昔日の客

昔日の客

昔日の客

山王書房という古本屋の店主だった関口良雄氏が遺した古本と文学にまつわる随筆集で、
去年32年ぶりに復刊されたものなんですが、これがとても良い本なのです。
「古本屋という職業は一冊の本に込められた作家、詩人の魂を扱う仕事だ」という
氏の信念から生まれる本、作家への愛情溢れる想いがまっすぐに綴られていて清々しいし、
古本を買いに来たお客さん、作家たちとの交流などユーモラスに時に叙情的に描かれていて、
読んでいて引き込まれるし、とても面白いのです。
古本を愛好する者ならわかるわかると深く共感しながら読めることでしょう。
探していた本を落札する時の高揚感とか、長年棚に積まれた本がいよいよ売られていく時の一抹の感傷や、
客のいなくなった売り場で静かに佇む本のそれぞれに意匠に想いを傾ける店主の視線などが愛おしく思え、
古本が好きな人と読後感を共有したくなるような本です。
装丁もとても綺麗で素敵です。
実は昨日「ざっくりハイボール」なるテレビ番組でピース又吉がこの本にまつわる話をしていたので
ここで紹介したくなったんですけどね。
前に小島慶子キラキラというラジオ番組に又吉が出演した際に
おすすめの本としてこの「昔日の客」を紹介していたんですが、
(私はそれリアルタイムで聞いていたんですが)
又吉はこの綺麗な装丁に惹かれて手に取ったそうなんですが、
読んでみたら古本や文学好きには堪らない内容でとても面白かったとのことで。
こういう本を復刊するくらいだから出版元の夏葉社の人もきっと本が好きなんだろう、
それが伝わって来て感動したという内容のことを話していて。
それから2週間後くらいに又吉がたまたま下北沢の古本屋に立ち寄ったら
またとても素敵な装丁の本を見つけて手に取ったらその夏葉社の本だったと。
これは買おうと思ってレジに持って行くと店主に「又吉さんですよね?」と話し掛けられて。
「実は夏葉社の者から『もし又吉さんがお店に来ることがあったらこの本のお代はいらない』と言われてるんです」
と言われてその本をいただいたそうなんです。
実は夏葉社の方が又吉が「昔日の客」を紹介してくれたというのを知っていて、
たまたま下北の古本屋の主人と話していた時に又吉の話になって、
(恐らく「又吉さんうちの店に何回か買いに来たことあるよ」みたいな話だったんでしょうか)
「もし又吉さんがお店に来たら感謝の念を伝えたいのでこの本を差し上げてくれないか」と
出版社の方直々に託されたとのことで。
その直後に本当に又吉が来店してその本が渡されるに至ったとのことで。
バーで言うところの「あちらのお客様からです」みたいな現象です。
まさにリアル「昔日の客」というか、本好き同士の交流が古本屋を舞台に成されたというのは
もう素敵としか言いようない話じゃないですか。
ラジオの放送のあとに偶然下北の古本屋に行ったというのも凄いし、
そこでちゃんと夏葉社の本を手に取ったというのも凄いし。
こんなことってあるんだなという感じです。
古本好きにはぐっとくるエピソードですね。
きっと関口氏も天国で喜んでおられることでしょう。
出版社の方も復刊した意義があったんじゃないでしょうか。
昨日テレビでそのエピソードを聞いてまたこの本を手に取ってみたという次第です。
そんなわけでハイボールでも飲みながらしみじみと「昔日の客」を再読しようかと思います。
読書の秋にぜひおすすめです。


「私は店を閉めたあとの、電灯を消した暗い土間の椅子に坐り、
商売ものの古本がぎっしりとつまった棚をながめるのが好きである。
昼間見るのとは別の感じで様々な意匠の本が目に映る。
古い本には、作者の命と共に、その本の生まれた時代の感情といったものがこもっているように思われる。」
関口良雄「昔日の客」)