アイドルばかり聴かないで

気が付けば師走に突入しているわけです。
今年もあと1ヶ月で終わりとは。
早いのです。
早過ぎるのです。
そして慌ただしいのです。
年末年始というやつは。


先日は御徒町の匠の箱というお店に於いて
某アイドルグループとそのファンの方々とだるまの絵付けを体験するという催しが行われ、
私はその指導的な立場で呼ばれたので
「アイドルに会える!」と軽く上昇したテンションを携え会場に向かったのですが、
会場に着くとお店のスタッフ一同も同様に「アイドルが来る!」と軽くテンションが上昇しており。
特に男性スタッフのk氏などは携帯でメンバーの写真などを見て、
「可愛いですねえ〜。黒髪が!」などと盛り上がっており、
図らずも彼の異性の意外なお好みポイントが露呈されたのですが、
よくよくメンバーのプロフィールを見てみれば全員現役の中高生なのであり。
からしたら自分の娘でもおかしくない年齢なのであり、
k氏も同様なので如何なものかと思われたのですが、
まあ滅多にない機会ですしね。
アイドルと触れ合えるというのは。
女性スタッフも「ファンの男性たちの熱い様子を見てみたい!」と別な角度で興味を持っており。


そんなこんなで一同そわそわと待ち構えていると果たしてグループ一行がやって来て。
見やるとファンであろうおじさんたちに囲まれて制服の少女がちらほらいるという、
修学旅行の引率の先生の数の方が異様に多いみたいな状況の中、
あれ、子供?という小さい子なんかも混じっており。
何とこのグループ、メンバーに小学生がいるのですよね。
どう見ても小学4年生くらいの子供が。
(後でプロフィール見たら6年生でしたけど)
少女たちはみなチェック柄のスカートにブレザーという、
まさに女学生という感じの制服を着用しており。
どうやら小学生から高校生まで揃う女学園という設定のグループで、
大人数いるメンバーの中の精鋭部隊が今日の催しに参加するらしく。
その中のリーダーと思われるスザンヌ似の子が「今日はよろしくお願いしま〜す!」と
窓から差し込む朝日のような溢れんばかりの眩しい笑顔で挨拶をしたので、
私も「お、お、お願いします!」とどぎまぎしながら挨拶を返し。
何をどぎまぎすることがあろうか、女子高生に、と気を引き締め場を仕切るに至ったのですが、
テーブルにはアイドル女子2人にファン男性7人みたいな比率で陣取り、
男性諸君はみんなフワフワ浮き足立っておるのですよね。
一応一通り説明して、みなさん絵付けを開始したのですが、
アイドルの子の一挙手一投足が気になるらしく。
(まあそういうイベントなので当たり前なんですが)
そんな中でも「俺は純粋に伝統工芸に触れに来たのさ」と、
ストイックな姿勢を示す人もいれば
「ねー○○ちゃんどんな絵付けにするの〜、でへ〜」と果敢に話しかける人もいれば、
隙あらばアイドルの子のいい表情を押さえようとカメラを手にする人もいて、
みんなアプローチが違うながらもアイドルの子に気を取られているのは全員共通しているのであり。
何かこんな光景かつて学校の授業でも見たような気がするな、
可愛い子のいるグループに於いて男子はみなこういう感じだったなと思い出したのですが、
そんな授業風景と違うのはアイドルの子はきちんと全員に笑顔で優しく対応してくれるのであり、
決してきもーい、とか、ださーいとか言わないのですよね。
いちクラスメイトとして受け入れてくれるのです。
まあお金払ってるからという現実的な理由があるからなんですが。
(それ言っちゃうと身も蓋もないですが)
アイドルの子はちょいわがままなタイプとか、
美少女とか優等生タイプとか親しみやすいタイプとか
キャラがバラバラに振り分けられており、
写真見た感じだと全員普通の女学生だなという印象なんですが、
実際会うとみんな表情豊かだし仕草など含めそれなりに魅力的なんですよね。
それこそ笑顔で対応してくれるし。
ファンの男性陣は明らかなオタク系のおじさんや、
地味で真面目そうなおじさん、ちょいホスト入ってるイケメンもいれば、
意外に普通に彼女いそうな好青年などもいて、こちらもキャラがバラバラだったんですが、
みんな共通してるのは本当に楽しそう、ということで、
アイドルの子もキャラなりに微妙かつ絶妙な距離感でファンと接していて、
これは商売として正しく需要と供給が一致してるなあと感心してしまいましたね。
集団で何かの体験を共有するとお互いぐっと距離も縮まるし、
アイドルの子のステージ上では見られない表情も間近に見られますしね。
これはいいイベントだなと我ながら思った次第です。
(まあ別に私が企画したわけじゃないですけどね)
アイドルの子から「あ、そこの絵の具取ってくださーい」とか言われて渡す時にちょっと手が触れて
「あっ」みたいにおじさんが照れる様などを見ては
「これはあれだな、青春てやつだな!」と確信に至ったのですが、
この人たちはあの時得られなかった女子との触れ合い、青春をおじさんになった今お金を払って経験しているのだ、
と思うと私も「この青春、応援させて下さい!」と気合いも入ったのですが、
男性陣は私の応援など気にする様子もなく。
まあ仕方なく暖かく見守るに至りましたけどね。


