止まらない歌を抱えて

先日は高橋徹也氏からお誘いいただき、高橋徹也バンドとSo many tearsの2マンライブを下北沢まで見に行って来たのですが、これが実に素晴らしいライブでした。夢のような一夜を体験出来ました。
まず最初に登場した高橋徹也バンドはいつもにも増して熱いステージで、演奏が進むにつれグルーヴもぐんぐん増し、それに乗るタカテツさんのボーカルもキレッキレで。「The Endless Summer」からの曲が主だったのですが、音源で聞く以上に迫力に満ちており、バンド内で曲がどんどん育っている様子が伺えました。鍵盤のsugarbeansさんも乗っていたし、鹿島さんのベースも相変わらずヤバかったですね。脇山さん(マツジュン似)のドラムもクールで。ドライブという言葉が似合うバンドだなあと思いました。「夜明けのフリーウェイ」ではそれこそ唸りを上げて走る車に同乗しているかのようなドライブ感があり、スピードを伴って夜明けの空が目前に迫って来るような感覚を得られました。とても良かったですね。バンドセットでのタカテツさんは「イエーイ!」の掛け声が似合うロックスター然とした様子で、ハンカチで汗を拭いたりYシャツの袖をまくったりの丁寧な所作とのギャップが独特で、佇まいも良いのです。弾き語りとはまた違った魅力に溢れておりました。
So many tearsはフィッシュマンズのリズム隊のキンちゃん(ファンなのであえてそう呼ばせていただきます)とユズルさんにギターがスカパラの加藤さんというトリオのバンドなんですが、今回は鍵盤に同じくスカパラの沖さんを加えた編成で。初めて見たんですがめちゃくちゃかっこよかったですね。キンちゃんのボーカルもMCもいちいちロックの美学に満ちていて痺れました。華麗なドラムプレイも間近で見られて感激でしたね。あとフィッシュマンズ好きとしてはやはりレゲエの曲にはアガりましたね。「これこれ〜!」という感覚がありました。身体が自然に持って行かれました。このリズム隊最強だなと改めて思った次第です。ユズルさんの粘っこいベースも最高だし、加藤さんのギターもキレがあってかっこいいなあとほれぼれしてしまいました。
加藤さんはデビュー後からしばらくタカテツさんのバンドでギターを弾いていたそうで(お互いのギターを一緒に買いに行ったというエピソードが微笑ましかったですね)、久々の共演を心から喜んでいる様子が伝わって来ましたね。キンちゃんも沖さんもタカテツさんのレコーディングに参加しているし、加藤さんの抜けたあとはフィッシュマンズのサポートのダーツ関口さんがタカテツバンドでギターを弾いていたりと何かと人脈が近く、「縁があるよね〜」みたいなしみじみ話をキンちゃんがしていたのに「高橋は手近の人間で済ませてる」のひと言でまとめた鹿島さんには笑いましたけどね。
アンコールではその鹿島さんがベースに加わり、タカテツさんの「愛の言葉」という曲を演奏して。この曲のレコーディングにキンちゃんが参加したのがタカテツさんとの初めての出会いだったとのことで、10数年を経てのライブ共演ということでしょうか。キンちゃんと鹿島さんというリズム隊が新鮮でとても良かったですね。またキンちゃんが歌詞を一緒に歌いながらドラムを叩いていて、この人は歌を大切にするドラマーなんだなあとぐっと来てしまいましたね。フィッシュマンズの時もそうだったなあと。
そしてその後は再びベースにユズルさんが加わり、何とフィッシュマンズの曲をタカテツさんが歌うというスペシャルな展開になり。実は私はタカテツさんから事前にこの日フィッシュマンズを歌うというのを聞いていたんですが、何の曲をやるかは知らず。まさか「気分」をチョイスするとは思わなかったんですが、これが歌詞といい曲調といいタカテツさんの歌唱に見事にハマっていて素晴らしかったですね。「この国の気分は変わりすぎて疲れるぜ」とか今の時代に聴くとまた違った印象を受けるし、「勇気のカケラも見せずに死ぬのはだれですか」とタカテツさんの口から発せられるとドキッとするのですよね。素晴らしくてナイスチョイスだなとほれぼれしました。まさに名演でしたね。
しかしフィッシュマンズのリズム隊がフィッシュマンズの曲を演奏するのを生で聴くのはそれこそ佐藤さんが亡くなる前の98年の「男たちの別れ」以来だったので感慨深かったですね。最後のシングルの「ゆらめきIN THE AIR」が出た頃に佐藤さんに偶然(それこそ下北沢で)すれ違ったことがあり、「ファンなんです」と声を掛けたことなんかを思い出したりしました。あまりにかっこいい演奏で痺れまくりました。キンちゃんのコーラスにもぐっと来るものがありましたし、貴重なものを見られて感激でした。
私は以前キンちゃんのラジオ番組のディレクターさんとのご縁があり、スカパラのメンバー全員分の招き猫を依頼されて作ったことがあるので(その後キンちゃんと招き猫の2ショット写真を個人的にいただいたのです)、終演後にその話をさせて貰おうかなと一瞬思ったんですが、好き過ぎてビビってしまい楽屋に挨拶に行けず。結局そのまま無言で帰ったのですが、私の気持ちを理解していただけるでしょうか(笑)。なかなかファンの身からすると話しかけるにも恐縮してしまうのですよね。一緒に見ていた山田氏も打ち合わせがあるとかですぐに会場を出たので挨拶出来なかったらしく、帰宅後夜中にLINEで「良かったよね」とお互い感想を言い合うということでこの日の感動を反芻したのですが、まあキンちゃんと遠くから呼ぶようなただのいちファンなので構わないのです。そういえばタカテツさんもステージ上でずっと「茂木さん」と呼んでいて、加藤さんが「キンちゃん」と呼んでいるのを知ると「いつからキンちゃん呼ばわりしてるんだ!」と怒るというコントみたいなくだりがありましたが、あれは面白かったですね。あとタカテツさんが昔ユズルさんから「きみはもっと普通の歌を作った方が良いよ」と言われたというエピソードや、それを聞いて「その話しないで〜」と困惑するユズルさんなどトークも聴きどころ満載でした。演奏もトークもまさにクロスオーヴァーな一夜でしたね。見られて本当に良かったです。
それにしても「さんざん無理して手に入れたこの歌は世界の果てが見えても止まりはしないさ」という「気分」の歌詞を改めて読んで、本当にその通りだなと思った次第です。歌は止まることはないのですね。世界の果てが見えても。