宇宙と猫 貸切り図書館31冊目

先日はmolnにて恒例のイベント「貸切り図書館」の31回目を、ゲストに中山うりさんを迎えてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。
今回2度目の出演となったうりさんですが、前回同様ベースの南さんとギターの福澤さんとのトリオ編成で息の合った演奏を聴かせてくれました。3人の極上のアンサンブルが客席の人たちをゆらゆらと心地良く揺らしておりましたね。アコーディオンやトランペット、ギターなど様々な楽器を持ち替えながら歌う、うりさんの声は凛々しくその姿は麗しく、思わず「うり様〜」とほれぼれしてしまった我々です。ジャズやシャンソン、歌謡曲にフォークなど様々なジャンルの要素を感じられる楽曲はどれもクオリティが高く、どこか懐かしかったり切なかったり、聞きながら色々な情景が浮かび感情を刺激されました。素晴らしかったですね。うりさんは猫を飼っていて猫の歌も多いのですが、猫を飼い始めた我々としては日常の口ずさみソングの仲間入りに決定という感じで、特に「回転木馬に僕と猫」という曲には改めてうるっと来てしまいましたね。
本の紹介ですが、あまり本を読まないらしいうりさんが挙げてくれたのは以下のラインナップでした。
中村明著「比喩表現辞典」
ほしよりこ著「逢沢りく」
小林まこと著「What’s Michael? 」
山田芳裕著「度胸星
「比喩表現辞典」はうりさんがお父さんから貰ったものだそうで、漱石、鴎外から春樹にばななまで古今の文学作品の比喩表現の実例を採集して分類、配列した辞典なのだそうです。うりさんは歌詞を書く時にこれをランダムに開き、そこからインスピレーションを受けて書いているそうで、うりさんの歌の源はこの辞典であるという創作の秘密を聞くことが出来ました。世界の事象はすべて比喩によって表現出来る、新しい事象は新しい比喩によってしか認識されないという意図の元にあらゆる比喩表現が羅列されているそうで、確かに何か言葉を書き出そうという時のヒントになりそうだなと思いましたね。ちょっと読んでみたくなりました。うりさんファンは必携かもしれませんね。
ほしよりこさんの作品は前回も「僕とポーク」を挙げてくれたのですが、今回は「逢沢りく」を紹介してくれました。嘘泣きが得意の14歳の少女りくが主人公の物語なのですが、うりさんは読んでいて自分の思春期の頃をつい思い出しモヤモヤしてしまったそうです。うりさんはその頃反抗期が激しくて、特にお父さんにきつく当たったそうで、お父さんの後は汚いから風呂に入らないとか(笑)、当時好きだったXJapanのメンバーのファンクラブに入るのをお父さんに反対されて「物を食べない」という手段で反抗し、みるみる痩せていったというなかなかにハードな体験を語ってくれました。(しかしハンガーストライキを以てしても結局ファンクラブに入れなかったそう。)そんな反抗相手のお父さんから貰った辞典で現在歌詞を書いているのだから親子って面白い関係だなと思った次第ですけどね。
「What’s Michael? 」は小林まことによる有名な猫漫画ですが、ふと思い立って全巻ヤフオクで買い揃えたそうで。うりさんの実家でも昔猫を飼っていたそうで、猫を巡る80年代当時の描写が懐かしいというようなことを語ってくれました。(当時は室内飼いよりも猫を外に出している家が多く、お腹が大きくなって帰ってくるなども普通だったようですね。)「柔道部物語」でも知られる小林まこと先生ですが、柔道の技の描写と同じく猫の仕草や毛繕いなどの身体の動きの描写がとても巧みで、可愛いので見ていて楽しいとのことでした。私もこの漫画を幼少の頃読みましたが、猫を飼う身となった現在の目線で読むとまた印象が違うのかもしれないなと思った次第です。
度胸星」は「へうげもの」などで知られる山田芳裕先生の漫画ですが、途中で打ち切りになり未完成で終わった作品だそうで。内容は宇宙もので、火星に辿り着いた先発の飛行士たちが謎の生物に襲われ、それを救出するための飛行士選抜に応募する男を主人公とした「宇宙スポ根」みたいなかなりぶっ飛んだ設定だそうですが、とにかく面白いのだそうで。これはベースの南さんがうりさんに勧めた本だそうで、南さんがその魅力を熱く語ってくれました。火星に現れる次元の異なる敵の描写がとにかく凄いとのことで、立方体みたいな形をしているのですね。それと闘うというシーンが凄いらしく。そういう人智の及ばぬ異次元の世界と、火星へ行くための過酷なトレーニングの人間臭い話が同居しているのが面白いとのことでしたね。南さんのトークは宇宙をさらに飛躍し「素粒子レベルまで物を最小のサイズで考えると熱などの現象も幻想に過ぎないのでは」など、かなり難しい物理の話までに及びましたが、最終的にうりさんが「ロマンチックで面白い」とざっくりとまとめてくれました(笑)。作者がかなり風呂敷を広げたせいで打ち切りになったとの話もあり、これからというところで終わっているそうなのですが、ちょっと読んでみたくなりましたね。
そんなわけでうりさんの愛読書は主に漫画で、歌詞を書く時は辞典を片手にしているということと、ベースの南さんは物理に詳しいということがわかったライブとなりました。(そしてうりさんの反抗期が激しかったということも・笑)なかなか貴重な話を聞けて面白かったですね。お客さんにも満足していただけたのではないでしょうか。
そういえばうりさんのお兄さんがコーヒーカラーというユニット名で活動している歌手であるということを最近知ったのですが、実は私は20年くらい前にコーヒーカラーさんのバックでギターを弾いたことがあるのであり、その頃から繋がりがあったという話をうりさんにしたら驚いていましたね。かくいう私も驚いたのですが。縁というのは不思議なものです。
終演後は打ち上げということでみなさんと食事したのですが、そこでも南さんの物理トークが炸裂し、量子についての話など聞いていて面白かったですね。ライブ中にうりさんが少し触れた、人が死ぬと少し体重が減るのは魂が抜けるからだみたいな話が興味深かったのですが、人が死ぬとどうなるのか、宇宙を構成するものは何なのかなど、思考を突き詰めていくというのは面白いのだなと南さんのトークを聞きながら思った次第です。うりさんの横で静かにベースを弾いている南さんが実はめっちゃお喋りで面白いという発見を得た今回のライブでした。
「貸切り図書館」次回はこの翌日に嶺川貴子&Dustin Wongさんを迎えて開催ということで(初めての2デイズだったのです)、また追ってレポを書きます。そちらもよろしくお願いしますということで。