言葉が煌めく夜 貸切り図書館28冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の28回目をwafflesさんをゲストに迎えてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。私はかつてバンド時代に一度wafflesさんと共演しているのですが、それももう10年前だというのだから時の流れというのは早いものです。今回wafflesさん側からぜひmolnでライブをという嬉しい申し出があり実現に至りました。
wafflesさんはサポートメンバーを交えた5人編成で、HARCOくんのバンドでも大活躍していたギターの石本氏がここでも手腕を発揮しておりました。美メロにキラキラしたギター、耳に残るとても繊細な言葉遣いの歌詞を歌うボーカル恭子さんの声も素晴らしかったですね。ギターポップネオアコ好きの私にはこの胸キュン感はたまらぬものがありました。恭子さんの明るいキャラクターも相まってとても和やかなステージでしたね。デビュー曲から新曲までキャリアを感じさせる充実のセットでした。
本の紹介のくだりではボーカルの恭子さんセレクトのものを紹介してくれまして。ラインナップは以下のようでした。
辻村深月著「太陽の座る場所」
笹井宏之著「てんとろり」
向田邦子著「家族熱」
今回恭子さんはわざわざテキストを用意してくれて、紹介する本の中で印象的な文章や台詞などを引用し、関連する自作の歌詞や短歌なども合わせて載せていて、とても内容が入りやすかったですね。
辻村深月さんの「太陽の座る場所」は学校という空間の人間関係の話だそうで、読んでいて学生時代の甘くもあり酸っぱくも苦くもある空気を思い出したそうです。wafflesさんには学校を舞台にした歌も多いそうで、そんな学校話の後にその歌を演奏してくれました。
笹井宏之さんはもう亡くなった歌人なんですが、この人の短歌がとても好きだという恭子さんがいくつか作品を朗読をしてくれました。テキストに全部書いてくれていたのでこちらでもいくつか引用したいと思います。
一様に屈折をする声、言葉、ひかり わたしはゆめをみるみず
ゆでたまごの拷問器具を湯へひたし きれいなサンドウィッチをつくる
なにもかも捨ててしまったはずなのに 私のおくに気球があるの
「てんとろり」笹井宏之著より
「ゆめをみるみず」とか「ゆでたまごの拷問器具」とか「私のおくに気球がある」などのフレーズが恭子さんの琴線に触れたそうで、ぜひ読んで貰いたいとお勧めしてくれました。私も短歌が好きなのでこれはぜひ読んでみようと思いましたね。恭子さんの自作の短歌も載っていたんですが、こちらもとてもロマンチックで素敵でした。(後で穂村弘さんは好きですかと聞いたら穂村さんも好きだと言っておりました)。
次に紹介してくれた向田邦子さんの小説も読んでいてはっとさせられる言葉が頻出するそうで、テキストにいくつか引用してくれていたのでこちらも紹介したいと思います。
「人間って奴は、いい方にも自分を飾るけど、悪い方にも飾るんだなあ」(「家族熱」より)
「もっといい花咲かせるために、涙のんで、枝一本切ったんだよ。そう思わなきゃ、いらんねえや」(「蛇蝎のごとく」より)
「夕暮れどきは、昼間の虚勢と夜の居直りのちょうど真ん中で、妙に人を弱気にさせる」(「冬の運動会」より)
人間の感情の細やかな機微を鋭い言葉でとらえる向田邦子さんの筆致には唸らされるばかりですが、これらの台詞をチョイスする恭子さんの言語の感覚も素晴らしいなと思いました。また改めて読み直したくなりましたね。wafflesさんは作詞家の松本隆さんにも認められ氏のイベントにも出演したことがあるそうですが、美しい日本語へのこだわりが感じられてそこが良いなと思った次第です。
こうして本の朗読や解説やらを交えたライブも本編を終えてアンコールとなったのですが、ここでサプライズがありまして。実はベースの武田さんから本番前に、ボーカルの恭子さんが昨日誕生日だったのと、バンドのデビュー曲がリリースされてちょうど14周年という日なのでバースデーケーキを用意していると告げられまして。ひいては「アンコールのタイミングでろうそくに火をつけてステージに持って来てくれませんか?」という依頼をされまして。これは重大なミッションだぞと我々は緊張し、武田さんとの打ち合わせ通りに本編最後の曲が始まったと同時に箱からケーキをそっと取り出し、「14」と書かれた数字のろうそくと数本のろうそくをケーキ上の良きところに配置し、さあいつでも火を灯すぜとライターを片手に今か今かとアンコールの開始を待っていたのですが、恭子さんは本編を終えてさらにテンションが上がったのかお喋りがいつまでも止まらず。なかなかアンコールが始まらないのですね。「うちのメンバーはあまり本を読まないんだよね〜」と本の話を振ると同時にメンバー紹介のくだりなども挟まれ、石本氏が「小保方さんの『あの日』は読んでないの?」などというタイムリーなボケで話はさらに広がり、一向にサプライズ決行の機は訪れず。ライターを片手にケーキ側でスタンバイの私は「まだですか!私のミッション遂行のタイミングはまだですか!」と私の緊張と熱でケーキが溶けちゃったらどうしようと心配しているタイミングでようやく「じゃあ最後にもう1曲聞いて下さい」との発声があり。「ここだっ!」と私は普段滅多に使わないライターをかちりと押し、手際良くろうそくに火を灯しまして。メンバーが予定の曲をやらずハッピーバースデーの曲を演奏し出す中、火の灯ったケーキをステージに運ぶと恭子さんは「うわ〜、ケーキだあ〜」と百点満点のリアクションで応えてくれまして。無事サプライズは成功に至ったのでした。このまま永遠にアンコールが始まらずケーキの出番がなかったらどうしようかと思いましたが。しかし同じメンバーで14年も活動を続けて来てケーキを用意し合うという仲の良さは見ていて気持ち良いものだなとついほっこりしてしまった私です。お客さんもみんな笑顔でしたね。そんなあたたかなwafflesのステージでした。
「貸切り図書館」次回はサニーデイ・サービス曽我部恵一さんをゲストに迎えて3月12日に開催します。ぜひお楽しみにということで。