賑やかなるノスタルジー 貸切り図書館69冊目

先日は貸切り図書館69冊目、中山うりさんのライブにたくさんのご来場ありがとうございました。もうmolnには4回目の出演となるうりさんですが、今回は初めての編成で新鮮でしたね。うりさんの凛とした歌にトランペットにアコーディオン、南さんのウッドベースと小林創さんのピアノによる鉄壁のアンサンブルが素晴らしかったです。特に小林さんのピアノ、初めて聴きましたが主役を食う勢いの超絶プレイに耳を奪われっ放しでした。(星野源の「恋」でピアノを弾いてるのが小林さんだそう。知らずに何度も耳にしていたのですね。)トリオなのにビッグバンドみたいな賑やかで迫力ある演奏にうりさんの楽曲の良さも際立っておりました。個人的にはデスメタル好きな女の子を好きになる女の子の歌「デスメタルラブ」にグッと来てしまいました。この曲はカバーだそうですが、歌詞がうりさんのキャラクターに合っていてすごく良かったですね。

うりさんの紹介してくれた本は金沢の古本屋で買ったという金子みすゞ「日本語を味わう名詩入門」、エレカシのインタビュー本「俺たちの明日」上下巻でした。金子みすゞの言葉には自分にはない感性があるとのことで、いくつか詩を朗読してくれました。合わせてうりさんの子供の頃の思い出話なども語ってくれました。

エレカシはライブを見に行って以来「エレカシ沼にハマってしまった」とのことで、このインタビュー本を紹介してくれました。しかもちょうどこの下巻を読んでいた時に偶然飲食店でボーカルの宮本さんに遭遇し、勇気を出して話しかけたらお連れの人がたまたまこの本の編集者さんだったそうで。宮本さんは「自分より売れているミュージシャンに好きと言われると嬉しいけど、売れてない人に言われてもそうでもない」みたいな発言をしているらしく(まあ冗談なのでしょうが)、うりさんは自分がミュージシャンであることは明かさなかったそうです。うりさんと宮本さんのコラボなどもぜひ見てみたいですけどね。何より思っている相手に出会えるうりさんの引きの強さが凄いなと思いました。

ベースの南さんは「ISAN 旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」という本を紹介してくれました。この本で紹介されているタイの音楽に興味はあるけど、タイ語で検索出来ないし、英語の検索にも引っかからないので内容を聞けずモヤモヤするとの話でしたが、非英語圏の文化へのアクセスに検索がネックになるというのはなるほどと思いましたね。Siriに聞くにも何て発音するのかわからない場合もありますしね。南さんはタイ映画の特集上映会があるのを知り、タイ音楽に触れられるかもと見に行ったらたまたま見た作品がぶっ飛んだ前衛的な内容だったらしく、よりモヤモヤしたというエピソードを語ってくれました。

小林さんは棋士村山聖を題材にしたノンフィクション小説「聖の青春」を紹介してくれました。小林さんは将棋を指している間だけ現実世界のことを忘れられるというくらい将棋が好きなのだそうで。小林さんの緻密なピアノプレイを聴いていると何だか合点がいきましたね。二手三手先を読みながら構築していく感じというか。「聖の青春」が映画化された際に村山聖役が松山ケンイチだったことについて「全然本人に似ていない、ドランクドラゴン塚地の方がぴったりだ」と小林さんは話していて、後で画像を検索したらなるほど塚地さんの迫真の演技だったら本人に迫れるかもとそのキャスティングの妙にも納得してしまった私です。三者三様の本の紹介が聞けて面白かったですね。

あと図書館つながりで言うと2月から北区の図書館の閉館を知らせる音楽とナレーションをうりさんが担当するそうです。図書館に閉館までいた経験は学生時代以来ないなあと思ってちょっとノスタルジーな気持ちになりました。これはぜひ北区まで聴きに行かねばと思った次第です。

貸切り図書館、次回はNRQ、yojikとwandaをゲストに迎えてお送りします。ヨーワンさんはバンド編成なのでイトケンさんも来ます。ぜひこちらもよろしくお願いしますということで。

2月10日(日)鎌倉moln

「貸切り図書館70冊目」

出演:NRQ/yojikとwanda(+itoken、服部将典吉田悠樹

開場18:00 開演18:30

 

