鎌倉俳句気分

先日は鎌倉molnにて俳人の堀本裕樹さんを迎えてモルン句会なるものを催し、たくさんの方に参加していただきました。ご参加下さった方々、どうもありがとうございました。ピース又吉氏の俳句の師匠として(又吉氏の芥川賞受賞効果も相まって)各メディアで注目されている堀本さんですが、縁あって今回句会をやっていただける運びとなりました。
そんな堀本さんが鎌倉にやって来るということで句会は満席となり。今回は「団栗(どんぐり)」「秋の海」「自由題」の3つのテーマが出され、事前に句を提出するということで、私も早速歳時記を入手しうんうん唸りながら句を捻り出しました。歳時記というのは季語やその季語を使った句の例、解説などが書いてある俳句のガイドブックのようなもので、読むだけでも面白いのですよね。世の中にはこんなに詩情豊かな言葉があるのかと発見があるのです。しかし季語を必ず入れて五七五の17音に情景や心情や主張やドラマやらを落とし込むのは至難の技で、かなり難儀しましたね。結局自由題の方は時間がなくて断念し、団栗と秋の海だけ何とか絞り出し句会に臨みました。
句会に参加された方は30代から60代くらいまで、男女半々20名ほどでしたかね。俳句初心者の方が多く、程よい緊張感が漂ってましたね。堀本さんはそんな緊張をほぐすように柔らかな語り口調で句会を進行してくれまして。まずは先に提出された全員の句が無記名でランダムに記されている用紙を渡されまして。その全員分の句を読んで自分が気に入ったもの、秀逸だと思ったものを5句選出するのですね。(勿論自分以外の作品です)。その中でも一番良いと思ったものには特選というものを付けるのです。つまり佳作が4つ、特選が1つという感じです。で、その佳作には1点、特選には2点という感じで句に点数が付けられて行くのです。佳作にたくさん選ばれれば選ばれるだけ点数が上がるし、特選を取れば倍の点数が付いて上がるというシステムです。で、この句の選出というのが意外に難しいものなのですね。これも良いけどこっちも捨てがたい、これはちょっと惜しい部分あるけど好きだなあなどと、あれこれ迷うのです。そんな感じでみんな唸りながら迷いながらも何とか5句を選びまして。選んだら今度は「誰々選」と自分の名前を言い、その5句を読み上げるのです。(特選の句は最後に読みます)。これが面白いもので人によって選ぶ句がバラバラで、「え、それ選ぶの?」とか「お、それを選びますか」などと人の審美眼が新鮮に感じられるのですね。勿論自分の句が選ばれれば「よっしゃ!」と内心ガッツポーズをしますし。
で、みんなが選句をしたら今度は点数の高い順に句を見ていき、「どうしてこの句を選んだのですか?」と選者に評を聞いていくのですね。これがまた面白いもので他者に評価されることによってその句が名句になっていくのですね。深読みや誤解も含めですが、「なるほどそう読めるのか」「そうか確かにその解読は良いな」など気付かなかった魅力が発見されるのです。そして最後に「この句を詠んだのはどなたですか?」と作者が明かされ。そこで初めて作者本人によって解説が語られるのですが、本人の解説を聞くと「そうかそういう意図があったのか」とまたひとつ新たな発見があるのです。そんな感じで句をひとつひとつ全員が批評し解説し、深く味わうというよく出来たシステムなのです。何しろ公平ですしね。そこに堀本さんがまたプロならではの評をしたり改変例を出したりとまとめていくという。ちなみに私の詠んだ句と獲得した点数は以下の通りです。
ぶんぶんと団栗独楽が威張りけり(4点)
暖色で画家は描きぬ秋の海(3点)
団栗の方はひとつ特選をいただき、秋の海の方は堀本さんご本人に佳作として選んでいただきました。(よっしゃ!となったのは言うまでもありません)。初めてにしてはまあまあなのかもしれませんが、まだまだ勉強の余地ありという感じでしょうか。団栗の方は「団栗独楽を昔よく作ったので懐かしい」とか「小さいのに威張ってる様子が可愛らしい」といった評をいただきまして。秋の海の方は「寒色であるはずの海の色を暖色に描くという視点が面白い」というような評でした。私のイメージでは紅葉や夕日の色やらを反射して海が温かみのある色で佇んでいる絵画、を17文字に落とし込んでみたんですがどうだったんでしょうかね。ちなみに全体で点数の高かった句は
秋の海思ひ思ひの距離を置き(8点)
湯気かぶり呼ぶもうれしい栗ごはん(8点)
散歩道青団栗といふ句点(7点)
