宇宙とチャンスオペレーション 貸切り図書館32冊目

前日の中山うりさんに続き、次の日は嶺川貴子&Dustin Wongさんをゲストに迎えて「貸切り図書館32冊目」をお送りしました。こちらもたくさんのご来場をどうもありがとうございました。イベント初の2デイズだったんですが、両者異なる音楽性ながらもゲストの方のお話に不思議な繋がりなども見られ、とても濃密な時間を過ごすことが出来ました。
この日はダスティンさんの希望で大きく低音を出すべくPAの方がウーファースピーカーを借りて来て持参してくれたのですが、これがもの凄く巨大なサイズで、聞いたら500人くらいのキャパの会場で鳴らせるものだそうで。それをキャパ35人のmolnで使うというのだから何とも贅沢な話です。サイズが大き過ぎて会場の入口を通らず荒井注カラオケボックス状態になったらどうしようかと思ったくらいなのですが、何とか無事に設置されまして。(聞いたらそのサイズしか借りられなかったそうです。)
そんな巨大スピーカーに加えダスティンさんと嶺川さんの持参して来た機材類もなかなかのもので、足元にずらりと両者合わせて20台近くのエフェクター群が並べられた様は圧巻でしたね。ルーパーを3台とかディレイを3台とかあまり見ない並列のされ方につい興味津々に覗き込んでしまいました。あとで聞いたところによると同じメーカーのディレイでも製造された年代によって微妙に音が違うらしく(その時代のトレンドがさり気なく盛り込まれているそう)、ダスティンさんも嶺川さんも気に入った年代のディレイしか使わないというこだわりがあるそうです。エフェクターは繋げる順番によっても音が痩せたり音色の変化があるので並列のされ方も考えられているそうで、この並びに至るまでにかなりの試行錯誤が成されたのだろうなと苦労が伺えました。
ダスティンさんのギターのループで音を形成していくソロ演奏も素晴らしいのですが、そこに嶺川さんのボイスと鍵盤が加わるとまたさらなる異空間がそこに立ち上がり、まさに2人ならではの音響世界になるのですね。その音は宇宙のようであり太古の呪術のサウンドのようであり。実験的なんですがそこはかとなくキュートでポップでもあるのですね。PAさんのおかげでリスニング環境は素晴らしいし、音を浴びながらあまりの気持ち良さに溜め息が漏れてしまったほどです。リズムにまかせてつい踊ってしまいました。(客席でも体を揺らしている方がいらっしゃいましたね。)
ダスティンさんは音に比べて声が目立ちすぎないようにとしきりにリハの段階で調整していましたが、ボイスも音色のひとつとしてサウンドにとけ込ませるバランスも絶妙でしたね。2人の声も相性が良く。後半に「日本むかし話」の主題歌のカバーを歌ってくれ、そこだけは歌ものという感じでしたが、これがまた涅槃から歌われているかのような独自なカバーでとても良かったですね。嶺川さんとライブ前に電話でお話したのですが、電話口からの声もとても素敵でした。(勿論実際に会ってお話する声も素敵でしたが電話の声が印象に残りました。)


そして本の紹介のくだりですが、ダスティンさんは以下の本を紹介してくれました。
アレハンドロ・ホドロフルスキー著「The Way Of Tarot」

アレハンドロ・ホドロフスキーさんは「ホーリーマウンテン」などの作品で知られる映画監督なのですが、タロット研究家としても知られるそうで、この本はホドロフスキーによるタロットの指南書のような物なのだそうです。ダスティンさん自身も一時期タロットを行っていて、ニューヨークで30人のタロットを見た時は疲れたよ、というようなエピソードを話しておりました。最近はあまりやらないそうなのですが、このライブ当日に久々にカードを引っ張り出したら「世界」というカードが出たらしく、喜んでおりました。(「世界」のカードは「成功」などを意味するもので良いカードなのだそう。)ダスティンさんは占い云々とかではなく、何か日々の思考や未来の行動、創作に関してのヒントや指針としてタロットを利用しているらしく、ジョン・ケージが傾倒していた易経ブライアン・イーノオブリーク・ストラテジーズと似たようなものだと語ってくれました。(オブリーク・ストラテジーズはイーノが作った様々な文章の書かれたカードでそれをランダムに引いて創作のヒントに使用するというもの。)ダスティンさんの即興演奏もそうですが、何事にもチャンス・オペレーションを上手に活かすという彼の姿勢が伺えました。この日からまたタロットを再開しようかなと語っておりましたので、きっかけとなることが出来て良かったです。

片や嶺川さんが紹介してくれたのは以下の本でしたね。
マドンナ・ゴーディング著「シンボルの謎バイブル」
フレッドA.ウルフ著「もう一つの宇宙 量子力学と相対論から出て来た平行宇宙の考え方」
「シンボルの謎バイブル」は古代文明のサインや絵文字の意味の辞典みたいな内容だそうで。嶺川さんは街にある何でもないものが何かのシンボルであるかのように見える時があるらしく、食べかすが妖精に見えたり、タマネギの欠片が美しく見えたり、散歩中なんかにそういうものに出会うと写真を撮ってインスタグラムに上げているのだそうです。物をただの物と見るかその先にあるものを見るか、かなり意識をされているそうで、確かに2人が共同でされているインスタを見ると不思議な写真がいっぱい上がっているのですよね。すべての物に魂が宿っているという思想は神道的だねとダスティンさんは語っておりましたが、物の見方の話から嶺川さんの豊かな感受性が伺えました。
そんな嶺川さんはある日テーブルの上のコップがぐにゃぐにゃに見える時があり、「物質」について思想を深めるうちに量子物理学に行き着いたそうで。色々調べるうちにフレッド・アラン・ウルフの著書を読むに至ったそうです。SFなどでよく出て来る平行宇宙について量子力学相対性理論を用いて解説している本らしいのですが、この平行宇宙と量子力学については前日にうりさんのバンドのベースの南さんが同じ話をしていて、聞きながら両日がシンクロしている!これもチャンス・オペレーションによる成功と言えるのでは!と別な感動を覚えたのですが、確かに聞いていると面白そうと興味が湧いて来るのですよね。この著者は幼少の頃に階段の上から下までを瞬間的に移動した経験があるそうで、幼少の頃よく階段から落ちていたという嶺川さんは「そこに共感を覚えた」と語っておりましたが、それは単に嶺川さんがドジっ娘だっただけなのではとちょっとツッコミを入れたくなった次第ですけどね。階段を落ちるのと瞬間移動するのは違うんじゃないと(笑)。しかしこの本では量子力学シャーマニズムと共に語られたり、とても神秘的で読んでいて面白いそうで、宇宙について考える入門書として良いかもしれないなと思った次第です。昨日うりさんも「ロマンチック」という表現をしておりましたが、難しい物理の世界を柔らかく読み解いて行くのも面白いかもしれないと思いました。期せずして宇宙に触れた2日間と相成りました。
終演後はお2人とスタッフさんとみんなで打ち上げをしたのですが、そこでも面白い話をたくさん聞けました。ダスティンさんはとても笑顔の可愛い人で、嶺川さんもとても物腰が柔らかく、2人とも感受性豊かなアーティストだなあとすっかり好きになってしまいましたね。レーベルスタッフの国井さんと会うのも久々だったのですが、相変わらずのナイスガイで、再会出来て嬉しかったです。
「貸切り図書館」次回は6月19日に行う予定です。そちらもぜひよろしくお願いしますということで。