印鑑滅の刃

2月になってしまいました。早いのです。

1月もそこそこ張子業が忙しく、日々仕事に追われていたのですが、fwjの音源のサブスク流通の手続きもしないとなあということで、レーベル業の方も動いているのです。草とten shoesのアルバムをリリースするのに自分でレーベルも始めたわけですが、今回石本さんのご好意でmaoレーベルに残した楽曲もこちらで管理させてもらえることになり。そこそこ数があるので大変ちゃあ大変なのです。曲を配信するのにISRCという番号を曲毎に不番しなければならないのですが、全部の楽曲のデータを打ち込んで事務局に申請したら、書類に印鑑押してFAXするよう指示され。楽曲をデジタル配信するのに印鑑とFAXというアナログじみた手続きが必要な辺り日本はつくづく印鑑文化だなあと思うわけですが、それに当たって印鑑証明も必要になり。仕方なく市役所へ出向き登録することにしたのです。
コロナ禍でも役所はそこそこ混んでおり、みんなマスクしながらせっせと働いているのです。みんな日々何かしらの手続きが必要で、それに当たって何かしらの書類が必要で、それらに印鑑が付いて回るのだなあと思うと便利なんだか不便なんだかわからなくなりますね。もう全部ネット上でちゃちゃっと出来なくない?と思うわけですが。テレワークしていても上司の印鑑が必要で出社しなくちゃいけないなんて話も聞きますし。

印鑑不要なシステムへの移行について想いを巡らせながら窓口にて印鑑登録をお願いしまして。印鑑登録する上で職員の方に申請書類に印鑑を押してもらうのですが、なにせくっきり綺麗に印鑑を押さないと登録出来ないのです。なかなか大事な作業なのです。今回担当が若い女性の方だったのですが、「では押させていただきます」と力強く押すもファーストアクションに失敗し汚れが入ってしまったのでしょうか。「あ、やべえ」みたいな表情をしたのを私は見逃しませんでした。その後女性の方は動揺しつつも「も、もう1回押しますね!」と言い、これでもかと念入りにティッシュで印鑑の汚れを落とし、親の敵の如くぎゅぎゅっと朱肉に印鑑を押し付け、「全集中、水の呼吸、壱ノ型、印鑑押しぃ〜!!!」と鬼滅の刃よろしく「きえええ〜」と(私には聞こえました)予備の欄に力強く印鑑を押し。ぱっと見ると綺麗に印鑑が押されているのです。大成功なのです!「おお〜」と女性の方を見ると鬼を斬った後の竈門炭治郎のような恍惚の表情をしており。まさか市役所で斯様に華麗な鬼斬りを見るとは思いませんでした。鬼滅の刃ブームはここまで浸透しているのだなと感心してしまった次第です。
そして「では登録しますね」と炭治郎に言われしばし待っていると窓口に呼ばれ。「五十嵐さん、こちらの別な印鑑がすでに登録されているのですがどうしますか?」と聞かれ。見せてもらうと見覚えのあるようなないような五十嵐の印鑑がそこに押されているのです。瞬時に己の記憶を辿る私。そこで朧げにかつて高級な印鑑を誰かに作ってもらい、それを実印と決めたような記憶が井戸の奥底からぼんやり浮かんで来たのです。もう10数年以上前のことです。しかしその実印が今どこにあるのか、実家にあるのか今の自宅にあるのか、探すのも面倒だし炭治郎に水の呼吸で押してもらっちゃたしと逡巡し、「あーもう、さっき押してもらった印鑑で再登録して下さい」とお願いするに至ったのです。あの印鑑はどこへ行ったのだろうか?としばし昔の記憶を辿ったのですが、人間の記憶というのは儚いものですね。登録以後押されることなくその命を全うすることになるとは旧印鑑くんもまさか夢にも思わなかったでしょう。面倒なのでその後探す作業もしていないのですが、いつかどこからかひょっこり出て来るかもしれません。かつて役所に印鑑登録された僕だよと。
最新のデジタル文化の裏に斯様な旧きアナログ手続きあり。何か訓えを含んだ寓話のようですが、今の日本社会って全体こんな感じなのでしょうね。

