天然色の林檎

気が付けば年が明けていたわけです。
みなさんあけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。


年末は各地催事の準備と荷作りを同時に5箇所分行いつつ
銀座松屋の催事に出るという慌ただしい日々で、
それを蛇の如くクネクネとやり過ごし、
晦日の帝国ホテルと池袋東武の搬入陳列を気合いでえいやと片付け、
何とかかんとか2013年の業務を終えまして。
明けて元旦は朝から帝国ホテルでの実演でこれが連日夜9時半までという長丁場で、
相変わらず年末年始はタボー家の人々と化しておるわけですが、
己の馬力を振り絞り馬車馬の如く働くしかあるまいと鼻息を荒くしている次第です。


晦日大滝詠一氏の突然の訃報が飛び込み、
しかも林檎を喉に詰まらせて云々という
嘘か誠かわからぬ情報も目に入り
(たまたま林檎を食べていたタイミングに解離性動脈瘤を起こしたのが死因だそうですね)、
偉大なる音楽家がこの世からいなくなったという事実に
2013年最後の動揺に見舞われたのですが、
晦日という1年の締めくくりの日に本をパタンと閉じるような感じで
(じゃっ、と手を振る感じで)
毒リンゴを食べて突然ポックリ逝くなんてイメージを思い浮かべると
何だか彼らしい気もするわけで。
林檎というとビートルズのアップルと
スティーブ・ジョブズのアップルを思い出していた我々は
今後日本のポップスの巨人も思い出すことになるのでしょう。
林檎を齧る度に。
メディアに滅多に出ない氏ですが、ラジオには時折出演されていて、
高田文夫先生の番組で最近の趣味について語っているのを聞いたりして
(昔の日本映画のロケ地を現在に確認するみたいな趣味でした。探究心!)、
健在ぶりを確認しておりました。
仙人のような暮らしでもしてるのかと思いきや
世俗の流行、文化、政治、スポーツなどに詳しく精通し、
電気代が月10万という冗談のような話が印象に残ってます。
同じく博識の高田先生と大滝さんの機知に富んだやり取りがもう聞けないかと思うと
(そしてイーチタイム以来の新譜がもう聞けないと思うと)残念でなりません。
新曲は作ってなかったのでしょうか。


新年の朝はロンバケiPodで大音量で聞きながら
(氏はmp3の音質をどう判断してたんでしょう)
人気のない有楽町の街を歩いたのですが、
君は天然色」の冒頭のピアノにかかった深いリバーブ
それこそ林檎を齧った後の果汁のように香しく爽やかに景色を彩り、
曲が始まるとたちまち有楽町のビル群は天然色に染まり、
私はその光景を眺めながらこれが30年前の音楽なのか〜と感嘆し、
美しい旋律と硝子細工のような繊細なサウンドプロダクションに改めて感動を覚えた次第です。
時を超えるなんて常套句は軽々しく使いたくないですが、
この作品を形容するのには使っても差し支えないのではないでしょうか。
ご冥福をお祈り申し上げます。


そんなわけで天然色で始まった2014年です。
天然色とはつまるところ何色なのか。
私には林檎の色と記憶されました。
彼の最期が「幸せな結末」であったことを願うばかりです。