私、流行に乗って

かねてから流行には安易には乗らないことで知られた私ですが、ついうっかり乗ってしまうというか、乗らされてしまうことがあるものです。
思えば前日から唐突に咳が出るようになり兆候はあったのです。喉も痛くないのに不思議だなと思いつつ、妻もあまり体調が良くないというので共にその日は早めに就寝したのですが、次の日目覚めると妻の方は「よく寝て元気になった〜」とテンション高めなのに対し、私はというと昨日より咳もひどくなってるしどうにも身体がダルいのです。まあ風邪か、そのうち治るかと思いながら仕事をしていたのですが、時間が経つほどに具合が悪くなって来るのであり。いくら暖房をつけても寒気が止まらないのです。私は普段から熱を計ってその数値を見てしまうと意識してしまうのでなるべく計らないようにしているのですが、そんな私でも「これは高熱でっせ〜」とわかるくらい具合が悪いので、2年振りくらいに体温計を用いてみると37.8度なる割と高めな数値が目の前に現れるのであり。ヤバい、インフルだったらどうしよう、いや待て流行には乗らないことで知られた私だ、そんなわけがないと思いつつも午後イチで近所の病院に行きまして。
いざ病院に着いて受付で症状を述べると「あ、こいつインフルじゃね?」と即座に判断されたのか、奥のさらに奥の陽の当たらない薄暗い廊下で待つよう指示されまして。そこで待っていると看護師さんがやって来て、これこれこうでと昨日からの経緯を語ると「ではインフルエンザの検査してみましょう」と相成り。例の鼻の穴に「えいやっ」とねじ込まれるやつをやり、その後「一応熱も計ってみましょう」と数秒で熱がわかる最新の体温計でピピッと計ると何と38.8度なる数値が目の前に現れるのであり。「え?38.8度ですか?」と私も思わず二度見ならぬ二度聞きをしてしまい、看護師さんも「そうですね、高いですね(笑)」となぜか笑いながら返して来たので、私も「そうか、いやー高いっすね(笑)」となぜか笑いながら返すという謎の38.8度ラリーがあったのですが、ほぼ39度という高熱は流石に身体に堪えるのであり。そこから結果が出るまであしたのジョーのラストシーンの如くうなだれていると果たして名前が呼ばれ、診察室に入ると「あ、インフルエンザAですねー」とあっけなく結果を言い渡され。あれほど流行には乗らないことで知られた私が簡単に乗ってしまうとは何たることかと愕然としたのですが、罹ってしまったものは仕方ないのです。「後でインフルの薬を処方しますのでこの場で飲んで行って下さい、吸引式のやつですから」と言われ。
また再び陽の当たらない奥の廊下にてあしたのジョーのラストシーンスタイルで待っているとやがて薬剤師の方が現れ。「今回は大変でしたね!インフルエンザの薬を飲んでいただきます!」と、「ご指名ありがとうございます!」みたいな明るいテンションで言われたのですが、この薬剤師の方、マスク越しでも美人だとわかる若くて少し水商売入ったカワイイ系女子なのであり。陽の当たらない薄暗い奥の廊下ですっと私の真横に座り、「はい、これを思いっきり吸って下さいね!」と笑顔でお薬を渡されるとまるでホステスさんに水割りを作って貰ったかのような錯覚に陥り、私の脳内には突如としてその場がクラブ(若者が踊る方じゃないやつ)へと変貌を遂げ。その薬をすっと吸い込むと「そうです、そんな感じです〜!」と私の顔を覗き込みながらやたら褒めてくれるのであり。まるで酒の飲みっぷりを褒められ喜ぶおじさんのような気持ちになりつつ1本目を吸い終えると「はい、こちらが2本目になります!」と絶妙なタイミングで水割り(お薬)のお代わりを手渡され。何だこの店はサービスが行き届いてるな、チップ多めに払っちゃうか!などと思いながら2本目の薬を吸引すると「はい、これで完了です!お疲れさまでした!」ととびきりの笑顔で言われ。「熱で辛いでしょうけど、ゆっくり休んで下さいね!」とアフターケアも万全で、その接客の心地良さに思わず「もう1杯飲んじゃおうかな〜、きみも飲む?」と延長したい気分にさえなったのですが、「お会計こちらでお願いします!」と言われてしまい。仕方なくその場で会計し、明朗会計だなこの店は、次回来店した時もこの子を指名しようかしら〜などと少し浮き足立った気分でお店(病院)を後にしたのですが、しばらく歩いたところで、いやあそこはそういう店ではない、病院だ!とはたと気付き。これも高熱が見せた幻だったのでしょうか。
そんな病院キャバクラで楽しんだのも束の間、帰ってからすぐに布団に入ったものの、とにかく寒気が止まらないのです。「I can't stop the samuke〜、さむけーがーとまらなーい」と杏里の往年のヒット曲に合わせて歌いたくなるくらいのノンストップ寒気に苦しみながら寝ていると妻が帰宅し。苦しむ私におかゆを作ってくれたのですが、寒気でスプーンを持つ手が震えて食べられないほどなのです。流石の西野カナもここまでは震えないのではないかと思いながら何とかおかゆを食し、ミル坊に甘えようかと思ったら妻が「はーい、ミーちゃん、ゆうくんはインフルエンザ菌を持ってるから隔離だよ〜」とミル坊を連れて行ってしまうのであり。嗚呼、ミル坊に甘えることも叶わぬのかと肩を落とし、その後も寒気に震えながら咳に苦しみながら寝たのですが、もうこんな流行はやめて欲しいものだとしみじみ思った私です。
次の日には何とか熱も下がって楽になったのですが、みなさんくれぐれもお気を付け下さい。インフルエンザという流行には。
あとお知らせですが、今年もミルブックスさんのカタログにモデルとしてミル坊の写真を使っていただいております。嬉しいことに今年も表紙です。ぜひどこかで見かけたら手に取っていただきたく。