１万人の待ち合わせ - fishingwithjohn’s diary

早いものでもう１０月も後半なのです。今年もあと残り２ヶ月ちょいかと思うとおそろしいほどです。時の流れが早くなる何かしらの魔術を魔術師に掛けられているのではないかと疑いたくなるほどの早さです。もしそうであれば魔術を解くための魔術を得られないものかと思いながら、日々を慌ただしく過ごしているこの頃です。
先日は銀杏BOYZの武道館公演を見に行って来たのですが、ボーカルの峯田和伸が鼻水や唾液や喜びや哀しみや怒りやありとあらゆる感情を歌声と共に発しながらステージを転げ回り走り回り、マイクを頭に打ち付けギターを親の敵の如く激しく掻き鳴らすというまさに全力疾走の３時間のステージでそれはもう圧巻でしたね。峯田和伸の一挙手一投足が可愛くてかっこよくてみっともなくて汚らしくて美しく最高でした。まさにカリスマの降臨といった様相で。そんなカリスマから発せられる名曲の数々に震えながら見ていたのですが、やはり心動かされるのは日本武道館という場所にこの夜のために１万人が全国から集まって来たということで、こんな壮大な待ち合わせってないよなあと素直に感動してしまったのですよね。見に来ている１万人のお客さんひとりひとりに人生があってドラマがあって、この夜のために時間を割いて武道館へやって来たわけです。その期待を一手に引き受けるのだからステージに立っている人間は凄いよなあと、自分も小規模ながらステージに立つ者としてこの感覚を忘れないようにしたいものだと思った次第です。お客さんの時間とお金をいただいて表現しているわけですからね。
しかしチケット完売のはずの客席も見たところぽつりぽつり空いており、私の両隣も開演後ずっと空席のままで、競争率を勝ち抜いてそれなりのお金を払って得たチケットなのに当日来られない人がこんなにいるのかとちょっと驚いたんですけどね。私の両隣のお客さんも最後まで来ないのかと思っていたら、ライブが始まって２時間半後、もう残り３曲で終演というタイミングで私の左の席にお客さんがやって来たのです。壮大なる待ち合わせへの遅刻です。こんなに遅れる理由って何なの？仕事だったら嘘で親戚殺すなり自分が病気になるなり何とか抜け出せなかったの？こんな武道館という特別な日に？と一瞬責めるような気持ちになったのですが、そうも言っていられない事情が社会人にはあるのだろうなとすぐに同情の気持ちに変わったんですけどね。絶対に見たい特別なライブだったろうに最後の３曲しか聴けないなんて、彼女（２０代くらいの女の子でした）はこの日の日記にどういう気持ちを書くんだろう、どういう思いで武道館に辿り着いたんだろう、どんな気持ちで最後の３曲を聴いたのだろうとちょっと話を聞いてみたくなった私です。思えばこの日は金曜日で、仕事でライブに遅れた人もたくさんいたようなのですが、私の隣の人がおそらく一番遅くにやって来たお客さんなのではないでしょうか。この日客席にいた誰かがツイッターで「隣の席にスーツを着たサラリーマン風の男が1時間遅れてやって来て、何でもっと早く仕事を抜け出せなかったんだと思ったけど、自由にライブに来られないような人たちのための音楽でもあるんだな銀杏BOYZは」という旨のことを書いていて、そういう面もあるのかもしれないなと思った次第です。私の隣の席の彼女もライブを見られなかった２時間半、ずっと銀杏BOYZの音楽に支えられながら過ごしていたことでしょう。それまでの人生もずっと彼らの音楽に支えられていたのかもしれません。最後の３曲だけでも聴けて嬉しかったと日記に書くのかもしれません。そう思うと空席に座るはずだった人たち全員にもこの日鳴らされた音楽は届いていたのかもしれないなんてロマンチックなことを思った私です。
私自身、中学時代にビートルズに出会ってから「バンドってかっこいい」というバンド幻想みたいなものを抱き、自分でもバンドを組んだりして来たわけですが、やはりバンドでギターを掻き鳴らしベースを唸らせドラムを響かせるという行為ほどかっこいいものはないなと、ジョン・レノンと同じモデルのリッケンバッカーを掻き鳴らす峯田氏の姿を見て思った私です。銀杏BOYZは峯田氏以外のメンバーは全員辞めてしまったので正確にはバンドではないのですが、過去の歴代メンバーに感謝の念を述べてから演奏された「BABY BABY」を聴きながら、やはり銀杏BOYZはバンドなのだなと改めて思いました。私は今でもビートルズの映像を見る度に心がときめくのですが、永遠の憧れなのかもしれません。同じようにビートルズに憧れてバンドを始めて２０年かけて武道館に立った峯田氏の姿を見て、私は中学男子に戻ったような気持ちでただただ感動して泣きました。
遅れてやって来た私の隣の席の彼女は終演後もしばらく席を立たず、ずっと武道館の様子を見渡しておりました。どこの誰だか名前も知らない人ですが、彼女の人生に少しでも嬉しいことがあれば良いなと思った私です。