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「14.8℃カマクラ」石本聡さんからのコメント

fishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」に向けて色々な方からのコメントをいただいておりますが、今回ご紹介するのはpasadena、Red Tubby and Calico、あらかじめ決められた恋人たちへなどで活躍する石本聡さんからのコメントです。
石本さんはそもそもfwjを世に出してくれた恩人とでも言いましょうか。彼の主宰するレーベルmaoにデモ音源を送ったところからfwjのキャリアはスタートしたのです。デモを聴いた石本さんから連絡をいただき、会ってみたら偶然私の大学のサークルの先輩で、話してるうちに意気投合して「うちからアルバム出そうよ」とすぐにデビューが決まったという。それが2003年の暮れのことでした。
fwjのファーストアルバム「残響ピクニック」のジャケット写真は葛飾区の水元公園で撮影しました。カメラマンはかくたみほさん。私と石本さんとみほちゃんの3人で公園内をぐるぐる回って撮影しました。あの空気感は今でも鮮明に覚えていますね。アルバムは4月発売だからとコートを脱いで春っぽい雰囲気で撮影したのですが、実際日差しもあってそんなに寒くなく、不思議な感じでしたね。あれから17年経ってまた同じ人にジャケット写真を撮ってもらうというのも感慨深いものです。
感慨深いと言えば今作「14.8℃カマクラ」では石本さんとも1曲コラボしているのです。お互い猫と暮らしている身なので、「猫時計27時」という猫曲を一緒に作りました。最初はオーソドックスなレゲエ調の曲を渡したのですが、「今はこっちの気分なんだよね」とガラッと変えたアレンジを送って来たので、私もそれに乗りメロを変えたりして今の形になりました。こういう作業は書簡をやり取りするかのようで楽しいのです。お互い最近クルアンビンとか好きなんだよねとか話しつつ。猫はだいたい寝ているのですが、急に走り回ったりするし、猫の時計では一日がどう回っているのか、27時はどんな気分なのかとふたりで想像した結果、こんな曲になりました。
猫にとっては24時間という概念がそもそもないのでしょうが、うちのミルココを見ているとお腹が減って明るくなったら朝、お腹が減って暗くなったら夜、くらいの感覚はあるように思います。特にミル坊の腹時計は正確で、毎朝同じくらいの時間に「朝ご飯まだ〜?」と起こしに来ます。夜中足元で寝ている猫たちを見ると、ああ、今猫時計27時なのかなとふと思ったりします。そんな猫に想いを寄せた曲です。

私のリクエストで中盤ダビーな展開を作ってもらい、石本さんのリクエストでふたりのギターの絡みのパートを作りました。お互い猫と暮らす者同士の猫への目線が音に現れていると思います。こうして時を経て一緒に作れるというのも嬉しいものだなとしみじみ思った次第です。

 

 


1曲めが流れ出した瞬間、五十嵐くんのギターらしい硬質な音がうわぁっと広がってきて、まずはそれだけで胸いっぱい。
fwjらしさは変わらないけれど、沈黙を守っていた間に五十嵐くんが吸収した音楽が吹き込まれて、懐かしいだけじゃない「現在」の音になっているのが流石だなと思いました。そして生活者として地に足のついたスタンスで音楽に向き合っているニュートラルな佇まいが、音からも、ジャケットからも、「ココちゃん、雨降ってきたねぇ」という何気ない言葉からも伝わってきて、でもその何気なさこそが力強さなんだよなぁ、と。


1曲一緒に作らせてもらいました。
昔は春日部と池尻だったのが今は鎌倉と鵠沼海岸
時の流れというのは不思議なものです。


石本聡

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キャッシュバックを追いかけて

先日新しくBluetoothスピーカーを購入し、サブスクで色々な音楽を発掘して楽しんでおります。名前は知ってるけどちゃんと聴いたことのなかった音楽に触れられるのは楽しいし、世界が広がりますね。fishing with johnの音源もサブスク配信に向けて動き出しております。今やフィジカルでリリースしました、買って下さいだけでは世界に広がらないのです。サブスクの海に放流しないことには。