でしたね。地元鎌倉のCOBAKABA食堂さんでも句会を催しているらしく(食堂店主の内堀さんも今回参加されてました)、その句会の先生である小助川さんという方が「秋の海〜」と「散歩道〜」の作者で、両方高得点を取って流石だなという話になったのですが、当の本人はこの日はなぜか欠席しており、「小助川さんて一体何者?」と会場で話題になっておりました。(後に私は本人に会うことになるんですが)。「思ひ思ひの」という距離感が鎌倉の秋の海の情景をうまく描いていると主に鎌倉人の支持を得ていましたね。あと青団栗を句点に見立てる視点が巧いという評で。(青団栗という言葉があるのを今回初めて知りました)。美味しそうな「栗ごはん」の句は「情景が思い浮かぶ」と共感を集めていましたが、犬や猫を題材にした句などもやはり共感されるのか点数を集めてましたね。歌人穂村弘氏が表現には「共感(シンパシー)」と「驚異(ワンダー)」があって詩や音楽の本質はワンダーの方、という旨のことを言ってましたが、句会では共感を呼ぶ句が多く出る傾向があるのかなと思いました。まあまずは人に理解してもらうものを作るのが第一段階ですからね。ちなみに私が選んだ5句は
逆立ちの叶ひて仰ぐ秋の空
どんぐりも集める子の背もまるき森
秋の海足を晒して澄むこころ
団栗を拾う子もなき通学路
どんぐりに真剣まなこで箸持つ児(特選)
でした。特選の句は私がずっと「どんぐりまなこ」で句を作ろうとして結局うまいのが出来なかったので、「そうかこういう入れ方があったのか」と膝を打つ勢いで選びました。通学路の句も光景か浮かぶしどこか寂しさもあり、良いなあと思いましたね。他に印象に残った句は
団栗や踏めば地球の音がする
柘榴割れ鬼が歯を見せカと笑う
透明な生き物になれ秋の海
白線の海へと続く運動会
などでしょうか。「団栗や〜」は団栗という小さいものから地球というスケールの大きさへ飛躍するダイナミックさがウケてましたね。「柘榴割れ〜」は柘榴のグロテスクさをユニークに表現してあると好評でした。白線の句はCOBAKABA食堂の内堀さんの力作で私は最初ピンと来なかったんですが、海辺の街の運動会で地面に引かれた白線がそのまま海に続いていくイメージを聞いてなるほど綺麗だなあと思いましたね。この句は堀本さんが特選にしていました。あとは
ひんやりと波待つ人をつつむ海
という句、私は言葉使いが良いなと思いつつ季語が入ってないので選から外したんですが、これを堀本さんが季語を入れるならということで
秋の海つつむや波を待つ人を
と直したのはなるほどと思いましたね。「ひんやり」という感覚は「秋に海」に入っているので省略出来るとのことで。あと言葉の順番を入れ替えるだけでだいぶ印象が変わるんだなと思いましたね。あとは「律の調(りちのしらべ)」という堀本さんも初めて見たという珍しい季語を使った句もあったり、鎌倉在住の方ならではの固有名詞や共通言語が見られたり、地域によって句の特徴が違うんだなと発見がありました。あと鎌倉在住のフラワーアーティストのCHAJINさんが詠んだ一句
花活けは花と器のプロレスだ
はこの日一番の笑いを取っていました。(彼はプロレス好きなんだそう)。こういうキャラの滲み出た句も良いなあと思いましたね。
その後もすべての句についてあれやこれや語り、気付けば3時間が経過しており。初めてのモルン句会は無事終了を迎えたのでした。若干緊張しましたが楽しかったし、あっという間でしたね。みなさん早くも次回の開催を待ち望んでおりました。
終了後は堀本さんと内堀さんと打ち上げ&反省会ということで近くのお好み焼き屋に行ったのですが、何と句会を欠席していた噂の小助川さんがそこに合流して来まして。聞いたら別な句会に出席していて来られなかったというまさかのダブルブッキングだったことが判明したのですが、いくつもの句会に出るほどの俳句好きだそうで、興味深い話をたくさん聞けましたね。堀本さんも話に熱が入り、気付けば4時間ほど俳句談義に花を咲かせてしまいました。初めて句会に参加したばかりだというのに何ということでしょうか。俳句というと地味なイメージを抱きがちですが、個人的にはヒップホップとお笑いと同じくらい言葉の競技、芸術として面白いものだと感じましたね。若い人も親しむと良いのではと思った次第です。
次回の開催は未定ですが、ぜひ興味持たれた方は参加してみては如何でしょうか。
17文字で開かれるかもしれません。新しい世界が。