ブルーにあらためて、こんがらがって

先日はボブ・ディランの来日公演を観に台場まで赴き。
いぶし銀の歌声を堪能して参りました。
先月のストーンズ公演に思った以上に感動したのもあり、
気になる大物の来日は出来るだけ見ておこうと思い立ち、
早速某オークションにて「ボブ・ディラン チケット」と検索すると
ざくざくざくと出て来るのですよね(前売りはすでに売切れだったのです)。
見ると都合で行けなくなったので出品した云々書いてあり、
世の中はかくもボブ・ディランを蹴るほどの都合で溢れているものなのかと
複雑な思いを抱きながらもそれのうちのひとつに入札し、
何とか無事チケを入手することに成功しまして。


当日いざ会場のzepp divercityに着くとこじんまりとした紛れもないライブハウスで、
こんな小さな箱でディランを見られるのかと期待を胸に開演を待ちながら
ふと周りを見やるとお客さんの年齢層はやはり高く。
若い頃ディランをこじらせたようなおじさんたちがたくさん立っておるのですよね。
(まあ私も同様なんですけどね)
かつては自身もギター持ってハープを鳴らしていたであろう雰囲気の人が多く。
そんなおじさんに満ちた通勤電車然とした空間にてしばし待っていると客電が落ち、
いよいよディランご本人の登場と相成りまして。
ステージ中央にスーツにハットを被ったお洒落な出で立ちのおじいさんが現れ、
マイクスタンドを前にしわがれた声で歌い出したので
私は「おお、ディランだ!本物だ!」と感激し。
2014年にまさかまたディランの姿を拝めるとは思わなかったと、
その勇姿を目に焼き付けようとするも(そして心のフォルダに保存しようとするも)
目の前もおじさん群でいっぱいなのであまり彼の姿が見えないのですよね。
体を右に左にずらしながらおじさん群を避けながら何とかベストポジションを探っていると
3曲目の終わりで突如「ガピー!」という不穏な接触不良ノイズが鳴り響き。
おお、最近のディランはノイズも導入してるのか、かっこいいじゃん、などと思っていたら
どうやら機材トラブルらしく直後にステージが中断してしまいまして。
私が見る限りディランの弾いていた鍵盤の調子が悪いようで、
スタッフが何やかんや右往左往してるのですよね。
最初はジャム演奏などで場を繋いでいたバンドも完全に演奏をやめ全員ステージからはけてしまい。
その後なかなか演奏が再開されないのです。
そのまま10分弱くらいは何待ちかわからぬ状態が続きましたかね。
私の周りでは「シールド取り換えればいんじゃね?」
「代わりの機材くらいあるだろ」などと解決案をささやく者もあれば
「ディラン独りでやれ!」「アンプラグドで弾き語り!」などと野次を飛ばす者もあり。
かと思うとドラマーがステージに出て来て「すわ、何かやるのか?」と思いきや
シンバルを「しゃん。」と軽く叩いてまたステージをはけるというコントみたいな場面があり。
聴衆は「やらんのかい!」と総ツッコミし。
と思うと今度はディラン御大が上手からステージに出て来て
何やらスタッフとギターを見ながら思わせぶりに話をし出して。
「すわ、何かやるのか?」「ギター弾き語りか?」と客が湧き立つ中、
何もせずスタスタと下手にはけてしまうというまたまたコントみたいな場面があり。
聴衆は「横切っただけかい!」と総ツッコミするという(笑)。
その後またスタッフが出て来て解決か?と思いきや楽器触っただけだったりし。
流石にディラン独りでもいいから何かやってくれよう〜という空気が流れた頃、
再びディラン御大が今度は下手側からステージに現れ。
「すわ、今度こそ何かやるのか?!」と思ったら上手の方へとスタスタ歩いていっただけという。
聴衆はまたもや「横切っただけかい!」と総ツッコミするに至り(笑)。
流石はディランです。
お笑いにおけるテンドンを心得ているのですね。
言うなればディラン新喜劇です。
しかし20分以上は経過し、流石に新喜劇では済まされぬぞという空気が流れ出した頃に
「モニタースピーカーの不具合で中断しています。再開まで15分かかりますのでお待ち下さい」と
アナウンスと共に再び客電が付き。
え、モニタースピーカーなの?と意外だったんですが、
まあそう言うてるのだからそうだったのでしょう。
(スピーカーのスペアくらいすぐ用意出来そうな気もするんですが)
そんなわけで思わぬ休憩が入りましたがその15分後にようやくステージが再開しまして。


今回は2000年代の新しめな曲がメインのセットリストで、
2000年代以降のディランを追ってなかった私は当然知らぬ曲ばかりだったんですが、
バンジョーやスティールギターを擁したバンド演奏が素晴らしく、楽しめましたね。
ディランはギターを一切弾かず、スタンドマイクで歌うかピアノを弾きながら歌うスタイルで。
ピアノもまるで酒場で酔ったおじさんがご機嫌に弾いてるかのようなユルい感じで良かったですね。
ディランといえばのハープも存分に吹きましたし。
ハープはあまりベンド奏法を使わない「プヒー」という素朴な音が中心でしたが、
それもバンドの音に合ってました。
結局私が知ってる曲は5、6曲だったんですが
(ディランのレコードは結構持ってる方だと思うんですが)
それもレコードの通りに歌わず節回しが全く違うのでどれも新曲みたいに聞こえるのですよね。
歌詞が出て来てようやく「え、この曲だったの?」と気付くという。
これはもうディランあるあるですね。
個人的には「ブルーにこんがらがって」が聞けたので良かったですけど。
(もっと聞きたい曲いっぱいあったんですが)
それこそ酒場でウイスキーちびちびやりながら聞きたい感じのサウンドでしたが、
ディランこじらせたおじさんたちにみっちり囲まれて
2時間半立ちっぱなしで聞くのは何だか苦行のようにも思え。
だんたん腰も痛くなって来るし辛くなって来るのですよね(笑)。
しかし私がディランを聞き始めた高校生の頃は難解な歌詞の原文と対訳を読みながら理解しようと
それこそ苦行に苦行を重ねてだんだん好きになって来たわけで、
これは「これからも苦行しなさい」というディランからのメッセージなんだなと
素直に受け入れましたけどね。
原曲と歌詞しか合ってない初めて聞く旋律の「風に吹かれて」を最後に聞き、
風に吹かれてる答えはこの先も見つかりそうにないなあとぼんやり思った次第です。
しかしまあ総じて行って良かったです。
これからも私のディラン苦行は続くのだなと覚悟出来ましたしね。


終演後は等身大のガンダム像を拝み、お台場の人工的な街をぷらぷら歩きながら、
風に吹かれながら帰りました。
光の葡萄を思わせるネオンの青い色を遠くに眺めつつ。
ブルーにあらためて、こんがらがって。