Bluetoothとか言われても目に見えないし、どうやって繋がっているのか、それで言ったらWi-Fiだってどうやって繋がっているのか、可視化されたら世界は無数の線で溢れているに違いないと思うのですが、未だに不思議に思いますね、無線で通信が繋がる現象は。メイプル超合金の漫才で「ここら辺Wi-Fi飛んでるなあ!」とカズレーザーが振り払い「お前Wi-Fi見えるのかよ!」と安藤なつがツッこむネタがありましたが。なかなか通信が繋がらない時など、可視化されていたら無理矢理「え〜い!」と線を引っ張って来て繋げられて便利なのになと思ったりします。運命の糸みたいに赤いのでしょうか、その線は。名前はブルーですけれど。
その購入したBluetoothスピーカーがちょうどキャッシュバックキャンペーンを行っており、メーカーのサイトから申し込むと2000円戻って来るらしく、早速手続きしてみたのです。スマホで住所や氏名など諸々打ち込み、全角と半角の面倒な仕分けも乗り越え。(しかしあの数字だけ半角じゃないと駄目とか、逆に全部全角じゃないと駄目とかのシステムは何なのでしょうか。入口に「半角」「全角」のドアがあって「えーお前そっちのドアじゃないと入れないのかよう〜」と途中で分かれる感じが嫌なのですが。)項目を進めて行くと「商品を買った領収書の写真を添付して下さい」というのが現れ。そりゃそうか。証拠がないとバックも出来ないよなと思い、一旦そこを離れカメラを起動し、領収書をカシャッと撮影し、再び手続きページに戻ると「ページが無効になりました」と表示され、さっき打ち込んだ情報が全部リセットされているのです。私はおいおいおいおいマジかと思い、仕方なくページをトップに戻し、住所や氏名など打ち込み直し、全角と半角の仕分けを乗り越え、領収書の写真を添付し、さあ2000円バックだ、我の手に2000円を、とさらに項目を進めると「製品パッケージの品番、バーコードの写真を添付して下さい」というのが現れ。おいおいおいおいまた写真かよと思い、一旦そこを離れカメラを起動し、すでに捨てようと思い折り畳んだパッケージを拾って広げ、該当部分をカシャッと撮影し、再び手続きページに戻ると「ページが無効になりました」と表示され、さっき打ち込んだ情報が全部リセットされているのです再び。おいおいおいおいおいおいお前は目を離すとどこかに遊びに行っちゃう犬か!ステイステイ!何でおとなしく待機出来ねえんだ!と尻尾振ってキャンキャンと遠くに駆けて行った犬を連れ戻し、住所や氏名など打ち込み、全角と半角の仕分けも乗り越え。これはもう「全国五十嵐にキャッシュバックさせないの会」の鎌倉支部の会員による妨害なのだろうか、手続きページを元気な犬にされてしまう魔法でもかけられているのかと思いながら写真も添付し。今後のセールスメールを希望しますかの欄のチェックを次々と外し(どうしてこうも隙を見せればセールスメールを送って来ようとするのでしょうか企業は)、何とか申し込みを終えたのでした。いやー大変でした。無事2000円が戻って来ると良いのですが。
政府の愚策と無策により一向に明るい未来が見えぬ美しい国に生きておりますが、Bluetoothで繋がる世界の音楽に癒され励まされているこの頃です。そして猫は可愛いです。犬はすぐどこかへ行っちゃいますけどね。

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物語に寄り添い、鳴る

fishing with johnの新譜をリリースしてひと月が経ちました。聴いてくれた方々から色々感想などもいただいているのですが、小説家の小路幸也先生からお褒めの言葉をいただいたのが嬉しかったですね。小路先生は昔からfwjの音楽を聴いてくれていて、執筆のBGMにも流してくれているそう。物語の生まれる背景に自分の音楽が鳴っているだなんてこんな光栄なことはないです。