前売り¥2800 当日¥3300(+1drink)

ご予約はmolnまで。

http://cloud-moln.petit.cc/banana/2848417

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演芸と音楽 貸切り図書館68冊目

 

 

先日は貸切り図書館68冊目、直枝政広さんのライブにたくさんのご来場ありがとうございました。moln的にはタカテツさんの翌日に直枝さんという実に濃ゆい2デイズでしたが、たっぷりと堪能させていただきました。前日の江ノ島カーネーション公演と連続して来られた方もいたようなので、お客さん的にも濃ゆい2デイズだったことでしょう。

直枝さんは最近アコギの音をラインで出すのが嫌になったそうで、出来るだけ生の鳴りを聴かせたいと今回マイクで音を拾ったのですが、アルペジオストロークの強弱やプレイの細かいニュアンスが生々しく伝わって来て、すごく良かったですね。歌唱の凄みも部屋で聴いているかのように間近で体感出来ました。

リハの時に「明日は満月だそうですよ」という話をしたら「あ、じゃああの曲やろう」と歌詞に満月が出て来る「LOVERS & SISTERS」を歌ってくれましたが、基本弾き語りのセットリストは客席を見ながら全部その場で選んで決めているのだそうです。そんなセトリですが、弾き語りバージョンで初めて聴いた「サンセット・モンスターズ」も感動的だったし(暑い&熱い野音を思い出しました)、「Strange Days」「十字路」「やるせなく果てしなく」などみんな良かったのですが、何よりもこの日の「ANGEL」は胸を打つ名演でしたね。本の紹介のくだりでは演芸の話題が多かったですが、まさに落語家の名人芸を見ているかのようでした。語り、息遣いに生き様が現れているなあと。直枝さんご本人も「今日のANGELは良かった〜」としみじみ仰っておりましたしね。

今回直枝さんは本の他にもDVDやレコードも持って来てくれて、色々と紹介してくれました。(以下、リストは直枝さんのインスタからの引用です。)

 

