モデルさんと写ルンです

先日「今日我が家にモデルの女の子が来るで、めっちゃ可愛いで」と妻に言われ、何だそれはどういうことだと詳しく問えばファッション雑誌「mer」の専属モデルの柴田紗希さんが自身の連載ページ「きらきらノート」の撮影のためにカメラマンさんと編集者さんと一緒に訪ねて来るとのことで。どうやら我が家を撮影のロケ場所として使うとのことなのです。カメラマンさんが妻の知り合いで、その柴田紗希さんもmolnに来たことがあり、顔見知りであるところから来た話であるらしく。聞けば柴田さんは「しばさき」の愛称で大人気のモデルさんで、インスタグラムのフォロワーが23万人もいるというカリスマなのだそうで。そんな凄い人が家に来るのかと私は驚き、いそいそと掃除機などかけ、物をわっさわっさと片付けて待っていると果たしてしばさきさん御一行が「こんにちはー」とやって来て。
事前にアイフォーンにて画像を検索し写真を見てそのキュートネスを確認していたものの、やはり生で見るしばさきさんはキラキラ輝いており、その眩しさに思わず「うわあ!」と仰け反った私なのですが、何しろ可愛いという言葉はこういう子のために存在するのだなと思わせるカワイイ力があるのですね。そんなしばさきさんは我が家を「素敵〜」などと褒めてくれ、インスタントカメラでバジバシ家の中を撮影するのであり。いや素敵度で言ったら貴女の方が素敵でっせと思いつつ、よくよくそのカメラを見ると使い捨ての「写ルンです」なのであり。今また若者に流行っているとは聞いたけど本当に日常で使ってるんだ?と私は驚き、そのレトロまでいかぬ微妙な距離感の懐かしアイテムをお洒落に使いこなすモデルさんの姿に何だかくらくらしたのですが、おそ松さん仕様の写ルンですは確かにポップに見え、流行りは何周もするものなのだなと感心した次第です。
そんなこんなしてたらカメラマンさんが階段の影からびくびくしながら覗くミル坊を見つけ、早速持参して来たおもちゃを駆使しミル坊の気を引き。そのおもちゃ使いの巧みさは達人の域で、私は「む、この人出来る!」と感心したのですが、しばさきさんも「わー可愛い〜!」などと声を上げ、我々も「ミル坊、降りて来い〜!」と必死で階下へいざない、なかなかな大騒ぎになったのですが、そんな騒ぎをこわがってかミル坊は「うにゃあ!」などと声を上げ2階に隠れてしまい。まあ人が来たらまずは隠れるというのがミル坊あるあるなので仕方ないんですけどね。その後無理やり抱っこして階下に降ろし、必殺のチャオちゅ〜るという猫のおやつで気を引き、何とかしばさきさんとミル坊の2ショットが成立したのですが、臆病なミル坊はずっと腰が引けてましたね。或いはミル坊も男の子なのでしばさきさんの眩しさに思わず仰け反っていたのでしょうか。
私はその後出かける用事があったので、とりあえずしばさきさんと一緒に写真を撮って貰おうとお願いしたら快くオーケーをいただき。妻とミル坊と一緒に撮って貰ったのですが、妻が「折角ならしばさきさんと2ショットで撮って貰えば?」と言うので、お願いしたら「もちろんです!」としばさきさんはピッカピカの笑顔で言うのであり。それを聞いて私はつい「でへへへへ〜」と茹でた蒟蒻の如き弛緩したデレ顔になってしまったのですが、可愛い女の子と一緒に写真を撮って貰うというのはイベントなんだなとおじさんみたいなことを思ってしまった次第です。(まあ実際おじさんですけどね。)写ルンですのルンはルンルン気分のルンなのかなとそのネーミングの妙を実感しましたね。写真を撮る時にはたいてい人はルンルンなんじゃないかと。
しかし思えば写ルンですは昔は観光地の売店や自販機などで売っていた代物で、ほとんど観光やイベントでしか使わなかったなあという印象なんですが、もちろん日常のスナップで使っても良いんですよね。観光地で撮って現像に出すのにまだ枚数が余ってるから日常のどうでもいい写真で消費したりというのはありましたが、日常で気軽にカメラを使う習慣が付いたのは携帯のカメラ機能を得て以降なんですよね、私の場合。携帯のカメラと同じような感覚で写ルンですを使うしばさきさんを見て何だか不思議な感覚を覚えた私です。私は便利なカメラ機能が携帯内にあるのに今更レトロな写ルンですには戻れないなあと思ってしまうのですが、若い人には新鮮なアイテムなのでしょうか。
しかしこのデジタルが普及した後のやっぱアナログも良いよね運動には面食らうこともあるのですよね。昨今のカセットテープブームもそうなんですが。え、今更テープに戻ります?データをダウンロードする時代に?という気持ちになってしまうのは、写ルンですもカセットテープも昭和の自分がイケてなかった時代の苦い思い出がそこに染み付いているせいな気がするのです。カセットテープに下手くそな自作曲を録音したり、せっせとあてのない編集テープを作っていた無為なあの時代の空気は今思い出したくないというか。日向のダッシュボードにカセットを置きっ放しにしてテープが伸び、音がぐにゃんぐにゃんになったジャッキー・チェンのサントラを聞いた時の絶望感とか。親戚同士の気の乗らない旅行などで不貞腐れながら観光スポットでピースするおじさんおばさんを苦々しい気持ちで撮っていた写ルンですには今更戻りたくないのです。自分的には振り返るにはまだ早いのですよね。ついこの間まで現役だった代物なので。写ルンですには何の罪もないですけどね。
いつかこんな私にもカセットテープも写ルンですも何周かしてしっくり来る時が訪れるのでしょうか。下手したら20年くらい現像していない当時の写ルンですが家々に多数存在していて、現像したら思いがけない懐かしショットが出て来るなんてことがありそうですけどね。タイムマシンにもなり、現役のお洒落アイテムにもなり。物の流行とは不思議なものです。