マリッジマウンテン

気が付けば11月も下旬になっているわけです。
早いのです。
時の流れというやつは。
そんな流れに流されつつも先日11月22日に私は入籍などというものをし、
所謂結婚という事態に至ったのでここにご報告させていただきたく思うわけです。
突然のことで驚かれた方もいらっしゃったかと思いますが。
私が一番驚いているのだから至極当然でありましょう。
私みたいな者に結婚などという山を登れるのか、
途中「やっぱいいや、古本屋行こう〜」と下山してしまわないか自分でも心配だったのですが
(何で山を下りて向かう先が古本屋なんだって話ですが)、
何とか登り切ったという感じです。
まあ登ったら登ったでまだ先があるんですけどね。
マウンテンに次ぐマウンテンなのです、人生は。
一応入籍した旨をツイッターで皆さんにお知らせしたんですが、
何だかかしこまって報告するのも照れ臭く、
お祝いの言葉をいただくのも恐縮するなあと思い
(私は誕生日祝いコメントもいただくのに恐縮してしまうのでなるべく呟かないようにしてるんですが、
フェイスブックが今日こいつ誕生日だよ〜と勝手にアナウンスするので困っておるのです。
あれはお祝いコメントカツアゲのように思えてしまうんですが)、
軽く「入籍しましたー」と、「蕎麦茹で上がりましたー」くらいのテンションで呟いたのですが、
それを見た方からたくさんの温かいお祝いのお言葉をいただき、
恐縮しつつも感謝に感謝をした次第です。
「蕎麦茹で上がりましたー」テンションの軽い呟きにも関わらずです。
まあ蕎麦だけに長く続くと良いですね的な意味合いとして伝わったのかもしれませんが。
(伝わってないと思いますが)


入籍するには婚姻届なる書類を役所に提出しなければならないわけで、
事前に「婚姻届くーださい」と役所に貰いに行くと
「ほれ。」とおじさんからぺらっぺらの1枚の紙を手渡され、
こんなぺらっぺらの紙1枚で結婚などという重要案件が遂行されるのかと私は驚き、
もっとこうジュラルミンの鍵付きケースに厳重に保管された荘厳な佇まいの、
職人によって磨かれた木の板に夫婦となる2人の名前を刀で刻むくらいの
大仰なブツでなくて大丈夫なのかと心配したのですが、
どうやら世間の夫婦の皆さんはこのぺらっぺらの1枚の紙で認められているらしく。
そうかーと思いながら婚姻届に己の名前をカリカリと書くも
「はい、お前字が下手〜結婚認めない〜」と言われるのではないか、
窓口に持って行くも「はい、お前セーターの柄がダサい〜結婚認めない〜」と言われるのではないか、
最終的には「はい、五十嵐の結婚など認めない〜」と、
五十嵐に入籍させない会の会員による妨害行為に遭うのではないかと心配し、
小学校の習字の授業以来本気で丁寧に字を書き、
当日は柄のないカーディガンを着用し臨んだのですが、
いざ役所に行くとこれから婚姻届を出さんとしているカップルが結構多く。
何だ昨今は結婚ブームなのかと訝っているとこの日は所謂「いい夫婦の日」なのであり。
その日を狙って入籍をせんとするカポーたちで賑わっているのです、窓口が。
我々はたまたま付き合い始めた日がこの日だったという理由で決行したのですが、
世間の方から見たら「いい夫婦の日に入籍」という実にベタな感じになっているのであり、
普段からベタを避け斜めから物を見ては悦に入ってるようなサブカル戯け野郎の私からしたら
「や、いい夫婦の日だからじゃないんです、個人的な理由なんです!」と、
言い訳をしながら届けを出したい衝動に駆られたのですが、
まあベタでも良いじゃないか、
結婚という最大のベタに斜め視点持ち込んでどうするのだ戯け野郎、
ともうひとりの私が言うのでまあそれはそれでいっかと、
これから夫婦にならんとする人たちに紛れて書類を提出したのです。
何か書類に不備があれば受理されないと聞いておるし、
五十嵐に入籍させない会の会員がどこぞに潜んでいるかわからないので身構えていたら
窓口のお姉さんから「はい、受理されましたー」と、
「蕎麦茹で上がりましたー」みたいなテンションで軽く言われ、
え、そんな簡単で良いんですか、本当に蕎麦茹で上がりました?と確認しそうになったのですが、
いざ確認して「あ、お前、部屋が汚いから結婚認めない〜」などと覆されても何だし、
部屋が汚いかどうか何でお前が知ってるのだという思いもあるし、
「あ、ありがとうございます〜」と礼を言いそそくさと窓口を離れるに至ったのでした。
長い戦いになると予想していたのにほんの数分でした。
五十嵐に入籍させない会の会員の監視の目がたまたま緩んでいたのでしょうか。


こんなのでもう入籍が完了なのかーと思いながら役所を出ると、
外はとてもいい天気なのであり。
ぺらっぺらの紙1枚を提出しただけなのに
大きな仕事を成し遂げた感が半端ないなーなどと思っていると
正式に嫁となった彼女がこちらを振り返り、
「私たち今日から夫婦だね」と笑いながら言うので、
私は「う、うむ、そ、そうか」と戸惑いながら頷き、
夫婦の第一歩を踏み出すに至ったのです。
晴れて青く澄み渡った空の下を。
柄のないカーディガンを着用しながら。
いや参った、登ったぜ俺は、結婚という山を、
などとぶつぶつ呟きながら。