「赤めだか」(DVD)
二宮友和、ビートたけし主演 TVドラマ版
昭和元禄落語心中」(TVドラマ)
「やっぱ志ん生だな!」ビートたけし(書籍)
立川談志と落語の想像力」平岡正明(書籍)
「野ざらし」三代目 春風亭柳好(LP)
カーネーション 35周年記念パンフレット
「~35 YEARS OF CARNATION~THE BOOK OF SUNSET MONSTERS」(書籍)
中央公論」1960年12月号 (雑誌)深沢七郎「風流夢譚」掲載号
「講談入門」神田松之丞(書籍)「週刊文春WOMAN」(雑誌)「地べたの二人」玉川太福(CD)「木馬亭浪曲師たち」(DVD)「Elliott Smith Songbook」(書籍)
「時間は実在するか」入不二基義(書籍)
落語を愛する直枝さんはかつて本気で小三治師匠に弟子入りも考えたくらいだそうで、今回は落語を題材にした作品をたくさん紹介してくれました。談志師匠は当時生で見ることが叶わなかったので、後追いで本や映像で勉強しているのだそうです。歌に関しては自分が作っているものなので自己流で表現するだけですが、落語は代々古典を引き継いで時代に合わせて表現していくという難しさがあり、それを追求する姿に憧れを覚えると語ってくれました。直枝さんは噺を身体に入れるとはどういうことなのかを考え、三代目春風亭柳好の「野ざらし」を車の中で繰り返し聴きながら練習して、遂には「身体に入れた」のだそうです。客席からも「聴きたい〜」と声が上がっていましたが、直枝さんバージョンの「野ざらし」をいつか聴ける日が来るのでしょうか。(以前ポップ鈴木さんに落語をやらないかと誘われたこともあったそうですが。)いっそmolnで高座を作って本気で直枝さんの落語会を企画しようかなとちょっと思ったりした私です。直枝さんは以前の貸切り図書館でも上林暁の小説「花の精」を丸々書き写して文章を身体に入れたと語ってくれましたが、表現の会得のためにコピーするという行為が直枝さんにはきっと必然としてあるのでしょう。作品を客前で仕上げていくという一人芸として、落語に学びながら弾き語りを極めていきたいとのことでしたが、この日の「ANGEL」にはその直枝さんの「芸」がまさに現れていたように思います。素晴らしい弾き語りでした。
あとは去年のカーネーション野音公演で販売されたパンフレットの裏話や(本当にギリギリ進行だったそう)、たまたまmolnの隣の古本屋で買った中央公論の話から語ってくれた深沢七郎のエピソードなども面白かったですね。
あと直枝さんは落語の他にも講談、浪曲にも興味があるそうで、神田松之丞さん、今度カーネーションと共演する玉川太福さんを強く推しておりました。神田松之丞はラジオでの強烈な毒舌と小気味好いトークが人気ですが、直枝さんは「対談に於いて人から話を聞き出す手腕に優れている」とか、「講談の面白さを伝えようとする意識の高さが素晴らしい」とか、芸の観点からきちんと彼を評価していて流石だなと思った次第です。私も神田松之丞さんのラジオを毎週聴いていますが、「おもろいな〜」とただただケラケラ笑ってるだけですからね。玉川太福さんはサンキュータツオさんが絶賛していたので気になっていたのですが、直枝さんも推しているとなればチェックせねばと思いました。演芸界の若い才能をきちんと押さえている直枝さんのアンテナが素晴らしいなと思いましたね。2人とも音源をサブスクで聴けるとのことなので、気になった方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
あとエリオット・スミスのスコアはライブで彼の曲をカバーするのに参考にしたとのことで、今回も歌ってくれましたが、やはり学ぶ際には一度身体に入れるという行為が必要になるのだなと思いましたね。
直枝さんはライブの終盤で、今も13歳の時の気持ちのままで物を作っていると語っておりましたが、作品の瑞々しさや演芸や文学、音楽へのあくなき探究心など、まさにそうなのだろうなと思いました。そこに年齢や経験を重ねた円熟が加味されてますます深い表現になっていくのではないでしょうか。直枝さんが70代になってからの「ANGEL」はどんな表現になるのだろうかとふと想いを馳せた私です。
 

私も落語が好きなので、終演後には直枝さんと落語の話で盛り上がりました。そもそも神田松之丞をラジオパーソナリティに抜擢したトナミディレクターが凄いとか、あの回は神回だったとかラジオの話も出来て楽しかったです。直枝さんの落語もいつか聴いてみたいものです。直枝版「野ざらし」の初披露の機会は果たしてやって来るのでしょうか。楽しみに待ちたいと思います。

 