みな自分なりにアイドルの子との触れ合いをエンジョイしていたのですが、
そのアイドルの子の立ち振る舞いも実にプロフェッショナルで。
特に小学生の子はこの年にしておじさん転がしが巧く。
その子の隣に40代とおぼしきおじさんが座ったのですが、
「えー、○○さんこれどうやるの〜」などと甘えたり、
「わー、○○さんじょうず〜」などとおだてたり、
終始おじさんの喜ぶ会話を繰り広げ、おじさんはきゃっきゃっと笑い、
彼女の手の平でころっころと転がっており。
10歳と40歳の2人ですけどね。
このタイミングで「ね〜、このバッグ買って〜」とねだれば「いくつ欲しいんだい〜」と財布を出しそうな勢いで、
このまま彼女が大人になり色香をまとうようになったら
マンションのひとつやふたつ引き出せるのではないかと末恐ろしくなったのですが、
まあ当のおじさんが喜んでいるわけですからね。
関係としては成立しているわけです、転がしの。
この子が「わーん、失敗しちゃった〜」と言えば
周りのおじさんたちが「大丈夫だよう〜」となぐさめ、
「どうこれ?可愛いでしょ?」と聞けば
「かわうぃぃ〜」と賞賛し、王女様みたいになってて見事でしたね。
小学生にして。
また別な女子の元には隣に30代とおぼしき青年が座り。
この青年がやたらと教えたがりで、
「ここはこうすると良いんだよ」とアドバイスしたり、
ハットリくんはね、藤子A先生の描いた漫画だよ」などと知識を披露し、
「へえ〜、そうなんだ〜」と女子たちに感心されて大変喜んでおり。
何やら女の子より優位な自分が嬉しいのでしょうかね。
なるほどこういう関係性もあるんだなーと感心したりした次第です。
また別な子は「○○ちゃん、こっち目線ちょうだい」と要求され、
すかさず笑顔を向けると男たちがかしゃー!かしゃー!かしゃー!と一斉にシャッターを切り、
一瞬プチ撮影会になるという展開が見られたのですが、
男共は目の前にいるのにバズーカみたいなごっついカメラを向けて女子を撮り、
その場で彼女のアップの表情を確かめてはにやりと笑っておるのですね。
これはあれだな、まさか直接アイドルに触れるというのは御法度だけど、
せめて目の前の自分に向けられた彼女の表情だけは永遠に残したいという、
切なる気持ちのシャッター音なのだなと私は思い、
かしゃーかしゃーかしゃーと鳴る度に男の永遠の片想いが刻まれるようで、
これがアイドルを応援するという浪漫であり業なのかもしれないと勝手に胸を熱くさせたのですが、どうなんでしょうか。
言うなれば片想いシャッター音です。
しかし不思議なもので女子たちが笑顔を向けると
「あ、撮らないと!」と自然にカメラを向けている私がいるのですよね。
かしゃーかしゃーかしゃー、と気が付くとファンの方に混じって撮影をしているという。
目の前に可愛い被写体がいるとついシャッターを切ってしまう習性があるのかもしれません、男には。
これは新たな発見でした。
(私にアイドル好きの要素があったという発見なのかもしれないですが・笑)
まあそんなこんなで絵付けのイベントも無事終わり。
最後にまたリーダーの子が「ありがとうございました〜」と挨拶をし、
私は幾分余裕を持って「はい、お疲れさまでした〜」と場を締めたのですが、
普段の教室よりも濃い内容で面白かったですね。
少々気疲れもしましたけどね。


終わった後、スタッフの中でも年長のおばちゃんは
「あの子たちと付き合えるわけでもないのにねえ」とか
「自分と同世代の女性がたくさんいるだろうに」とか
「小学生だもんねえ」とか
忌憚なき意見を述べておりましたが、
いや、そんなんじゃないんだよ、
あの人たちは大人になっても青春を追い求めている夢追い人なんだよ、と
おばちゃんを諭そうと思ったのですが、
ブルータスお前もか、と呆れられそうだったのでやめておきました。
今やテレビで活躍するトップアイドルや、
インディーの地下アイドルなど飽和状態じゃないかというくらい存在するアイドルですが、
その存在を熱望する夢追い人がいる限り、
アイドルは在り続けるのかもしれないなと思った次第です。
あの小学生の子はどんな大人になるんでしょうか。
実際ああいう子が現在の日本の経済を回しているのかもしれないな、
などと思いながら遠い目をした私です。