イッツ・オンリー・ロックンロール

ザ・ローリング・ストーンズが来日するとは聞いていたものの「ふーん」くらいでスルーしていた私ですが、
いざ初日のセトリやライブのレポートなどを見てたら無性に見に行きたくなってしまい、
メンバーの年齢を考えても今後フルメンバーでのライブを見られないかもしれぬと思うと居ても立ってもいられず、
チケを得ねば!と某オークションにて「ストーンズ チケット」で検索すると、
世にはかくもストーンズのチケットが余ってるものかと驚くほどざくざくと出て来て。
見ると「都合が悪くなったので出品します」みたいな文言が数百件も並び、
世の人はかくも都合が悪くなるものなのか、
ストーンズを蹴るほどの都合で世は満ちているのかと複雑な思いを抱きながらも入札すること数件、
何とかチケットを入手することに成功し、無事東京ドーム最終公演を見に行ける運びとなりまして。
90年の来日公演を見に行った以来のストーンズ観戦と相成りました。


当日水道橋駅に着くと「俺はストーンズを見るんだぜ」オーラを全開にした人々ですでに溢れており。
ダフ屋や「チケ売って下さい」の看板を掲げた女子やら駅周辺でもチケが動いておりました。
(当日のその時間でもまだチケがオークションに出されてましたがあれは捌けたんでしょうか)
駅前で漫画家のいしかわじゅん氏を目撃し、
「お、やっぱ有名人来てるなー。他に誰に会えるかなー」とそっち方面でも期待が高まり。
(まあ結果見たのいしかわじゅん氏だけだったんですけどね・笑)
東京ドームに来るのそれこそ学生時代にポール・マッカートニー見に来た以来だったんですが、
その規模のでかさにまずは高揚しますよね。
祭りだな、これは、という感じで。
お客さんはそれこそ老若男女といった感じで、10代から60代くらいまで実に3世代に渡っており、
このバンドの歴史を感じましたね。
商店街の普通のおばちゃんみたいな人がベロマークのトレーナー着てたり、
小学生男子がベロマークのタオルを首に巻いてたり。
あとはバーボンをロックで飲んでそうな清志郎と蘭丸とダイヤモンドユカイを足して割ったみたいな風貌の人がいたり。
いかにもディスクユニオンでレコード漁ってそうな人がいたり。
ヤンキーも体育会系も文科系もサブカルもオタクもおじさんもギャルも子供も、
あらゆる種類の人々がストーンズというバンドを見に一堂に会していると思うと凄いことだなーと
改めて数万人の観客を眺め感心した次第です。
そんな観客の数に圧倒されつつ入り口付近で荷物検査をされながら中に入場して。
(私の前の人がリュックいっぱいにカップラーメンを入れてるのをチラ見しましたが、
なんであれを会場に持参して来たのか謎です。)
私の席はというと2階のまずまずのポジションで、並びはおひとり様のおじさんばかりで。
みな静かに待ちつつもわくわくを隠せぬ様子で。
私の右隣はしばらく空席だったのですがやがてゴーストライター新垣氏にそっくりな紙袋をぶら下げたおじさんがすっと座り。
この人ガッキーに似てるなあ、と思いながら開演を待ってたらこのおじさん、
やたら席を離れては戻って来るを繰り返しており、挙動不審なのですよね。
さむらごーちにでも睨まれてるのかなと訝しがっていると
急にすっと立ち上がりまた上の方へ駆け上がって行き。
何だろうと思ってたら今度は全然違う若いお兄さんが横から来て
「あーこの席だ〜」と私の右隣にすっと座ったのですよね。
「え、あのおじさんの席じゃなかったの?」と驚いたのですが、
どうやらおじさんはより前の方で空席があればそっちに座ってやろうと私の右隣を狙っていたようなのですね。
いざそっちに座って開演後にその席の人が来たらトラブルになりそうなものですが。
ガッキー、本物と違って怖いもの知らずだな〜とそのおじさんの挙動に想いを馳せてるうちに客電が落ち。
いよいよストーンズのライブの始まりです。
私の並びで静かにしていたおじさんたちは「わ、わ、わ!」と、
そのハイテンションどこに秘めてたの?とばかりに嬌声と共に立ち上がり、
同時に立ち上がりった私も目前に現れたメンバーたちに「わ、ほ、本物だ!」と興奮し。
「メンバー全員ステージ上にいる!凄い!」と思っていると
じゃっじゃっーじゃじゃじゃ、じゃじゃじゃーと聞き覚えのあるリフが響き渡り。
「わ、ジャンピン・ジャック・フラッシュだっ!」と会場全体がどよめくわけです。
それこそ稲妻が落ちたかの如く。
もう何千回も聞いている曲ですが生で聞くとやはり違うのです。
村上春樹の「ノルウェイの森」で新宿のレコード屋で客がリクエストして主人公がかけた曲ですよ。
のっけからの代表曲登場です。
その後も長きに渡るキャリアから選りすぐりの曲をどんどん披露するわけですよ。
もうベスト盤かって感じで。
イントロが鳴る度に「おお!」と声を上げてしまう私と並びのおじさんたち。
右隣のお兄さんは結構な本意気で一緒に歌っていて、細かいところまで歌詞を覚えていて。
お兄さんのコーラス入りでストーンズを聞いてるようなものですが、
私は「うるさいので静かに」などとケチはつけませんでしたよ。
歌いたくなる気持ちもわかるのです。
ミックは70代とは思えぬパワーでステージ上を駆け回り。
花道をダッシュしたりスキップしたりいつもの変なダンスしたり客を煽ったり。
歌唱も全然衰えていないし日本語のMCも多く、実にサービス精神に満ちていて。