深い話がたくさん聴けた貸切り図書館、ぜひ次回もお楽しみにということで。

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美学と幽玄と狂気 貸切り図書館67冊目

先日は貸切り図書館67冊目、高橋徹也さんのライブにたくさんのご来場どうもありがとうございました。2019年moln初ライブをタカテツさんにやっていただけるというのは何だかとても縁起の良い感じです。リハーサルから柔らかなムードで、とても良いライブになりました。
今回はペダルスティールの宮下さんとのデュオでの出演でしたが、タカテツさんは最後までアコギ1本で通して、繊細なアルペジオから豪快なストロークまで息の合った演奏で魅了してくれました。そんなタカテツさんの美学と幽玄と狂気に寄り添い、時にブーストさせる宮下さんの職人技も素晴らしかったです。あの曲もこの曲もと盛りだくさんのセットは3時間を超えましたが、心地良い緊張感のある演奏とリラックスした雰囲気のトークは聴き応えがあり、あっという間でしたね。個人的には星新一の朗読からの「雪原のコヨーテ」の壮大さ、絵画的な「夏の出口」の美しさ、「大統領夫人と棺」の狂気には圧倒されました。(この3曲畳み掛けですもの!)弾き語りでこれだけの世界を描けるタカテツさんの歌の力たるやです。あと「夜のとばりで会いましょう」も改めて良い曲だなあとしみじみしてしまいましたね。「靴をけとばす」という同じ言い回しが時を経て違う曲に登場するという話は興味深かったです。けとばされた靴が宙を舞い、数年後の歌に着地するだなんて何とロマンチックなんでしょう。(そういえば「3つ数える」というフレーズも複数登場しますね。)宮下さんのソロ演奏も素晴らしかったです。
愛読書トークでは40代から好きになったという村上春樹について語ってくれました。最初はいけ好かねえ野郎だと思っていたそうですが(このタカテツさんが江戸っ子口調でディスるスタイル、私は好きなのです)、マラソンとレコードという共通項から入って良さがわかるようになったそうです。春樹が愛好するジャズが40年代から50年代のものというセレクトに好感を持ったというタカテツさんの感想がレコード愛好家のそれだなあと思いましたね。あとは筒井康隆の話なども語ってくれましたが、トークショーのようにきちんと構成されていて、タカテツさんの喋り上手くなったなあと感心してしまいました。初めて貸切り図書館に出演した時はトークに自信がないと事前にレジュメを作ったりしていましたが。宮下さんの時代小説の話などもあり、とても聴き応えありました。
アンコールでは何とmoln店主にして草tenボーカルあやも参加させていただきまして。草tenに提供していただいた「波の音が聴こえたら」をデュエットし、「Summer Soft Soul」ではコーラスをやらせていただきました。タカテツさんの声に女性声というのもなかなか良い感じでしたね。前日にハモりパートを猛練習した甲斐があったというものです。客席から手拍子もいただき、とても盛り上がりました。
タカテツさんは今年はOLのキラキラ感を目標にすると謎の決意を語っておりましたが、すでにフレッドペリーのカーディガンをOL風に着こなす選手権(40代男性の部)があったらぶっちぎりで優勝でしょう。お財布片手に優雅にランチへ出かける図が容易に浮かびました。この日のダッフルコートもお洒落でしたし。この夜のタカテツさんは終始優しい顔をしていて、もはや性別を超えたお釈迦様か菩薩のような聖なる生き物に見えましたね。笑顔にありがたみを感じるという境地です。それを言ったら「俺はロックンロールキャラだから!」と真っ向から否定しておりましたが。「大統領夫人と棺」を歌う菩薩キャラというのも新しくて素敵ですけどね。
最後には持参した本をジャンケン大会でお客さんにプレゼントというどこまでも盛りだくさんの内容で終わりました。愛読書をご本人からもらえるだなんてこんな嬉しいことはないでしょう。
タカテツさんの新しい1年のスタートを鎌倉で切れたのは我々にとっても嬉しいことでした。彼の今年の活動も楽しみです。貸切り図書館も2019年たくさん開催しますので、そちらもよろしくお願いしますということで。