時間も出来たのでその小路先生の「東京バンドワゴン」シリーズを読み返したりしているのですが、このコロナ禍に於いて意識はしてなくても心が疲弊しているのか、優しい物語を求めている自分がいるのです。そんな自分の心ににすいすい染み込んで来るのです、この物語が。下町で古書店カフェ「東京バンドワゴン」を営む四世代の笑いあり涙ありの大家族物語なのですが、こんなお店あったら通いたいよ〜と思っているうちに私の中ですでに実在のお店としてイメージされてしまいました。数年前に亀梨くん主演でドラマ化もされていて、それも毎週楽しみに見ていたのですが、その映像とはまた違うお店が自分の中で出来上がっているのです。そのお店で鳴っているBGMは勿論fishing with johnです(笑)。小路先生自身が執筆中のBGMにしていたと仰っているので、あながち間違いではないのです。頭の中でバンドワゴンに来店しては珈琲を飲みながら古書を眺めています。物語に浸るというのも癒しのひとつなのではないでしょうか。
作中に登場する伝説のロッカー我南人は勝手に頭脳警察PANTA辺りをイメージしていたのですが、ドラマ化された時には玉置浩二が演じていて、玉置さんくらいの歌唱力を持った大歌手なら伝説に留まらず現役バリバリで活躍してるんじゃないかと思ったものでしたが、圧倒的な歌唱力で説得力がありましたね。常連客のイケメンIT社長の藤島は西島秀俊をイメージしていたのですが、実際演じたのはV6のイノッチで、うーんまあイケメンということで良いのかなジャニーズだしと、ごにょごにょ思ったのですが、映像化って読者毎に脳内キャスティングされてしまっているから難しいですよね。あのドラマ、もう一度見てみたくなりました。他のキャストもみな魅力的でした。
fwjはインストなので作業しながらとか、散歩やドライブなどの移動中のBGMにも寄り添えると思うのですが、聴く人によっては何かのストーリーや絵が頭の中に思い描かれるかもしれません。見ている風景や思考に何かしらの光やヒントを与えられたら良いなと思っているのですが、単純に心地良いなあくらいの感想でも嬉しいのです。言葉のない音楽なので、色々な聴き方をしていただきたく思っております。それこそ読書のお供にも良いのではないでしょうか。家にいる時間も増えそうなので、私ももう少し本と向き合う機会を作りたいなと思っているこの頃です。
fishing with john新譜「14.8℃カマクラ」絶賛発売中です!

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有楽町、冷静と情熱のあいだ

年末からずっと張子業で忙しく、fwjの新譜リリースも重なり、馬車馬の如くひーひー言いながら働いていたら2021年になっておりました。新年も明けて10日ほど経ち、ようやく自宅の大掃除に取りかかれるくらい何とか落ち着きました。まあ自分が落ち着いたと思ったら世の中の方がまた落ち着かない状況になってしまっているんですけどね。

元旦から3日までは帝国ホテルの催事に出ていたのですが、東京の感染者数が莫大に増えたのもあり、宿泊のお客さんも例年より減っていたようですね。我々出店者も数が減っていましたし、小さな規模で日々感染対策に気を付けながら仕事をしておりました。
参加者は全員朝と夜の2回検温をして記録するのですが、ピッと身体に当てるだけで一瞬で熱が計れるシステムは凄いですね。あれを目の当たりにすると、昭和の時代に水銀の体温計を一度振って熱を下げてから脇に差し込んで数分待ってようやく己の体温を知れたあの一連の儀式は何だったのかと思いますね。これまでの人生で蓄積して来た「一連の熱を計るまでの時間」をまとめたら映画1本分くらいあるんじゃないか、その時間で見るなら何の映画かしら、「冷静と情熱のあいだ」かしらなどと想いを巡らせてしまった私です。(冷静と情熱のあいだってちょうど平熱って感じですよね。)
大型施設の入口にもその場に立つだけで熱がわかるシステムが導入されてますが、あれって体温じゃなくてその人の年収とか容姿の点数とかが出て来ると思うと嫌ですね。「え、俺の容姿って65点だったの?」とか。「次回は身体を鍛え上げて70点超えてやるぜ!」とか。いずれにせよ己の身体にまつわる数値が目の前に表示されるってそんなに気分の良いものではないなと思いながら検温されておりました。まあ仕方ないんですけどね。感染対策ですから。
元旦は有楽町の辺りも閑散としており、それでもふらふら歩いている人がいて「何の用事でここを歩いているんだろう」とか思ったのですが、自分もきっとそう思われていたのでしょう。閑散としていてもコンビニは営業しており、そこで買ったハイボールを飲みながらfihing with johnの新譜を聴いていたらまるで映画のワンシーンみたいな雰囲気でした。世紀末のトーキョー。人のいない元旦の有楽町の路地裏。fwjの音楽はそこにも合うのです。こんな宣伝の仕方で「よし、じゃあCD買おうっと!」と思う人はいないでしょうが。
三が日は電車もガラガラで快適でしたね。人のいない電車ってロマンがあるというか、このままどこか異世界へ連れて行かれるかのような感覚があります。銀河鉄道の夜的な感じで。ふと寝落ちして、目覚めて電車を降りたらコロナのない世界だった、みたいなことがあれば良いのですが、電車は普通にコロナ禍に揺れる世界に滑り込みました。カンパネルラは幸せな場所に行けたのかしら。

