恋するギター物語

ここ数日は晴れて暖かかったですが、
この小春日和も今日で終わりのようですね。
残念です。
この陽気が永遠に続くことはないのでしょうか。
そのぬくもりに用があるというのに。
何ということでしょうか。


ここ最近テレビやラジオなどで「山田洋行」の名を聞く度に
全国の「やまだようこ」という名前の女子が
クラスの男子たちから「やまだようこー」とからかわれていないか
心配してしまったりするのですが、
大丈夫なんでしょうか全国のやまだようこさんは。
やまだようこという名の女子に恋をしている男子は
今回の時事ネタで話し掛けるきっかけを作り、
近付く作戦を立てたりしてるんじゃないかと
ふと想像したりするのですが、
そんなきっかけで恋が生まれることもあるんでしょうかね。


港区に住む高校2年生の牧野康祐くんは
地味で目立たないタイプの平凡な男の子ですが、
同じクラスの山田葉子さんに秘かに恋心を抱いています。
山田葉子さんは真面目で大人しい地味なタイプの子ですが、
しっかり者で面倒見も良いし可愛いので
実は男子の間で隠れたファンの多い人気者の子です。
康祐くんは山田葉子さんが小さく映った1枚の写真を
いつも手帳に入れて持ち歩いているほどなのですが、
勇気と自信がないので声をかけることも出来ません。
その葉子さんが小さく映ってる写真というのも
修学旅行のスナップ写真に偶然自分と葉子さんが
一緒に映り込んでいる写真があったので、
「あーこれも俺、映ってたわー」などと独り言を言いつつ
しょうがなく買いました風に購入した1枚なのですが、
しょうがないどころかそれが今一番大事な写真になっているのです。
しかもそれも葉子さんの姿は小さくピンぼけしてる状態なので
いつもそれを見る時は頭の中のイメージで葉子さんの顔を
鮮明にしなければならないという状態なのですね。
それでも彼はお守りのように持ち歩いているのです。


そんな葉子さんの姿を康祐くんは意外なところで目撃するのです。
それは渋谷にある大きな楽器屋さんで、
葉子さんはそこからギターケースを担いで出て来たのです。
康祐くんはその楽器屋に弦を買いに来たのですが、
偶然に教室の階から降りて来た葉子さんを目撃したのです。
そこは楽器屋の他に音楽教室なども経営しているところで、
葉子さんはどうやらそこのギター教室に通っているようなのでした。
クラスではそんな話題はひとつも出て来なかったし、
彼女が楽器をやっているというのは康祐くんにとっては初耳でした。
葉子さんはギターを弾くような子には全然見えなかったのです。
そういう康祐くんも実は音楽好きな大学生の姉の影響で
姉がすっかり弾かなくなったエレキを貰い趣味で弾き始め、
ある程度のコードくらいは鳴らせる腕前になっていたのですが、
クラスでは一切自分がギターをやっているとは
公言していなかったのです。
そういう点では彼女と同じような立場です。
「そうか彼女もギター弾くんだ。」
康祐くんは葉子さんとの意外な接点を見つけたのでした。


そんな康祐くんはある日、姉の部屋にCDを借りに入った所、
あるチラシを片隅に見つけました。
ふと気になって手に取ってみると、それはライブ情報のチラシでした。
「へえ、こんなライブがあるんだ。うちの近くじゃないか。」
康祐くんはそれをそっとポケットにしまい、姉の部屋を出ました。
彼の中にある思案が浮かんだのです。


そして次の日曜日、康祐くんは渋谷の楽器屋に出かけました。
いつものようにギターを眺めたり、
アンプをいじってみたりなどして時間をつぶしていると
やがて上の階から教室を終えた生徒たちが降りて来ました。
康祐くんは心臓をぎゅっと掴まれたような気持ちになって
そちらを振り返り、葉子さんの姿を探しました。
葉子さんは学校にいる時とは違う人のような印象で、
凛とした佇まいでエレベーターから降りて来ました。
写真で見る小さな、ピンぼけの彼女ではありませんでした。
鮮明に、美しくそこに立っていました。
勇気を出して康祐くんはエレベーターにずんずん近付き、
やがて葉子さんの前に立つと「や、やあ!」
と声を掛けました。
しかし生憎前半の「や」は声が以上なくらいに裏返っていたので
何とも言えない緊張感を与える一言になってしまっていました。
そこはファルセットにしなくても良い箇所なのです。
そんな裏声に驚いたのか突然のクラスメートの姿に驚いたのか、
葉子さんは「うわ。何?」と動揺フルのリアクションをしました。
それにさらに動揺した康祐くんは
「いや、あの、ギターの弦を買いに来て、それで、あのー」
と挙動不審フルの応対をしてしまったのですが、
葉子さんは彼が手にしていたギターの弦を見て、
「へえ、きみも弾くんだ、ギター。」と少し笑って言ったのでした。
康祐くんは「いや、まあそうなんだけど。きみも弾くんだね。」
と少しほっとして応えたのでした。


それからそこで少し立ち話をして、
「ギター、いつから弾いてるの?」
「どれくらい弾けるの?」などとお互いの話をしました。
どこかでお茶でも飲みながらゆっくり話せば良いものを
そんな余裕もなく彼は矢継ぎ早にしてみたかった話を繰り出し、
お互い立ち話で一気に距離を縮めたのです。
どうやら彼女はサイモンとガーファンクルという
古いフォークデュオの曲が好きで、
それを自分で演奏してみたくなったらしいのです。
康祐くんは彼らの「サウンド・オブ・サイレンス」という曲の
コードだけは一応知っていたので
「今度教えてあげようか?」と言ってみました。
すると彼女は「え、本当?教えて!」と目を輝かせたのです。
康祐くんは心の中でひゃっほうと喝采し、
ガッツポーズを10回ほど決めました。
ちなみにこのガッツポーズというのは
ボクサーのガッツ石松のアクションから由来してるのですが、
そのことは取りあえず置いておいて、
彼は葉子さんと接点を持つことに成功したのです。


そこまで話すと彼はおもむろにポケットから
この間姉の部屋から持ち出して来たチラシを出しました。
「あの、今度の土曜日にさ、ほら光明寺ってお寺あるでしょ。
うちの近くなんだけど。あそこでライブがあるんだけどさ。
一緒に見に行かない?何かギター弾く人が出るんだけど。
ジョンがどうしたとかいう名前の。」
その彼の差し出したチラシを見た彼女は途端に笑顔になって、
「へえ、楽しそう!私、生演奏見るの大好き!」
と応えたのでした。
康祐くんは嬉しくなり、
「そっか。じゃあ一緒に行こうよ。」と
約束をしたのでした。
楽器屋のエレベーター前で。
立ち話で。
ピンぼけじゃない憧れの。
山田葉子さんと。


そんな康祐くんと葉子さんの二人の恋の行方の
その後を知りたい方はぜひウェブで。
じゃなくて生の現場で。
それが今週の土曜日です。


11月17日(土)梅上山 光明寺
「誰そ彼 Vol.11」
¥1000円 with 1drink
開場17時
出演:fishing with john/ゴトウイズミ/久住昌之&Blue Hip


我々fwjの出番は1番目で18時からの予定です。
ぜひよろしくお願いします。