セツナ美術館

気が付けば1月も半分以上過ぎているのです。早いのです。
年末年始の催事が終わって一応自由の身になったので、どこか旅に出るとかリフレッシュするとか選択肢はあったのですが、1日休んだだけでもうmolnの店頭に立ち、カマクラ張子として動き出してしまったので、妙に忙しい状態がずっと続いているのです。山田氏から「まずSNSのアカウントを取得するように」とアドバイスされたので、取り急ぎカマクラ張子のインスタグラムを開設しました。フォローなどしていただけたら犬の如くきゃんきゃんと尻尾を振って喜びますので、ぜひフォローをよろしくお願いしたく思う次第です。 https://www.instagram.com/kamakurahariko
早速インスタで過去に作ったオーダー招き猫の写真をアップし「お仕事下さいな〜」とアピールしていたらありがたいことにちょこちょことオーダーをいただき、感謝の極みなのです。独立のご祝儀という観点からでもお情けでもいただけるものはありがたいのです。そんなわけでmolnで店番しながら早速いただいたオーダーの招き猫をせっせと作っています。まだまだオーダーは募集中です。いただけると最上級の尻尾振りダンスをして歓喜しますので、五十嵐の最上級尻尾振りダンスを見たい方は(そんな人いるのかしら)、よろしくお願いしたいのです。インスタではこれから新作なども作ってアップしていく予定です。
先ほど1日休んだだけ、と書きましたが、その休みを利用して先日上野の東京都美術館ムンク展を見に行って来たのです。あの「叫び」の本物が見られるとなれば行きたくなるではありませんか。晴れて自由の身となりうきうきした気分で上野公園に着き、巨大な顔がどんと鎮座する上野大仏を詣で、いざ東京都美術館に着くと平日にも関わらずかなりの混雑っぷりで。まるでアイドルのコンサートのような賑わいなのです。え、みんなそんなにムンクの叫び見たいの?と自分のことを棚に上げて思ったのですが、他のお客さんもそう思っていたことでしょう。こんなぎゅうぎゅうの人出の中で絵を見ることなどそうそうないなと思いつつ入場したのですが、やはり本物の絵画作品を眺めるのは楽しいし刺激になるものです。この色の使い方参考になるなあとか、このタッチ面白いなあとか、ムンクの絵って意外にポップで可愛いんだなあとか混雑を忘れてすっかり楽しんでしまいました。これで人が少なかったら最高なのになあと思ったのですが、他のお客さんもそう思っていたことでしょう。
そしてこの日のハイライト、モノホンの「叫び」の登場です。真打ち登場といった感じでしょうか。「叫び」の前だけは特別でっせ!といった感じでロープが敷かれており、客は2列に並んでそこからひとりひとり立ち止まることなく絵の前を通り過ぎながら数秒だけ見られるという謎システムが稼働しているのです。「はいはい、叫びを見たい人は通り過ぎる一瞬だけ目に焼き付けてね〜」と警備員の方が急かすのです。随分刹那な鑑賞の仕方だなと思ったのですが、混雑の緩和の上で仕方ないのでしょうか。私たちも順番に並んで鑑賞に至ったのですが、いざ目の前に叫びが来た!と思ったら「はいはい、止まらないで進んで〜」とすぐに流されてしまうのです。絵を見に来ているのに目の前で立ち止まれないなんてこんな不条理があるでしょうか。「やだやだ、タッチを細かく見たいの!あと数秒で良いから!」と懇願する間もなくすでに行列の出口なのです。「叫びをゆっくり見させて〜!!」と叫びたくなったのは私だけではないでしょう。叫びの絵を目前に、叫びと同化出来た時点で演出としては成功しているのかもしれませんが。しかし叫びに描かれる夕焼けの色味を数秒鼓膜に焼き付けられたのでまあ良かったです。本物を見た!という感動は取りあえず得られました。
しかし深刻なテーマである「叫び」ですが、見てみるとやはりポップで可愛く感じてしまうのですよね。そりゃあキャラクター化されてグッズにもなるし、パロディの題材にもなるし、ピカチュウとコラボもするよといった感じで。まるで動物園でパンダを見るみたいな状況だなと思ったのですが、ポップという意味では同じようなものかもしれません。そういえばハライチの岩井が同じくムンク展を見に行って、「叫び」の前で立ち止まらぬよう促される様子をアイドルの握手会で「はいもう終わりです!」と運営の人に剥がされる状況に例えていましたが、まさしくそれだなと思った次第です。推しのアイドル「叫び」はやはり大人気でございました。こちらの推しはCDを買わなくても会えるのだから御の字なのです。
そんなわけで1月も慌ただしく終わりそうです。年末年始に「ブログを楽しみにしています」と複数の人から言われたので、何とか頻繁に更新したく思っている私です。「叫び」と違ってじっくり対面出来るテキストですし。ぜひ今後もよろしくお願いしますということで。