無能で狡猾な政治家、陰謀論に縋る輩、醜悪なるものに溢れた美しい国ですが、医療関係者に最大限の感謝をしつつ、健康で笑いながら生き延びたいと思っている2021年です。本年もよろしくお願いします。

 

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「14.8℃カマクラ」高橋徹也さんからのコメント

2021年になりました。本年もよろしくお願い申し上げます。

2020年の暮れにリリースしたfishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」ですが、おかげさまでポツポツと売れており、CDに添えている私のサインも板に付いて来ました。前は「五十嵐祐輔」と役所で書類に名前を記入するかのようなサインだったのを、fwjのwを猫の耳に見立てたサインをあやに考案してもらい、それをサラサラと書いています。いつなんどきサインを頼まれてもサラサラです。どんとこいです。なかなかライブもし辛い状況ですが、2021年はこのアルバムをじっくり売って行こうと思っております。
アルバムに向けて色々コメントをいただいているのですが、尊敬する音楽家であり友人でもある高橋徹也さんにもコメントをいただきました。
コメント内で触れていただいた「草原ヘッドフォン」という曲はインストが並ぶ中、唯一言葉のある曲で、2012年にOTOTOYからリリースされた被災地支援チャリティーアルバム「Play for Japan 2012 vol.4」に収録されたので、そちらで耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。ライブでも頻繁に演奏して来た曲です。
古い曲なので今回アルバムに収録するか迷ったのですが、久々に聞き返してみたら1周して新鮮に思え、「この青臭さもアリだな」と収録に至りました。タカテツさんが引用してくれた箇所は私も気に入っているフレーズで、そのチョイスに流石だなと思った次第です。

タカテツさんはちょいちょい「このレコード、五十嵐さんぽくないですか」とか「このアーティスト、五十嵐さんの音楽に通ずるものを感じました」とラインを送ってくれるのですが、実際私が愛聴しているレコードだったり、好きなアーティストだったりして、「流石タカテツさんだなあ」と毎回感心してしまいます。そしていつも良いレコードを紹介してくれるリスナー及びハンターとしても信頼出来る人です。(タカテツさんが紹介しているレコードを買うと間違いないので、音楽好きな方は彼のツイッターを追うことをおすすめします。)
タカテツさんはツイッターでもアルバムを紹介してくれて、「前作で感じた都市や郊外のワンシーンは鎌倉という舞台を得てより大きなスクリーンへと昇華していったように思う。基本温厚な人柄の五十嵐さんが時折見せる強さみたいなものも大好きです。」と嬉しいお言葉を添えていただきました。
去年タカテツさんに出演していただく予定だったmoln10周年記念ライブも延期になったままです。可能であれば今年こそ実現させたいと思っております。高橋徹也さん、ありがとうございました!

