服を纏う

9月になった途端、虫たちが「俺たちの出番っしょ」とばかりに大きな声で鳴き始め、
秋の気配も濃厚になって来ました。
朝晩などはだいぶ涼しくなって来たようです。
夏でもなく秋でもない季節がまた巡って来たのかと思いながら長袖の準備などをしている私です。
昼間などまだ蒸しますけどね。
今は新宿島屋での職人男子展という催しに出ており、
接客の傍らせっせと絵付けなどに勤しみ真面目に働いています。
男子とか言いつつ出てる人ほぼ全員おじさんという状況で。
(昨今の言葉尻に男子女子付けて新しい概念打ち出しましたみたいな姿勢は如何なものかと思う次第ですが)
職人おじさんとして何だかんだと地味に忙しい9月の頭を過ごしている次第です。


この間、開店祝いにお店に飾りたいとのことで
セブンイレブンの制服を着た招き猫の製作を依頼されたのですが、
その時にサンプルとして本物の制服を預かりまして。
それを見ながら色味を本物そっくりに再現し仕上げたのですが、
いざ仕上げた後、その制服を自分で着用してみたくなったのですよね。
女性用だったんですが一応身体に入ったので、
それを着用して鏡の前に立つとまさにセブンイレブンの店員の自分がそこにいて。
不思議なもので人は衣装を纏うとその気になるものなのであり、鏡の前で
「いらっしゃいませ」
「お弁当温めますか?」
「2番目にお待ちの方こちらにどうぞー」などとそれらしき台詞を吐き、
エアチケット発券、エア肉まん袋詰め、エアおにぎり陳列など、
セブンイレブンの店員然としたアクションを起こしたくなるのですよね。
もうこのまま近くのセブンイレブンに赴き
大型冷蔵庫に入った写真をツイッターにアップし、
江戸の大火事の如く炎上させるという最近流行りのプレイに興じようかと思ったのですが、
近くにセブンがないので断念しましたけどね。
私はコスプレの趣味がないのですが、
衣装を纏うというワンアクションだけで別人格になったような気になる
その心情が何となくわかったような気がします。
たかがセブンイレブンの制服ですが。
前にアニメのイベントでアメリカに行った時に、
小錦みたいな体型の白人女性が綾波レイのコスプレをしているのを見て、
「よく入ったなー」と、四畳半の部屋に巨大アフリカ象を押し込むが如きその収納マジックに目を見張ったのですが、
本人はもう綾波レイなんですよね。
コスプレしてる時点で。
フォルムは膨れ上がった餅の如くばっつんぱっつんでしたけどね。
「笑えばいいと思うよ」とかアンニュイに呟いたりするわけです。
人の変身願望をライトに叶える術としてコスプレは機能しているのだなと
あの日見た倍返しならぬ3倍増の綾波レイを思い出しながら
そっとセブンイレブンの制服を畳んだ私です。
まあセブンイレブンのコスプレはそんな何回もやりたくないですけどね。
労働に直結していますし。
一応デパートで実演する時は作務衣だの半纏だの着用するのですが、
あれも衣装といえば衣装なんですよね。
仕事に入るスイッチというか。
それが単なるコスプレにならぬよう仕事をせねばなるまいと軽く決意したりした私です。
そんな9月の初頭です。