ピンクの癒し

先日、仕事終わりにブックオフ新春セールを覗いたのですが、かなりの盛況っぷりで。全品20パーセントオフということで何か良いものがあれば買うてやろうと棚を見つつも、物が多いから整理しろよテメーこの野郎、新たに物を増やしてんじゃねーぞ、という罵声が妻の声色で聞こえて来るという謎の現象が起きたので、まあ控えめに1冊だけ抱えてレジに並んだわけです。
セールなのでレジはかなり混んでいて行列が出来ていたのですが、私の前に並んでいた50代くらいのサラリーマン風情のおじさんがカゴいっぱいにエロ漫画を入れているのです。30冊くらいはあったでしょうか。「あー、全部エロ漫画だなあ」とピンク色に染まったカゴを見て、これかXJapanだったら「ももいろだぁ〜!」と紅のテンションでトシが叫んでヨシキがツーバスを踏み、「も〜もいろ〜に染まった、このカゴを〜、なーぐさめ〜るや〜つーは〜、も〜ういーない〜」と歌うのかなと思いながらそのピンクなタイトルを眺めていたのですが、私の後ろにもすでに10人ほど並んでいるのです。若い女子もいるのです。みんながみんな「このおじさんエロ漫画を大人買いしてるなあ」とカゴの中身を目視しているのです。でもおじさんは恥じらうこともなく、むしろ堂々と「我、エロ漫画を大量購入するなり!」と武士の如き佇まいでエロ漫画を抱えているのです。これだけの量のエロ漫画を家に持ち帰れる環境ということは独身なのでしょうか。それとも家族公認の趣味なのでしょうか。いずれにせよおじさんの癒しなのでしょう。ふとそれよりも上流を見ると40代くらいの女性がジャニーズアイドルの雑誌をやはり30冊くらいまとめ買いしており。みんな癒しを求めているのだなあとブックオフのレジにて思った次第です。自分の好きな物にどしどしお金を使うのだ!癒されるのだ!という気概のようなものを新年早々感じました。癒し狩りとでも言うのでしょうか。たくさんの癒しが狩られておりました。
正月三が日は催事で帝国ホテルに通っていたのですが、近くの宝塚劇場の前を通る度に毛布にくるまりながらチケットを得るために朝から行列している女性たちを見て、「宝塚って凄い人気なんだなあ〜」と感心すると共にやはりみんな癒しを求めているのだなあとしみじみ思った次第です。極寒の中、長時間並んでまで観劇する情熱が自分にあるだろうかと思わず問うたほどです。彼女たちはその苦労を厭わず朝から並び宝塚公演を観て癒されるのでありましょう。風邪ひかないよう気をつけて!と劇場前を通る度に(心の中で)声をかけておりました。癒しを根性で得ている女性がたくさんいるのです。
エロ漫画おじさんもやがてレジの順番が回って来て、うら若き女子が会計を担当したのですが、それでも恥じらいなど皆無なのです。まあ目の前の商品捌くのに必死だから店員さんもいちいちタイトルなど見ないでしょうけどね。しかし「大量にエロ漫画買うなあ」くらいの思いはよぎるでしょう。レジを終え、両手いっぱいにエロ漫画を抱えておじさんはブックオフを颯爽と去って行きました。おじさんの部屋の本棚にはずらりとピンクの背表紙が並ぶことでしょう。ももいろに染まったこのおじさんをなぐさめるやつはエロ漫画なのです。トシのシャウトとヨシキのツーバスがピンクに炸裂するのです。何というかまあ、「お互い頑張りましょうや〜」というメッセージをおじさんに送りながらブックオフを後にした私です。
みんな何かに癒されながら、救われながら日々を生きているのです。そんなエンターテイメントを私も作らねばなるまいとぼんやり思いながら池袋の街を歩いて帰りました。そんな2019年の年明けです。

猫の頭レンタル

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
ライブやSNSなどでは報告したのですが、わたくし20年勤めた春日部張子を辞めて、2019年から「カマクラ張子」として独立する運びとなりました。張子作家として鎌倉molnを拠点にして活動する他、「貸切り図書館」などのイベント運営や、molnの業務、勿論音楽活動の方も色々精力的にやっていきたいなと思っております。今後共にどうぞよろしくお願い致します。カマクラ張子と地名を片仮名にしてるのは、かつて同じく鎌倉張子という名前で鎌倉で張子を作られていた方がいたので名前が被らないようにしたまでです。決して「高輪ゲートウェイ」に影響されたわけではないのです。まだ名刺も作ってないので活動はこれからという感じなのですが、ぜひハワイよりもグアムよりもコタツよりもぬくぬく温かく見守っていただけたらと思う次第です。
年末はクリスマスライブの後に風邪で喉を痛めてしまい、催事繁忙期なのに大きい声が出せず、船場吉兆のささやき女将くらいの声量で「い…いらっしゃいませ…」と接客していたのでお客さんは何事かと思われたことでしょう。「あたまが…まっしろ…」くらいの声の小ささで対応していたのですが、やがて咳も出るようになり拗らせてしまい大変でした。これでもかとうがいをし、のど飴を舐め、魔法や呪文の類いも駆使して何とか乗り切りましたが、声が出ないというのは本当につらいですね。(船場吉兆のささやき女将がわからない人は動画を検索して下さい。)
咳をしながら寝ているとミル坊が心配してくれるのか布団の上に乗って来るのですが、おかげで寝返りが打てず、腰も痛めるという被害もあり年末年始は大変でした。猫にお正月という概念などないのでしょうが、元旦はミル坊が朝から「今日から新しい年の始まりだよね?ね?」とにゃーにゃー騒いでいて、何となくめでたいような空気がわかるのでしょうか。ずっと猫の手も借りたいくらいの忙しさでしたが、帰宅してミル坊の頭を撫でていると疲れも取れるので、ある意味猫の手というか、猫の頭を借りて乗り切った感じでした。
そんなわけで2019年、どうなるのか全くわからない状況ですが、とりあえず全力で頑張ろうと決意しながらミル坊の頭を撫でています。冬毛でふわふわの決意です。みなさまも良き1年になりますよう。

