パンと猫と言葉 貸切り図書館34冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の34回目を、ゲストに友部正人さんを迎えてお送りしました。去年に続いて2回目の出演となった友部さんですが、今回も素晴らしい歌を聴かせてくれました。
去年、ミディ時代のベスト盤、その名も「ミディの時代」をリリースされたばかりの友部さんですが、改めてその豊かなキャリアに圧倒されましたね。ライブでは40年前の曲からつい最近作った曲まで、3時間に渡ってたくさんの曲を歌ってくれました。新曲の瑞々しさもさることながら、40年前の曲が未だ古びずに心に響くというのが本当に驚きでしたね。40年もの時を経ているのに「つい昨日出来ました」みたいな新鮮な佇まいなのは、世界の、人間の本質を突いているからでしょうか。言葉のひとつひとつが鋭く、耳に心に刺さって来るのです。改めて本物の詩人の紡ぎ出す言葉群に感動してしまいました。以前も友部さんのライブを体験した時にギター1本の弾き語りなのに背後に壮大なオーケストラが立ち上がって来るような感覚を抱きましたが、それだけのイメージを喚起させる言葉の力があるのですね。今回は「誰も僕の絵を描けないだろう」や「夕暮れ」や「水門」などの名曲が生で聞けて嬉しかったです。また鎌倉で「鎌倉に向かう靴」も聞けたし、「くじゃくのジャック」という新しい歌もキャッチーで良かったですね。「遠来」のスケール感にもぐっと引き込まれました。ランナーである友部さんは長時間歌っていても全然疲れを見せないのですね。最後まで大満足のライブでした。
そして本の紹介のくだりですが、今回は以下のラインナップでした。

小出 美樹、 井上 有紀著「かまくらパン」
佐野洋子著「100万回生きたねこ」
JacobLawrence著「TheMigration Series」
金井雄二著「朝起きてぼくは」
永田和宏河野裕子著「京都うた紀行ー近現代の歌枕を訪ねて」

かまくらパン」は友部さんが持って来たものではなく、たまたまmolnに置いてあった本なのですが、偶然にもこの本の冒頭に友部さんの書いた「パンの悲劇」という詩が掲載されており、折角だからとこちらも紹介してくれました。この本は鎌倉の美味しいパン屋さんを紹介するガイドブックなのですが、写真も良いし、読み物としても面白いのです。友部さんは今回その「パンの悲劇」を全文朗読してくれたのですが、これがまた心に染みましたね。聞いてすぐにでもパンを買いに走りたくなりました。とても良い詩なのでぜひ読んでいただきたいです。これを読んだらご飯派のあなたもパン派に転向するかもしれません。
「100万回生きたねこ」は森山未來さん主演でミュージカル化された際に作詞を友部さんが担当されたそうで、稽古場に行って毎日歌詞を書いていたという思い出話を語ってくれました。その舞台用に作った曲を1曲歌ってくれたのですが、とても良い曲でしたね。その舞台、機会あれば見てみたいなあと思いました。また再演されるでしょうか。
「The Migration Series」は友部さんがニューヨークの美術館でたまたま展示を見たそうで、ジェイコブ・ローレンスという画家が1900年代に起こった黒人によるアメリカ南部から北部への大移動の様子を描いた作品集なのだそうです。友部さんが紙芝居形式で内容を紹介してくれようとしたのですが少々難しかったらしく(笑)、普通にぺらぺらとページをめくって絵を見せてくれました。独自のタッチで面白い絵でしたね。あとで実物の本を見せてもらったのですが、表紙に何やら英語で落書きがしてあり、まさか作者のサイン?と思ったら「これは俺の本だぜ」みたいなことが書いてありました。おそらくこの本の前の持ち主が書いたのでしょう。それだけ愛着があったのになぜ手元を離れて日本に流れて来たのでしょうか。おそらく黒人の大移動並みの移動がそこにあったのでしょう。古本のロマンを感じましたね。
友部さんは本屋に行くとまず詩集のコーナーから見るそうで、自分でもよく詩集を買うのだそうですが、最近買った詩集ということで、金井雄二さんの「朝起きてぼくは」という詩集を次に紹介してくれました。表題の詩を朗読してくれたのですが、これがなかなか良い詩でしたね。朗読し終えたあとに「実は今日金井さんが来て下さっています」と友部さんが言うと、最前列に座っていたお客さんが立って一礼されまして。何とご本人が見に来られていたんですね。詩人同士の交流を間近に目撃してしまいました。
「京都うた紀行」は歌人河野裕子さんが旦那さんである永田さんと共に京都の歌枕を訪ねて現代の和歌を紹介するという京都新聞の連載をまとめたものだそうですが、この本が出版される前に河野さんは乳がんで亡くなられたそうです。薄々パートナーが病気で亡くなることがわかっていながらの紀行は深く染み入るものがあったことでしょう。友部さん曰く「面白くて一気に読んでしまった」とのことで、強くお勧めされていました。やはり友部さんは詩や短歌など言葉にまつわる書物がお好きなのだなと思いましたね。
先ほどニューヨークの家を引き払って今度は仙台に部屋を借りたという友部さんですが、同じ建物内に図書館があって嬉しいという話をされていました。それこそ貸切りじゃないですが、マイ図書館みたいな感じでいつでも本の世界にアプローチ出来るのは羨ましい環境だなと思いましたね。普段は神奈川在住という友部さんですが、家を2つ持つというのは基地が2つあるみたいな感覚なのでしょうか。まあ全国各地旅をしている友部さんからしたらどこに住んでいても同じ地球の上という感じなのかもしれませんが。
終演後には会場でワインなど飲みながら友部さんと奥さんのユミさんとお話をさせていただいたのですが、友部さんの家でも長年猫を飼っていたとのことで、猫話でかなり盛り上がってしまいました。うちの猫の写真を見せたらユミさん曰く「似た写真、うちにもあるよ!うちの子も同じような顔してたよ!」とのことで。ユミさんに後日友部家の愛猫りくちゃんの写真を送っていただいたのですが、本当にうちの子と同じアングルの写真で可愛かったですね。その写真を見てこの子は友部家に愛されていたんだなとしみじみ思いました。またユミさんと猫の話をしたいなと思った次第です。
貸切り図書館、次回はゲストに久住昌之さんが登場します。こちらのレポも近々アップしますのでぜひご一読下さい。ということで。