フロントマンとして数万人の視線を浴びそれを受け止めているのだからえらいことです。
キースはさすがにおじいちゃんになったなという印象ですが、
ちゃんと声も出ているしファッションも若いし、
若干へろへろのギターもその弾き方も様式美を感じさせてもうキースじゃん!て感じなんですよね。
キースなんだから当たり前なんですが。
ロニーも相変わらずスリムジーンズの似合うしゅっとした立ち姿で。
彼が客を煽るようにギターを弾くアクションのかっこよさたるやですよ。
ギターリストってかっこいいんだなあとギターを弾き始めて25年になりますが
改めて思ったりした次第です。
「俺も声援浴びる〜」とばかりに花道へ駆け出し、
「わーい浴びた〜」とスキップしながら戻る後ろ姿もキュートでしたね、ロニー。
チャーリーも変わらずタイトなエイトビートを繰り出していて。
このドラムがストーンズなんだよなあと体を揺らしながらしみじみした次第です。
ミックに肩を抱かれて花道に連れてこられる時の「しょうがねえなあ」みたいな照れ方や
「悪魔を憐れむ歌」でのレアなヘッドフォン姿などにもいちいち萌えてしまいました。
とにかくみんな佇まいがかっこいいし何より可愛いんですよね。
可愛げがあるというのはスターの条件だなと改めて思った次第です。
彼らを「神様のようだ」みたいな書き方をしている人も見かけましたが、
私的には紛れもないアイドルなんですよね、彼らは。
それをこの日ステージ見ながら確信したという感じです。
メンバーは数回衣装を替えて、それぞれがソロを取る見せ場もあり、
メンバーが寄り添って盛り上げたり、ゲストに見せ場を作ったり、
とにかく飽きさせないし、エンターテイメント性に溢れているんですよね。
今回は元メンバーのミック・テイラーもゲストでギターを弾くということで、
初めて生で彼のプレイも聞けて良かったです。
かつての美貌どこへやらの中年太りのおじさんになったテイラーのルックスを見て
他の現役のメンバーの凄さを感じましたけどね。
最後「サティスファクション」でアコギを弾いてたのは
「この曲のエレキは俺たちで間に合ってるからお前アコギな」とキースに言われたのかなとか思ったり(笑)。
ドームは音響が悪い印象が強かったんですが、思ってたよりも音の抜けも良く。
私がドームでコンサートを見たのは20年くらい前ですからだいぶ音響も改善されたんでしょうかね。
前は1階席と2階席の客の手拍子が裏表にずれてったりしてましたからね。
個人的な今回のハイライトは「ミッドナイト・ランブラー」からの「ミス・ユー」でしょうかね。
60年代の曲と70年代の曲が10年代の音響で演奏されて現役でかっこいいのだからえらいことです。
無情の世界」で日本人のコーラス隊が参加したり、
布袋氏がギター弾いたりと今回ならではのサプライズもあり。
サプライズと言えば「ルビー・チューズデイ」もやるとは思いませんでしたね。
日本人に人気があるのでサービスで演奏したんでしょうか。
それ聞きながら「シーズ・ア・レインボー」も聞きたいなあと思ったんですけどね。
私がストーンズ聞き出したの中学生の頃なんですが、その頃好きだった曲なんですよね、レインボー。
あの曲でニッキー・ホプキンスのリリカルなピアノにチャーリーのスネアとミックの歌声が乗った瞬間、
10代の私には確かに七色の美しい虹が空にかかるのが見えたんですよね。
それはまるで魔法のように。
今回もドームで聞きながら私はすっかり10代に戻り、
初めて買ったギターでサティスファクションのリフをコピーした勉強部屋を思い出し、
放課後に悪魔を憐れむ歌を友達と延々演奏した部室を思い出し、
自分仕様のベスト盤をカセットで作って延々聞いていた冬の日や
西新宿にストーンズTシャツを買いに行った夏の日などを思い出し、
ついてはそれに付随する青春の苦く甘い日々のことなども思い出し、
最後にテイラーを加えたメンバー5人で肩を抱き合う姿を見た時には
「嗚呼、ストーンズが続いてくれて良かった、音楽が好きで良かった」と
何だか胸がいっぱいになってしまい、ちょっと泣きそうになってしまいました。
人生の色々な場面で聞いていた音楽ですし、彼らはそれをずっと現役で鳴らし続けているのですからね。
私も音楽をずっと続けて来て良かったなあと何故か自分の音楽人生を振り返ったりもして。
ストーンズを知らなきゃもぐりだぜなんて言うと森高千里におじさんと言われてしまいますが、
もうおじさんで構わないよ俺、とこの日ばかりは思った次第です。
ストーンズに感動してるおじさんのどこが悪いのかという話ですよ。
しかし私の周りで見ていたおじさんたちはこの日だけはおじさんじゃなく少年に戻ってましたね。
それだけは確かです。
帰り際、私の右隣に座ろうとしたガッキーはどこの席だったんだろうと気になりましたが、
彼もきっと少年に戻って楽しんでいたことでしょう。
もうゴーストはやめた、オリジナルで行く!と決意したことでしょう。
(あくまで新垣氏に似てただけで本人じゃないですが)
グッズを買おうかとも思ったんですがベロマークのシャツを着こなせそうもないし、
他のグッズも基本デザインがダサいので(ここに来てdisるのも何ですが・笑)
スルーして帰りました。
帰ったらサティスファクションのリフを弾いてみようかな、などと思いながら。
長々と感動しただの何だのと感想を書いて、たかがロックンロールじゃないかとお思いでしょう。
けどそれが好きなんですよね。
私は。