小さな巣をつくるように 巣巣のクリスマスライブ

イブに巣巣にて行われた山田稔明with佐々木真里、草とten shoesによるクリスマスライブも無事終了しました。巣巣の等々力でのラスト営業日となったこの日はぎゅうぎゅうの満員御礼でございました。たくさんのご来場どうもありがとうございました。
思えば巣巣と出会ったのも山田氏経由で、その後もfwjのライブをやらせて貰ったり、絵付けワークショップをやらせて貰ったりとお世話になって来ましたが、まさか岩崎さんと一緒にバンドを始めるとは夢にも思いませんでした。人生とは面白いものです。巣巣に来る度、良い空気が流れている空間だなあと思ったものでしたが、その空間でのラストライブとあっては感慨深いものがあるのです。
そんな記念すべきライブは草とten shoesの演奏から始まりまして。新曲でもあり今年リリースしたアルバムタイトルでもある「月曜日にさえずる」という曲からスタートしました。思えば2年前の巣巣でのクリスマスライブがこのバンドのデビューだったのです。「その時は持ち曲が2曲しかなくて〜」と話す岩崎さん。増えたものです、レパートリーが。そして次にいきなりゲスト高橋徹也さんの登場です。山田氏から「当日タカテツさん来るから歌って貰うんだよね〜」とライトにこき使う発言が出されたので、我々も乗っかろうと思いお誘いしたのです。彼が提供してくれた「波の音が聴こえたら」を一緒に演奏しました。当日のリハで初めて合わせたのですが、あやはご本人とのデュエットに「エモい〜」と興奮し、タカテツさんも「何かエロいっすね〜」と手ごたえある感じで。本番でもバッチリでした。演奏しつつタカテツさんの歌唱の艶に改めて魅了された我々です。
そして巣巣で初めて披露した「夏はまっしろ」と「猫にしか見えない色」を続けて演奏しまして。思えば今年はひたすら草テンレコーディングの日々だったのです。ミックスの確認をしに上野さんのスタジオへと歩いた夏の風景が思い出されました。
そしてクリスマスということで「モミの木」を合間に演奏し、そこからゲストに高橋久美子さんに参加していただきました。久美子さんとの演奏はほぼぶっつけ本番だったのですが、カホンやシェイカーなど打楽器でバンドをぐいぐい引っ張ってくれました。ひとりのパワーが加わるだけで演奏は変わるのです。最後の「草とテンシューズ」では久美子さんの指揮で客席から手拍子もいただき。盛り上がって終えることが出来ました。岩崎さんも自分の店のラストを自分のバンドの演奏で締められて嬉しかったことでしょう。みんなで最後まで駆け抜けました。
そして続いては山田氏の登場です。山田氏も巣巣との出会いやこれまでの歩みを振り返りつつ、多彩なゲストでステージを盛り上げておりました。まずは近藤研二さんを迎えて、2人で共作したというクリスマスソングを披露してくれました。先日この曲の初披露の様子をディモンシュで見ていたのですが(何と本番前日に完成したそう)、もうすっかりレパートリーとして定着してる感があって流石だなと思った次第です。そして真里さんとの美しいピアノ曲を経て、私も1曲「やまびこの詩」でゲスト参加させて貰いました。数年前に山田氏と私とで共同のイベントをやったなあとか、ゴメスのファーストを振り返るトークも一緒にやったなーなどと巣巣でのあれこれを思い出しながらお客さんたちの輪唱を心地良く聴いておりました。
