ロフトでムーンウォーク

ここ数日仕事で大宮に通っていたのですが、
この寒さ厳しい折に大宮駅の構内を半袖半ズボンという
元気な小学生スタイルで歩くおじさんを見かけまして。
そのおじさん、スタイルこそ元気そうなんですが
実際にはものすごーく寒そうに身を震わせながら歩いていて。
しかもその半袖半ズボンもよくよく見ればよれよれのボロボロで小汚く。
歩き方もふらふらしてあやしいのですよね。
バイきんぐの小峠みたいな坊主頭で、それがまた見るからに寒そうなのです。
寒そうだなあ、長袖持ってないのかなあと思いつつそのおじさんを追い越し、
私はこの日の仕事場であるところのロフトに向かったのですが
(ロフトで実演及び招き猫の絵付けのワークショップを行っていたのです)、
従業員入口から入りロフトのある8階へ上がり、
自分の売り場に行くと何てことでしょう、
その半袖半ズボンの小峠おじさんがそこにいるではありませんか。
さっき別れて早くも再会です。
ブコメなら恋が生まれかねないシチュエーションです。
(『あ〜、今朝駅で見かけたあいつだ〜』というシーンです)
先程貴方を駅でお見かけしましたよ、と
再会を歓迎しながら迎えようかと思ったものの、
おじさんの染みだらけの半袖半ズボンの、
教室を3往復した後の雑巾をバケツに浸したかのような、
あの日悪夢で見た地球滅亡の時のどんよりした曇天のような色合いを見て
私の防衛本能がそれを拒否し、
関わりたくないオーラ120パーセント全開で放ちながら定位置に着いたのですが、
その小峠おじさん、私の張子に興味があるようで。
おじさんは馬の張子を指差し「これ牛?」と聞くので
「や、これは馬です。今年の干支です」と言うと
再び「牛じゃなくて?」と返すので、
「馬ですね」と答えるとまた再び
「牛ではなくて?」と返すという謎の牛馬ラリーが続き。
私は「だから馬だって言ってるじゃんかようー」と思い、
この牛と馬を巡る不毛な論争は何なのか、
おじさんはまず長袖長ズボンを着用せよと指令を出したい衝動に駆られながら準備をしていると
おじさんはふらっとその場を離れどこかへ行ってしまい。
良かった、帰ってくれたかと安堵していると
おじさん今度はフロア中を後ろ向きに歩くという謎の行動に出て。
ロフトの店内を後ろ向きに歩いているのですよね。
怪奇!後ろ向き歩行怪人現る!といった見出しが付きそうな感じながらも
一応後方確認しながら安全運転(?)しているので
商品や他のお客さんにぶつかることはないという何だか半端な感じで。
(それでも従業員やお客さんは変な人いるなーという冷ややかな視線ですが)
私は何それムーンウォーク?何かの舞?と思いながら見ていたのですが、
小さい子供がたまに後ろ向きに歩いたり、わざと違うことを言ったりするという
謎の行動を取ったりすることがあるなあとふと思い、
あのおじさんは身体こそおじさんだけど、心の中は子供なのだな、
名探偵コナン状態なのだなと納得し、
おじさんの後ろ向き歩行を一転して優しい眼差しで眺めていると
やがておじさんはエスカレーターで他のフロアへ行ってしまい。
現場には平和な静寂が訪れたのですが、
私的には自分に懐いていたやんちゃな子供がどこかへ行ってしまったという
どこか寂しいような気持ちも芽生え。
あのおじさんは馬が牛であるという可能性を信じろ、
人が前向きに歩くという常識を疑え、という
パンクな精神を私に教えてくれたのかもしれないと思い、
関わりたくないオーラを全開にした自分を少し恥じ、
「かっこう、あの時はすまなかったなあ、俺は怒ったんじゃなかったんだ」と
セロ弾きのゴーシュの最後の台詞を投げかけたのでした。
彼には届いたでしょうか。
果たして。