 

 

『14.8℃カマクラ』に寄せて

 


住んでいる場所や街が、音楽に与える影響って何だろうか。fis hing with johnこと五十嵐祐輔の新しいアルバム『14.8℃カマクラ』 を聴きながらふとそんなことを考えていた。

 


本アルバムの主役、五十嵐祐輔くんとは、2013年頃、 とあるライブ・イベントでの共演をきっかけに親しくしなり、 現在も僕にとって大切な友人で音楽家だ。 それは同時に彼の住む街、鎌倉との関係の始まりでもあり、 夏の終わりのバーベキュー、お寺巡り、焼き鳥ミーティングなど、 良い思い出ばかりがいくつも頭に浮かんでくる。

 


2020年は誰にとってもある意味不自由で特殊な時間になったと 思うけれど、 その分余計に身の回りの小さな変化や発見も多かったのではないだ ろうか。この『14.8℃カマクラ』に収録された11篇のインス トゥルメンタル・トラック(ポエトリー・リーディング)からも、 そんな日常の息遣いが静かに聞こえてくるようだ。

 

 

 

自転車ボーイが僕らに挨拶

挨拶という字も読めるけど書けない

でも僕ら毎日こんにちはとかさようならって言ってるよね

 


「草原ヘッドフォン」歌詞より

 

 

 

今日も僕の住む街で、そして世界のどこかで、 自転車に乗った少年とすれ違ったならば、 そっと笑って挨拶してみよう。こんにちは、さようなら。 きっとまた優しいアルペジオ・ギターのリフレインが、 新しい一日のファーストシーンに連れて行ってくれるはずだから。

 


アルバム発売おめでとう。

 

 

 

高橋徹也(音楽家

 

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「14.8℃カマクラ」古川誠さんからのコメント

fishing with johnの新譜「14.8℃カマクラ」が発売になり、「毎日聴いています」とか「とても心地良いです」とか色々感想をいただいております。インストなので歌ものと違って歌詞を考察するとか、一緒に口ずさむとかのアプローチが出来ない分、どう聴いて良いのか迷う方もいるかもしれないですが、何も考えず聴いていただければと思います。作業中のBGMとして何となく耳にして心地良いとか、街歩きのBGMとして普段見ている景色が少し変わるとか、そんな感じで日々に鳴らしてもらえたらと思います。もちろんヘッドフォンをして繊細な音の構築をディープに楽しんでいただいても良いですし。

今回アルバムに向けて元オズマガジン編集長、現メトロミニッツ編集長の古川誠さんにコメントを寄せていただきました。私に近しい人の中で最も美しい文章を書く人が古川さんで、編集者としての鋭い視点に加え、自身も小説家として本を出版されたり、ブランドを立ち上げTシャツを販売する表現者としても豊かな才能を発揮されている古川さんにぜひアルバムに向けて言葉をいただけたらと思いお願いしました。旅先で何度も聴いてくれたという古川さんの美しい言葉に、このアルバムを作って本当に良かったと報われる思いがしました。言葉のないインスト音楽は聴く人の感性やイメージに頼る部分が多いのですが、古川さんの言葉にはこのアルバムを深く味わうきっかけのようなものがあるように感じます。「知らない町の誰かの日常が、色を得て動き出す。」という文末の一節はそのままこのアルバムのキャッチコピーになり得ると思いました。古川誠さん、本当に素敵な言葉をありがとうございました。

 

日本中のあちこちの知らない町を歩くのが好きです。

新幹線の車窓に流れる景色の向こうにある家々の暮らしを思うのが好きです。

月夜を歩くときに、あの人はどこかで見ているかなと思うのが好きです。

アルバムを聴くたびに、ここではないどこかのことを思いました。

1曲1曲に、世界があった。

ある町には雨が降っていて、ある路地では猫が日向ぼっこをしている、

ラーメン屋で漫画を読みながらラーメンをすする人がいて、

駅前でティッシュを配っている若者は絶望的な片思いをしている。

そうしてそれは同時並行的に、この広い世界のなかにある。

世界が多面的で多義的であること。そのシンプルなルール。

アルバムを聴きながらずっと感じていたのは、そのことでした。

それがどうしてかはぜんぜんわからないけど、

答えがあることが正しいこととはちょっと違うから、

僕はわからないまま、また1曲目に戻る。

知らない町の誰かの日常が、色を得て動き出す。

 

古川誠(編集者・小説家)

 

 

 

 

 

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