花咲くハーモニーとパン 貸切り図書館17冊目

先日鎌倉molnにて催された「貸切り図書館17冊目」も大盛況のうちに終了しました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。
テニスコーツさんとsakanaさんを迎えた今回は予約開始から応募が殺到し。あっという間に満席となってしまったのでとても貴重な一夜になったと思います。
テニスコーツの植野さんとさやさんは私の大学のサークルの先輩で、会うのも久し振りだし仕事で絡むのは今回が初めてだったので若干緊張もしてたんですが、会場にふらりと現れたお2人は昨日まで会ってたかのようなフランクさで。そのあまりの変わらなさにすぐに学生時代の気分に戻されてしまった次第です。
リハ時、植野さんに「ギターはラインですか?」と聞くと「いやマイクで拾おうと思って」とのことでマイクを用意するも「あ、やっぱ邪魔だからマイクいらないや」とやおら生音で弾き出し。さやさんのマイクも用意したものの結局ほとんど使わず生声で歌い出し、2人が音を出せば音楽が始まるといった感じで、PAとかサウンドチェックとかそんなちまちましたものはいらないのだなーと感心しながら眺めていると、さやさんが延々ギターソロの練習を始めたり、フレーズを間違えては植野さんにツッコミを入れられたりといった自然体過ぎるリハが展開され。その様子にsakanaさんも我々も一同和むに至ったんですけどね。リハ後には会場の外の階段に座り込んで延々練習し始める2人の姿に「そういや学生時代にこんな光景よく見たなー」と20年近く前の記憶が呼び戻されてしまった私です。
sakanaのお2人は会場に着くなり手際良く自身で機材を並べアンプをセッティングしマイクを準備し出し。ただリハ順が違うので「あのー、リハはテニスコーツさんが先なんですけど」とボーカルのポコペンさんに言うと「あらやだ!すみません〜!」と大きなリアクションをしバタバタと片付け始め、その慌てた様子とクールでお美しいその容姿とのギャップに萌えという感情をつい抱いてしまった私です(笑)。その後は2人で入念にセッティングをし、リハーサルをしていたのが印象に残りました。テニスコーツの2人とのセッションのリハも最後にしておりましたが、さやさんとポコペンさんの美しいハーモニーには「おお〜」と思わず声が漏れてしまった次第です。
そんなリハを経て開場時間になり、生憎の雨模様の中ながらもたくさんのお客さんにご来場いただきまして。(去年「貸切り図書館」に出演していただき、来月もmolnに出演予定のHARCOくんファミリーも来てくれました。)
sakanaさんはポコペンさんのソウルフルな歌声とそれに寄り添う西脇さんの繊細なギターも共にとても素晴らしく。2人のギターが織りなすコード感もたまらなく美しく、聞き惚れてしまいました。ぐっと世界に引き込まれる声の強度があるのですよね。
本の紹介のくだりでは西脇さんは湯本香樹実著「夏の庭」を挙げてくれて。ひとり暮らしの老人と少年たちの交流を描いた作品で、子供の視線や死をテーマにしているところなど、何となくsakanaの歌世界に通ずるものがあるのかもしれないなと思った次第です。「あの世に知り合いがいるって心強くないか?」という台詞が好きで何度も読み返しているそうで、確かにはっとさせられる言葉だなと思いました。(私は中学生くらいの時に読んだので内容すっかり忘れてましたが、再読してみようと思いました。)
片やポコペンさんはバーバラ・クーニー著「ルピナスさん」という絵本を紹介してくれました。レコーディングに参加してくれた中村まりさんから贈られた本だそうで、読んでとても感動したとのことです。「まりさんありがとう!」と感謝の念を表明しておりました。(「ルピナス」という曲もとても良かったです。)
テニスコーツはさっきの階段での練習からの続きといった感じで、さやさんの歌声と植野さんのギターが鳴ればもう瞬時に世界がそこに立ち現れるのですよね。
さやさんは歌いながら会場を歩き回りお客さんの歌声を引き出したり、会場に見に来ていた来日中のニコラス・ケルコヴィッチ、エンジェルの側まで行きコーラスをさせたりと(彼らにインスパイアされて作った曲だからだそう)自由そのもので、その少女のような無垢な声と佇まいは存在自体が音楽と言っても良いくらいで、小手先じゃなくて人間そのものが音として鳴らされているようであり、見ていて圧倒されたし、実に感動的でしたね。
今回鎌倉のパラダイスアレイというパン屋さんがイベント用に「さかな テニスコーツ moln」と名前の入ったパンを焼いてくれたのですが、植野さんはライブ中それを千切っては食べ、さらにはパンをピック代わりにギターを弾くなどこちらも奔放で(笑)、さやさんに合わせてギターを抱えて客席まで歩き、最後には客席真ん中の椅子に上って演奏するなどフェスのような様相で盛り上げてくれました。
本の紹介のくだりでは植野さんは「本を持って来るの忘れちゃって」とのことでしたが、セルバンテスの「ドン・キホーテ」を挙げてくれました。彼曰く「面白過ぎて抱腹絶倒」とのことですが、こういう有名過ぎて読んでない名作を改めて読んでみるのも良いかもしれないなと思った次第です。
さやさんは「星の王子さま」や「ムーミン」などを紹介してくれましたが、彼女自身童話の登場人物みたいだもんなあと納得してしまった次第です。(持って来てくれたのは「小さな王子さま」というタイトルの新訳の方でした。)
最後にはsakanaの2人とニコラス・ケルコヴィッチとエンジェルもステージに合流してセッションが始まり。鎌倉を舞台に国を越えた美しいハーモニーが花咲き、それはもう素晴らしかったですね。ポコペンさんはさやさんの不思議な歌詞に演奏中「え、それ日本語?」と真顔で聞いたり、さやさんが指でリズムを取るのに合わせてリズムを取ったりし。さやさんも天使のような笑顔だったし、モデルのような佇まいのエンジェルも女性陣がみなチャーミングで素敵でした。植野さんはしっかりとバッキングを支え。西脇さんはギターのフィードバック音でハーモニーに陰影を与えておりました。
アンコール最後に一同が歌ったのはビル・ウェルズのカバーで、どこか切なさを感じさせるリフレインが心に染みました。見ている人全員があのリフレインをポケットに入れて家まで持ち帰ったことでしょう。とても特別な夜になりました。
終演後は出演者と関係者で某居酒屋チェーン店で打ち上げをし。ニコラスもエンジェルも遥か日本の鎌倉まで来て居酒屋チェーン店でたこ焼きを食べるとは思わなかったことでしょう(笑)。陽気に酔っぱらう植野さんの様子を見ながら「そういや学生時代にこういう光景よく見たなー」と20年近く前の記憶が呼び戻されてしまった私です。それこそ20年鳴らし続けて来た音楽の強みを改めて実感し、最後のリフレインを繰り返しながら帰った私です。


貸切り図書館、次回は5月23日に友部正人さんを迎えてお送りします。私は彼の20年来のファンなので今から楽しみです。そちらもよろしくお願いしますということで。