晩夏の青、恵比寿、鎌倉

そんなわけで9月になってしまいました。
8月31日が終わると夏ももう終わりという
幼少の頃の記憶が大人になってもまだ肌感覚として残っているので、
何とも言えない寂しさみたいなものを感じてやまないわけです、9月の始まり。
まだまだ暑いんでしょうけどね。
8月後半は夏の思い出滑り込みとばかりに山田バンドワンマンが2本入っており、
晩夏にたっぷり演奏することが出来ました。
25日は恵比寿にて7人編成のバンドで、
31日は鎌倉にて山田氏とのデュオで。


今回7人編成での演奏ではピアノの真里さんと初めてご一緒したのですが、
事前に音だけ聞いていて勝手にお淑やかな女性で
深窓の令嬢然とした人なのであろうとイメージしていたら、
実際はめちゃくちゃご陽気で明るくちゃきちゃきしたお姉さんで、
「やるわよ〜ん」とばかりにがんがん力強く鍵盤を叩いており、
バンドの誰よりも漢(おとこ)全開だったので頼もしく感じた次第です。
リハの時もトイレ休憩の際に「トイレット博士行って来まーす」などと親父的なギャグを放ち、
今時のヤングはとりいかずよしの大ヒット漫画を知らぬであろうなと思いつつ、
全然深窓ではなかった、窓を全開で飛び出す人であったと認識を改めた次第です。
そんな真里さんの跳びはねるウサギの如きピアノがバンドに加わり、
さらにそこに静かに熱い上野さんのフルートが乗るという
化学反応がステージ上で巻き起こったわけですが、
何度やるんだ、レコ発を、あなたは、と倒置法を用いて言いたくなるほど積み重ねたライブの締めくくりに
豪華7人編成で演奏が出来て演者である我々も楽しめました。
特に終盤に演奏した「日向の猫」における客席からのコーラスの波には言葉にし難い多幸感に包まれ、
鍵盤ハーモニカをプヒーと吹きつつ感動で落涙に至りそうになったのですが、
あれは素晴らしい体験でした。
涙で滲むと譜面を追えなくなるので何とか堪えましたけどね。
この日はさらに私が作ったのではない招き猫だるまにアルバム完成祝いの目を入れる儀式も行ったのですが、
私が作ったのではない招き猫がステージに登場するのはどこか気持ちに引っかかる部分があり、
私が作ったのではない招き猫など招き猫に非ずだわ、
という複雑な女心(男だけど)も相まって
何度やるんだ、目を入れる儀式を、あなたは、と倒置法を用いて言いたくなったのですが、
まあお客さんには受けていたので良かったのでしょう。
ライブ後、真里さんが「あ〜、終わっちゃったなあ」と名残り惜しそうにしておりましたが、
私もこの祭りがまだ続けば良いのにとセンチに思った次第です。
まあ私はその数日後にまた山田氏と演奏することになるんですけどね。
ライブ後はいつものお店で打ち上げを行ったのですが、
毎回スリムクラブの真栄田さんと遭遇するので
「今回もいるかなあ」と期待するもおらず、
遭遇率下がっちゃったなと話してたら途中何とタレントの川崎麻世さんが現れ、
みんなで「麻世だ」「うむ、麻世だな」「麻世ですね」とまよまよ言い、
この店に来ると芸能人に遭うという新たな伝説として記録が更新されたのでした。
次回は誰に遭うのでしょうか、我々は。
さらに打ち上げでは真里さんが昔声優でデビューし、
トッポジージョの声をやっていたという事実が明らかになり皆でどよめいたのですが、
一時期フリッパーズ・ギターでも演奏していたなど、
彼女の謎めいた過去に衝撃を受けた一日となりました。
またぜひバンドでご一緒したいと思った次第です。
そんなこんなで夏の終わり、7人編成で締めくくることが出来ました。


でもってその数日後、夏の課外授業もしくは補習みたいな形で
鎌倉molnにて今度は山田氏とデュオという形でライブを行いまして。
あまり決めずにだらだらいこうということでだらだら然とリハしていると
外から晩夏の蝉の声や電車の音など心地良く聞こえ、
まるで夏休みの部室で先輩と2人で演奏しているみたいだなあ、
かつてこんな感じでギター弾いてたなあと思い出したりし、
先輩に軽く緊張しつつも一緒に音を紡いでいる連帯感があるみたいな、
そんな部活然とした雰囲気に妙な心地良さを感じてしまいました。
そんな空間を満員のお客さんと共有出来て良かったのではないでしょうか。
当日はお互いお勧めの本を紹介するというくだりもあり、
山田氏は永六輔さんの「男のおばあさん」と
保坂和志さんの「もうひとつの季節」を紹介しまして。
TBSラジオで永さんがやってる長寿番組「誰かとどこかで」が終わるという
お互いTBSラジオリスナーである我々にとっての大きなニュースを語りましたが、
お客さんには共感してもらえたのでしょうか。
保坂さんの方は何とご本人のサイン入り本でしたが
(山田氏は「文藝」の保坂特集にも寄稿していて交流があるのですよね)、
一部彼の朗読で内容を紹介され、それを聞いていたら
鎌倉を舞台にしているこの小説を改めて読み直したくなってしまいましたね。
私は木皿泉さんの「昨日のカレー、明日のパン」を紹介しまして。
ちょうど山田氏もツアー中に読んでいたということで、
はっとさせられる台詞が満載のこの小説の魅力を紹介したつもりなんですが、
お客さんにはどう伝わったのでしょうか。
木皿泉を知らない人が多くてちょっと意外に思いましたけどね。
今回も一応レコ発ということで、何度やるんだ、レコ発を、あなたは、と、
倒置法を用いるのも3度目かと思いながらアルバムの曲を演奏し、
ゴメス時代の「アップダイク追記」にもしれっと参加させてもらいました。
(リハの時にやってみたらいけそうだったので急遽参加したのでした)
当日は結構年配のお客さんも多くて、親子2代でファンだという方などもいて、
このままいくと山田氏も男のおばさんとして
幅広い年齢層に支持されていくのではなかろうかと
そのひょろ長い背中を見やったりした次第です。
恵比寿と鎌倉と両方来てくれた方々も多く、
たくさんのご来場に感謝する次第です。
どうもありがとうございました。


そんなわけで夏の思い出を滑り込ませることが出来ました。
9月になればもうどんどん秋めいていくのでしょう。
「harvest moon」を演奏しながらすでに秋の気配を感じて、季節の移り変わりを思った私です。
どんな秋になるのでしょうか。
果たして。