相撲と猫

ここ数日両国駅に隣接する江戸NORENという施設内にて張子の販売を行っていたのですが、ちょうど大相撲の場所中というのもあり会場は大賑わいで。この施設、両国の有名な飲食店が複数入っているのですが、メインは中央に再現された原寸大の土俵で、ここで記念撮影する人が多いのですよね。普段相撲を見ない私からしたら土俵って意外に小さいんだなという印象だったんですが、かといってあんまり広い空間で取り組みしても延々勝負つかなそうですしね。まあこのくらいなのかなという絶妙なサイズでしたね。この特別な場所で凌ぎを削り勝負しているのだなと力士の闘いに想いを馳せた次第です。普段相撲を見ない私でもちばてつや先生の名作相撲漫画「のたり松太郎」を読んでいるのである程度の知識はあり、周辺を歩くまだ髷を結ってない若い力士を見ては「序の口時代の田中みたいだな」と思ったり、連日取り組み後に江戸NOREN内で披露される相撲甚句を聞いては「伊勢駒部屋のタニマチも宴会で唄ってたな」などと全て松太郎経由で感想を抱いておりました。(同じように野球を見ない私でもちばあきお先生の名作野球漫「キャプテン」を読んでいるのである程度の知識はあり、私のスポーツ知識はちば兄弟によって植え付けられたといっても過言ではないのです。)ほぼ全員自分より年下なのに「お相撲さん」と尊敬の念を持って呼んでしまうのは立派な体格によるところが大きいのでしょうか。今度は大相撲の取り組みを国技館できちんと見てみたいものだなと思いました。
そんな江戸NORENですが、ほぼ毎日のようにふらふらとやって来るおじいさんがいて。おそらく近所に住んでる人だと思うのですが、齢70はとうに過ぎていて、それこそ「のたり松太郎」に出て来る西尾のおじいちゃんそっくりな風貌で。(ぜひ画像検索してみて下さい。)この人毎回来るのは良いとして必ず酔っぱらっているのですね。「ベロンベロン」という形容詞がぴったりな泥酔ぶりで。昼間からよくそんな酔えるなという、酔拳の達人然として会場に現れては誰彼構わず話しかけているのです。そんなおじいちゃん、私の前でも立ち止まり何か熱心に語りかけて来るのですが、呂律が回ってないので何を言っているのか全く聞き取れないのです。最初のうちは「え?何ですか?」と聞き返していたのですが、そのうち面倒くさくなり「そうですねー」と笑っていいともの客の如き相槌を連続して打っていたら、向こうも「この人は自分の話を聞いてくれる!」と思ったのか、俄然熱を帯びて話し出し。挙句には相撲甚句らしきひと節をそこそこのボリュームで唄い出したりしてトークが止まらないのです。私には全部「バケラッタ」にしか聞こえないなあと思いつつ「へー、そうなんですか〜」「わー、意外ですね〜」「おもしろーい」などと適当に応えていたのですが、途中でおや?このやり取りは何かに似てるな?と気付き。いつも家でミル坊がニャーニャーうるさく鳴いている時に「うん、そうだね嬉しいねー」とか「もうすぐ夏だねー」とか「森友問題も加計問題も疑惑が晴れてないのに共謀罪強行採決とか安倍政権許すまじだねー」とか、適当な会話をミル坊と交わしている感覚に似ているなとふと気付いたのですね。このおじいちゃんを猫と捉えて会話している自分がいたのです。そういう目で見るとこの泥酔じじいもまるでマタタビをキメた老猫に見えて来て。呂律の回らぬ言葉もニャーニャー鳴いているように聞こえるのですね。そうか、お前はおじいちゃんに化けた老猫なのかと思いながらその後も適当な会話をしていたら、やがて恒例の相撲甚句の時間になり。そこで老猫a.k.a泥酔じじいは「俺の出番!」と思ったのか、ふらふらと土俵に近付き「俺も相撲甚句唄えるんだよ!」という意味の「ニャーニャー!」を誰彼構わず浴びせ始めて。その様子を見かねた職員さんがツツーとおじいちゃんの側にやって来て肩をトントンと叩き、やがて静かに外へ連れ出して行くのを私は「そうか〜」と寂しい目で見送りましたけどね。まさにその様は迷い込んだ野良猫をそっと追い出すかのようでもあり。野良猫は野良猫だけど可愛いところもあるじゃない!と私は思ったのですが、近所の人からしたら迷惑でもあるのでしょう。おじいちゃんは「にゃあ〜」とか細く鳴いて寂しそうに会場を出て行きました。
私の家の近所にやけに懐いて来るミミというオスの老猫がいるのですが、人間の年に換算したらあのおじいちゃんくらいかなとふと思ったりして。おじいちゃんを少し不憫に思うと同時に、どんな人も猫として捉えるとちょっとだけ愛着が増すというのを学んだ私です。まあ泥酔じじいと老猫ではそのキュートネスに天と地ほどの差がありますけどね。
たまに横綱級のでっぷりと肥えた猫を見かけることがありますが、うちのミル坊はさながら入門したての序の口サイズでしょうか。一丁前に横綱風な態度を取ったりもしますけどね。泥酔じじいのようにはならないでくれよとミル坊に話しかけたら「ニャー」と応えておりました。「僕は強くなるよ!」と言ってるのだな、そうかそうか、と勝手に都合良く通訳した私です。