突然ダンボールタウン

居を移すための荷作りを続けるうちに多数のダンボールが積み重なり、
まるで建築物のように部屋の真ん中にそびえ立ちその背を伸ばしてゆくので、
その隙間に道を作り川を流し、駅を作り列車を走らせ、
小さな街のようなものを形成したい衝動に駆られたりもするのですが、
今から物をどかし移動し空っぽにするのに逆に街を形成してどうするのだと思い直し、
黙々と梱包作業を続けるに至るというそんな冬の夜を過ごしているこの頃です。
しかし新宿の高層ビルの如く高く積み上がるダンボールはある種建築然とした佇まいで、
これらの中の荷物をすべて運び終え空になった暁にはダンボール群を蹴飛ばし破壊し、
街を壊滅せむと暴れるゴジラの如く振る舞ってやろうかと夢想してやまぬ私がいます。
ぎゃおうと叫びながらダンボールにキックし或いはチョップし破壊するのです。
その後残骸を自分で掃除せねばならないのがつらいところですが。


積み上がるダンボールは時には机の代わりにもなり、作業台としても機能し、
ネギを凌ぐほどの万能であるなとその有能っぷりに感心する次第ですが、
しかもこれ、寒い冬に最適な温かさを発揮するらしいのですよね。
よく屋外で生活している人がダンボールのハウスを作り、
ダンボールのベッドで寝ている光景を見かけますが、
暖を取るのにも適しているらしいのです。
ダンボールのダンて暖という漢字を当てるとより温かみが増して良いと思うのですが。
暖ボール。
その上に寝てみたくなる字面です。
ダンボールを駆使して独自のハウスを作っている人を見ると
秘密基地みたいで楽しそうだなとつい思ってしまうのですが、
それこそ攻撃に弱いのが少々難点ですよね。
ゴジラに襲撃されたらあっという間に壊滅です。
まあゴジラに襲撃されたら新宿の高層ビル群もあっという間に壊滅ですけどね。


部屋に積み上がるダンボールのビル群をテーブル代わりにグラスを置きながら、
ゴジラの休息とばかりにビールなんぞ飲んでいる私です。
まだ準備は終わらないのです。