私、サッカー観戦をして

日本中が注目していたサッカーの試合、
私はギターの弦を張りながら家で観戦していたのですが、
後半逆転された辺りから、
「ああ、漫画ならここでヒーローが登場して
逆転し返して勝利をものにするところなのにな。」
などと思ったのですが、みなさんそうは思いませんでしたか。
劇的なヒーローの活躍を。


逆転されたシーン、怪我で控えていた主人公がついに立ち上がり、
「監督、ここはオレに行かせてください!」と告げるのです。
「いや駄目だ!お前は怪我をしているじゃないか。」
「いや、大丈夫です。ここであの技を試してみたいんです!」
「あの技ってまさか・・・。危険過ぎる!
練習では一回も成功しなかったじゃないか!
へたしたらお前の選手生命も絶たれるぞ!」
「いや、監督!この4年間の想いをぶつけさせてください!
オレにサッカーのすべてを教えてくれたじっちゃんの名に賭けて!
成功してみせます!」
「うーむ・・・。」
監督はしばし悩み、しかしその後ヒーローを送り込むのです。
「よし、じゃあ行って来い!頼んだぞ!」
「はいっ!」
そしてピッチに降り立ったヒーロー。
観客は沸き立ちます。
相手チームも「むむ、あいつか。」と厳しい表情。
試合再開、みながヒーローの迫力に押されるように
気合いを入れ直します。
「よし、あいつにボールを渡すぜ!」
そしてチームメイトのパス回しによってヒーローの元にボールが。
いよいよです。
「よし、チャンスだ!行くぞっ!」
ヒーローは空高くジャンプをし、叫びました。
「必殺!!スーパーエキセントリックジェネレーション
アトミックドラゴンフライスクリューストロングシュート!!」
そう叫ぶと、うだるような高熱に包まれた周囲が俄にかき曇り、
激しい雷雨が降り出し、その降水によって湖が出来上がり
スタジアムを満たし、巨大なる竜がとぐろを巻いて天へ上昇し、
風速45メートルの強風とともにヒーローが雄叫びを上げ、
ボールを蹴り上げ、ボールはしなりで直線の如く変形し、
芝を巻き上げながら直進し、相手チームのキーパーの体に直撃!!
キーパーは「オーマイガーッ!!!!」と叫びながら
ゴールもろとも天空に舞い上がり、審判は叫ぶのです。
「ゴォォォォォール!!!」
やりました。ついに決まったのです!
「じっちゃん!!オレ、成功したぜ!決めたぜ!!」
そしてヒーローは地面に降り立ち、
観客はずぶ濡れになりながらも「やった!ゴールだ!!」
「ついに決まったな!」「逆転だぜ!!」
スーパードラゴン、えーと何だっけ?わかんないけどすげえ!!」
と沸き上がりました。そうです、逆転です。
残り時間もこのヒーローのシュート力があれば勝利は間違いなしです。
観客はヒーローの登場に酔いしれました。
ああ、ビクトリー。
我々のヒーローの活躍に乾杯だ!!!
勝利を我らに!!


などと勝手なこと夢想している間に気が付いたら
1対3で負けていました。
私は「ああ、漫画と現実って違うんだな。」
などと思いながらギターの弦を張り終え、
Cmaj7のコードをジャランと新しく空に放ったのです。


そう、ひとりで。
夜に塗れて。