貴婦人と測量工夫

連休中も連休明けも変わらず地味に仕事をしており、合間を縫っては庭の草をむしったり近所を散歩したりと老人の如き生活を送っているこの頃ですが、録音作業やライブに向けてのリハなどもぼちぼち行っています。来月には自分のライブ以外に夜の科学オーケストラのライブもあるので、音をたくさん鳴らしていかないとなあと思いながらギターをポロンと爪弾いたりしています。
近頃は夕方になると近所の飼い猫がふらっと我が家のベランダに現れることが多く、「ワタシここが気に入ってるの」とでも言いたげな感じでその場に座ったり寝そべったり何か哲学的なことを考えている様子で、長いときは40分くらいずっといるのですが、特にじゃれてくるとか餌を要求して来るとかこちらへの接触はなく、ただただ高貴な雰囲気を醸しながらそこにいるのです。当初は私が近付くと警戒して離れたりしていたのですが、何回か挨拶をしているうちに(一応人間の言葉で「こんにちは」を言うようにしているのです)向こうも「何だ、この家の住人か」とわかって来たようで、近くにいても逃げなくなり。私はそんな彼女(メスかどうかはわかりませんが)のキュートな写真を撮りながら、向こうは優雅にその美貌を撮られながら時を共有するという不思議な猫時間を過ごすようになって久しく。
彼女はいつも赤いリボンを首に巻いているので私は「リボンちゃん」と勝手に命名し(猿にシャーロットと命名するのと同じくらい自由なのです)、指を鼻先に向けてチッチッと舌を鳴らしたりして毎回のように接触を試みるのですが、「あなたには用はないの」とツンとした感じで全然こちらに懐かず、毎回距離を保ったままの関係が続いており。それでも定期的に姿を現すので何とか近付きたいものだと思い、猫マスターの山田氏に「猫の好きなおやつって何ですかね」と尋ねそれを入手し、そっとベランダに置いてみる作戦を遂行してみたところ、最初こそ「ワタシ別にお腹減ってないし」というような感じで見向きもしなかった彼女が、何日かしたらもの凄い勢いでそれをカリカリ食べているのであり。私は「わ。食べてくれた!」と感激し、「それあげたの俺やで〜」と言いながら近付くと「仕方ないわね」という感じで少し撫でさせてくれて。ようやく距離が少しだけ近付くに至ったのですが、それでもあんまり触られるのは嫌らしく、すぐにちょっと離れてまた高貴な雰囲気を醸すという天性のツンデレ対応を見せるので私も仕方なく距離を保って共に哲学タイムを過ごすという案配なのです。
「彼等はブールヴァールを歩く貴婦人のやうに悠々と歩く。また市役所の測量工夫のやうに辻から辻へと走ってゆく」と梶井基次郎が「交尾」という作品で猫の美しさを描写したように文学的に去ってゆく彼女を眺めながら夜の到来を迎えるといった交流を続けているうち、ある日には彼女の後方にもう1匹別な猫がついて来たことがあり。その子は以前にも玄関を開けたら目の前に座っていたことがあり、目が合うと「うわあ知らない人だ!」と吃驚して去って行ったという経緯のある子でしたが、リボンちゃんが「あそこの人は怖くないわよ」と進言し誘って来てくれたのでしょうか。2匹現れることもあるのだなと思いながら私はこの2匹のユニットに「三毛andカリントウ」と勝手に命名し(能年ちゃんの活躍を祈る意味も込められているのです)、写真など撮りつつ、そうだおやつをあげようと皿に入れてあげるとそのもう1匹の子がカリカリと食べ始めて。リボンちゃんの方は「ワタシいつも食べてるから」とでも言いたげな雰囲気で遠くを見つめ、もう1匹の子はというとさっきまで警戒していた様子なのにおやつを食べた途端急に私に近付いて来るのであり。おやつ効果凄過ぎじゃないかと思いつつ私はその子を撫で、その子も「どうぞどうぞ〜」と撫でられるがままで、何だこの神対応はと思いつつしばしの猫かわいがりタイムを楽しんだのですが、猫によってこうも対応が違うのかと感心した次第です。
しかし三毛andカリントウのライブが行われたのはその1回のみで、その後はやはりリボンちゃん単独の握手会のみが行われているのですが、相変わらず彼女は塩対応なのであり。彼女は私には興味なく、家の中の方に興味があるのか窓をずっと覗き込んでおり、「あの棚に登ってみたいわね」とでも言いたげなのですが、さすがに他所の子を家に招き入れるのも何であり。結局一定の距離を保ったまま共に哲学するという関係が続いているのです。まあでもそんな付き合いもありなのかもしれません。
そんな感じで猫と交流しながら招き猫を作りながら、過ごしているこの頃です。