが、
そうしてただでさえ存在感がない私がさらに存在感を消す作業をしているにも関わらず、
「あら、この人、組になってないわ!」と目ざとく孤高の私を見つけ、
その海のように深く広い優しさという名のお節介を発揮するおばちゃんがおり、
「お兄さんこっちで3人でやりましょ!」などと無理矢理私を迎え入れ、
職人のおじさんとおばちゃんと私の3人で向かい合って笑顔の練習をさせたりするので、
私は迷惑だなあ〜と憤慨すると共に「何だこの3人組、ドリカムか!」などと毒を吐きながら、
そこでも絶対に笑顔にならないという校則に抗う思春期の学生みたいな青臭い行動を取ってしまうのですが、
何とも困ったことです。
即席ドリカムのスマイル。
そんなおばちゃんの優しさはパンクな私にではなく、
ぜひ道で雨に濡れて震えている子犬などに向けて欲しいものだと思う次第です。
しかしいい大人になって笑顔の練習を朝からやらされる罰ゲーム感たるやです。
こんな笑顔の練習などという痴れたシステムを考案した人は
雪の降る激寒い夜に自販機であたたか〜いコーヒー買って暖を取ろうとボタンを押したら
なぜかつめた〜いコーラが出て来てそのキンキンの冷えっぷりにぶるっと震えるなどの
小さな不幸に遭えば良いのにと朝から恨み言が口をついてしまう程です。
「こっち向いて笑って〜照れないですまいすまい、すまいる〜」と
ドリカム往年の名曲「Eyes to me」を思い出しながら仏頂面になってしまうという
何とも複雑な朝を経て私は働いています。
「笑えばいいと思うよ。」
碇シンジくんは言うけれど。