物を持つ、物を移す

年始のバタバタもようやく落ち着き、
我が喉を侵食せむと暴走していた風邪も何とか沈静化に向かい、
気が付けばもう1月も2週間を過ぎているという。
年が明けても早いのです。
時の流れは。


しかし日々は相変わらず慌ただしく、
バタバタとする中さらに引越しという案件も浮上し、
居を移すという最大の面倒くささと対峙せむと年末辺りから頑張ろうなどと言いつつ、
忙しいし、風邪気味だしな、うん、と後回しにしていたツケがここに来て回り出しており、
泣きながら荷物を片付けているこの頃です。


しかし本というものは大変重く、
本棚からせっせとダンボールに移す過程に於いて己の腰を容赦無く打撃するのであり、
「やめろ!全て残らずブックオフの棚にぶち込んでやるぞてめーら!」と恫喝するも、
ブックたちは「やれるもんならやってみな!」とドラマ内の香川照之の如き憎々しい表情で言うので、
「いや…売らないけども…!」と再びダンボールに詰め込むという
何だかわからないプレイの如きやり取りを繰り返している私です。
このブック群の重みが我が人生を豊かにしているのだと繰り返し言い聞かせながら。
(中にはブックオフの棚に売っぱらってしまった輩もいましたが)


それらブック群と同様にCDの山も溢れ返っており、
CDプレイヤーが壊れている現在、ただのデータの容れ物と化したこのディスク群をどうしてやろうかと思いつつも、
これらの音楽によって己が形成されて来たという強い思い入れもあり、
やはり新しい居に運ぶべく黙ってダンボールに移すという作業を繰り返しています。
まあかなりの数をディスクユニオンの棚に売っぱらいましたけどね。
誰かがユニオンで買って持ち帰ってくれれば幸いですが。


しかし断捨離という言葉が世を席巻して久しいですが、
そんなものは安易に断捨離出来る程度の価値の低い物ばかり購入している三流消費者の戯言であり、
世に蔓延る断捨離関連の書籍などはひと言「捨てなさい」と言ってるだけに過ぎない薄っぺらい内容で、
そんな駄本を買うような輩は豆腐にぶつかって死ねば良いくらいに思っている私ですが、
漫画家中崎タツヤ氏の「もたない男」という本を読んだ時は
「この人だけが断捨離という言葉を使って良い人だな」と感心したものです。
何しろ最低限の漫画を描く道具以外、本当に何も持たない生活を送っているのです。
見事なまでの空っぽな部屋で暮らしているのです。
流石にここまで来ると憧れを抱くほどです。
私が何故この本を読んだかというと歯医者の待ち合い室に置いてあったからで、
この歯医者、何故か断捨離関係の本ばかり10冊ほど置いてあり、
こんなに買わないと実行出来ぬ断捨離などやめちまえ阿呆、と思いながら歯の治療を受けたのですが、
そこで読んだ断捨離関係の本の中でもこの作品だけは凄いなと思ったものです。
中崎タツヤ氏の本で打ち止めとなったのでしょうか、あの歯医者さんの断捨離の知識を得る行為は。
その歯医者にはその後行ってないし、今後も行く予定がないので
「断捨離うまく出来ましたか?」と聞く機会を得られていませんが。


何もない生活に憧れはしますが、なかなかそうもいきません。
果たして今持ってるこの物はいるのかいらないのかどちらでもないのか。
よくわかりませんが取りあえず今持っているものは最大限大切にしないとなあと思っている私です。
例えばシャガールみたいな青い夜とか、夢にまで見た淡い夢とか。
あの日生まれた恋心などとか。