そして再びタカテツさんの登場です。巣巣でのタカテツさんの単独のライブは実現しませんでしたが、山田氏にライトにこき使われて何回も出演しているので(笑)、同じくらいの縁が出来ていると言って良いのでしょう。最早馴染みとなった「幸せの風が吹くさ」でソウルフルな歌声を披露してくれました。そこにさらにカホン高橋久美子さんも加わって「my favorite things」と来れば盛り上がらないわけにはいきません。この豪華な組み合わせたるや。
そして続いてはイラストレーターの福田利之さんが登場してのライブペインティングです。事前に岩崎さんから福田さんに絵付けしてもらうからと頼まれて私が素材の張子を用意したのですが、ご本人もまさかステージ上で、横で誰かが演奏している状況で描くとは思っていなかったことでしょう。山田氏は「我々の演奏を聞くことによって張子の絵付けがさらに良いものに仕上がりますから!」と、クラシック音楽を聞かせて野菜を育てるのと同じテンションで熱弁するも「それとこれ、同じですかね〜?」と冷静にツッコミを入れる福田さんが面白かったですね。困惑しながらも絵付けをする福田さんと、それを横目に傍らで歌う山田氏というレアな光景を見ることが出来ました。
そして続いてヒックスヴィル中森さんも登場し、ディランの「くよくよするなよ」の永井宏さんカバーバージョンを披露してくれました。前に巣巣で片桐はいりさん、カーネーションの直枝さんらと一緒に草テンで出演した永井さんのイベントでも歌われていた曲です。そんなシーンもあったなあと、さらに巣巣での良き思い出が蘇りました。
そして草テンメンバーもゲストに加わりまして。山田先生書き下ろしの「冬の日の幻」を一緒に演奏しました。初披露したあの日から2年、感慨深いものがありました。そしてここで我々草テンチームと山田氏から岩崎さんにサプライズで贈り物を渡しまして。かねてから村長さんになりたいと公言する岩崎さんに酋長さん(?)をイメージしたレイと花かんむりをプレゼントしたのです。「え〜聞いてなーい」とリアクションする岩崎さん。そうです、教えてないのです。それがサプライズなのです。いつも山田氏が岩崎さんを泣かそう泣かそうと演出するも、本人はあっけらかんと笑ってるパターンが多いのですが、流石に今回は涙がキラリといった様子でした。そんな頭上と胸元に麗しき花を、瞳に小さな湖を浮かべた岩崎さんと共に、彼女の著書から生まれた名曲「小さな巣をつくるように暮らすこと」を演奏しライブは大団円を迎えまして。お客さんのラララ、というコーラスが鳴り響き、とても感動的な空間になっていたと思います。こうして等々力に於いての巣巣の歴史に幕が閉じられたのです。物語だったら「第1章完」「第2章へ続く」というテロップが入るところでしょうか。

終演後にはCDにサインしたり、お花やお土産などをいただいたり(本当に感謝です!)、お客さんと交流出来ました。福田さんの描いた張子も素晴らしく、私がコレクションとして欲しいくらいだったのですが、岩崎さんとのジャンケンに勝ったお客さんへとプレゼントされました。福田さんとは私の作ったリンゴの張子に福田さんがイラストを描くというお仕事でご一緒したのですが、ライブでも共演出来て嬉しかったです。みんなに声をかけられる岩崎さん、そして笑顔に溢れる巣巣の様子を見ながら、このピースフルな光景をいつまでも覚えておこうと誓った私です。まあ等々力での営業が終わっただけで、また新しい地で再開しますしね。来月には商品の売り尽くしのセールもあるようなので、ぜひチェックしてみて下さい。
そんなわけで2018年、なかなかに激動な1年でした。来年もそこそこ激動にして行けたらなと思っている私です。頑張りましょう!それではみなさん良いお年をということで。