すばらしき日曜日 貸切り図書館15冊目

あっという間に2月に入り、今年も怒濤のような早さで時が流れています。
そんな如月の幕開けは毎度molnにて催している「貸切り図書館」でございました。
15回目となる今回のゲストには加藤千晶ガッタントントリオとtico moonのみなさんをお迎えして。
おかげさまで大盛況で終える事が出来ました。
tico moonさんは早くも貸切り図書館2回目の出演となったわけですが、
前回はギターの影山さんが紹介する本を忘れて来るという
イベントの根底を覆すミステイクにより伝説を作りかけましたが(笑)、
今回はきっちり本を持参して来てくれました。
加藤千晶さんとは私が以前やっていた各駅停車というバンドと10数年前にライブで共演して以来の再会で、
ギターの鳥羽修さんにはこれまた10数年前にバンドで1曲プロデュースしていただいた経緯があり。
何だかんだで今回10数年振りに絡んだわけです。
しかし久々にお会いしたお2人は風貌が全然変わっておらず、
10数年前がついこの間のように感じられて不思議な思いでしたね。
加藤千晶さんとtico moonさんはご近所同士なんだそうで、
「あの店知ってます?」などとはるばる鎌倉に来て東京の地元話で盛り上がっており、
冒頭から良い雰囲気で。
両者ともきっちり時間通りにセッティングとリハを終え、大抵押すところを巻きで進行し。
お客さんも開場前からきちんと並んで、開場するとすみやかに前列から着席するという優等生振りで、
演者も観客も実に心得ているなーと感心してしまいました。


そんなスムーズ進行で始まったライブですが、
1番手のtico moonさんはハープとギターの美しいアンサンブルで会場を魅了し、
合間には影山さんがぼそぼそと放つトークで爆笑を掻っ攫い、
そのギャップでお客さんのハートをがっちり掴んでおりました。
流石のステージングでしたね。
「朝の連ドラ見るのとアンケートを読むのだけが趣味」という影山さんのひと言により、
お客さんみんなが「彼の趣味を増やしてあげないと!」と、
ペンを手にせっせとアンケートを記入する様に心温まった次第です。
本の紹介のくだりでは友加さんは文・永井宏、絵・福田利之「みんなねている」を取り上げて。
こちらは永井さんの短い言葉と福田さんのイラストが綴られた絵本で、
友加さんの優しいハープの音色に似合うぴったりなセレクトだなと思ったのですが、
友加さんのお勧めポイントは表紙の真っ白具合なんだそうで。
この本、私の家にもあるんですが帯を取ると本当に真っ白なんですね。
帯を取ったことがないので気が付きませんでしたが。
そういう本の愛で方があるんだなーと新鮮に感じた次第です。
影山さんは前回忘れた分と合わせて2冊とのことで、
ポール・オースター「偶然の音楽」と、駒沢敏器「語るに足る、ささやかな人生」を紹介してくれました。
アメリカ文学の作家と翻訳家ですが、影山さんのギターのコード感の背景にはアメリカの大地が広がっているのでしょうか。
どちらもらしいセレクトだなと思った次第です。


続いての加藤千晶さんは鳥羽さんのギターとウッドベースをバックにピアノを軽快に叩き、
お喋りをするように軽やかに歌ってくれました。
彼女の歌はすぐに覚えて口ずさみたくなる人懐こい猫みたいな歌ばかりで、
とてもチャーミングなステージでしたね。
今回molnでは木下綾乃さんの「ねこをもらったよ」という絵本の原画を展示しているので、
猫の曲があったらぜひ歌って下さいと事前にリクエストしたら
「あたし、ねこ」と「10センチ」という曲を歌ってくれて。
「10センチ」は千晶さんの家に最近通い猫が来るようになり、
猫が通れるように雨の日も雪の日も玄関のドアをいつも10センチ開けるようになったというエピソードから生まれた新曲で、
猫へのあたたかい眼差しが感じられる歌詞にぐっと来てしまいました。
木下さんの猫の原画と呼応していてとても良かったと思います。
お客さんに小さなお子さんもいて、
最初は飽きちゃうかなーという様子だったんですが、
ついこの間までNHKみんなのうたで流れていた「四つ角のメロディー」や
おかあさんといっしょなどで流れていた歌などに
「わ、知ってる歌だ!」と反応が良くなってノリノリになったのが微笑ましかったです。
千晶さんが紹介してくれた本は複数あるんですが、
まず取り上げたのは内田百けん「第一阿房列車」で。
電車が好きだという彼女の趣味を語ってくれ、続いて電車にちなんだ曲も歌ってくれました。
あとは「暮らしの手帖」のいちコーナーを書籍化した「すばらしき日曜日」という本で。
こちらは編集長の花森さんが月曜になると社員さんに
「昨日の日曜、何してた?」と聞いていたところから始まった企画なんだそうですが、
千晶さんの歌にはそういえば日曜日感が漂っているなあと思った次第です。
ほんわか楽しくてほんの少しだけ切ない感じというか。
その次には本多勝一「極限の民族」というルポ本が来て、
いきなり角度がぐいん、と曲がったなあという感じだったんですが、
文中に出てくるというエスキモーの話を聞いてたら無性に読みたくなってしまいましたね。
幅のある本のセレクトにへえーと感心してしまいました。
あと稲垣足穂の本なんかも軽く紹介してくれたんですが、
まだまだ掘れば面白い本のエピソードが聞けそうだなあと思った次第です。
(実際打ち上げで聞けました)
鳥羽さんの方は「本は読まない」とのことで残念ながら紹介コーナーはなかったですが、
巧みなギタープレイで魅了してくれました。
鳥羽さんが脱退する直前くらいのカーネーションのライブを私は見ており、
そのすぐ後プロデュースしていただく運びになったんですが、
鳥羽さんのスタジオに通って作業していた頃の景色や雰囲気を何だか懐かしく思い出した次第です。
その鳥羽さんのスタジオも今やなくなったそうで。
10数年というのはそんな感じなんだなあとしみじみした次第です。
そんな感慨にふけりながら楽しんだステージも無事終わりまして。


その後打ち上げということで軽く食事したんですが、
千晶さんが絵本作家の加古里子さんの大ファンというかマニアなんだそうで、
ヤフオクで著作が出る度に入札しいつも同じ相手と競り合ってるという話や、
CDジャケットに絵を描いて欲しいと直接電話でオファーして困惑された話など、
面白いエピソードをたくさん聞けました。
この話を今日のステージで披露すれば良かったのにと思った次第ですが。
そちらはまた次回にでも聞かせていただきたいものです。
そんな本と音楽の話をたくさん聞けたすばらしき日曜日でした。


貸切り図書館ですが、次回は3月29日(日)に
ビューティフルハミングバード中山うりさんをお迎えしてお送りします。
そちらもぜひよろしくお願いしますということで。