鬼太郎における緊張と緩和についての考察

先日、我が姪っ子に久々に会った際、
「ゆーくん、これ読んでー」と彼女が小冊子を私に手渡すので、
何であろうかと見やると「たのしい幼稚園」なる雑誌で、
なるほど自分で読むには漢字など読めない字があるので
大人である私に読み聞かせてほしいというオファーであるかと
私は即座に彼女の依頼内容を察すると同時にそれを承諾し、
そんなことくらいお易い御用であるぜ的な高めの声色で
「どれ貸してご覧なさい」と彼女から雑誌を受け取りつつ見やると、
なるほど確かに幼稚園児が読むと楽しいと思われる明るい誌面で、
さすが「たのしい幼稚園」を名乗るだけのことはあるな、
幼稚園児必読のバイブル的存在というわけだなと認識し、
同時に考察するに「小学一年生」は小学一年生が読むのに楽しく、
主婦の友」は主婦が読むのに楽しいといった具合に
雑誌の名はその体を現す仕組みなわけだなと理解しつつ、
「an・an」はでも別にアンアンが読むのに楽しい雑誌ではないな、
つーかアンアンてそもそも何処の層を指す言葉なんだろう、
その名称の由来は一体何処からなのかしらんと
ふとアンアンの由来にまで思考が及んだところで私は我に返り、
いや、今はアンアンよりもたのしい幼稚園に集中するべき!
と危なく自分を取り戻すに至ったのですが、
「どこを読んでほしいのだ」といざ彼女に問うてみると、
ゲゲゲの鬼太郎ー」と言うのでそのページを開くと
なるほど、鬼太郎のショートストーリーが展開されているのですね。
勿論水木しげる先生の画ではなくアニメの絵で。


そこで私は早速「ゲゲゲの鬼太郎。」とタイトルコールから始まり
その物語を読み聞かせるに至ったわけなのですが、
それがまあ取るに足らないような内容なんですけどね。
ティッシュ配りのバイトをしている猫娘のところに
強い妖気を発する妖怪「ぬらりひょん」が近付いて来たので、
「危ない!」と鬼太郎が助けようとして駆け寄るも、
ぬらりひょんは風邪をひいていて、
単に鼻をかむのにティッシュが欲しくて猫娘に貰いに来ただけで、
鼻をかむだけで帰って行ってしまい、
襲いに来たんじゃなかったのかよ!と一同ずっこける。
みたいな実にささやかなオチのお話なんですが、
まあでも一応オチはオチということで
それをざっと読み聞かせてみたところ、姪は無反応なのですね。
それどころか「もう1回読んでー」とリピートを要求するのです。
む、これは私の演技力に難ありでオチが伝わらなかったかと
私は即座に猛省し、己への駄目出しと共に改善方法を練り、
もう一度「ゲゲゲのき〜たろ〜う〜」と
今度はタイトルから抑揚を付けて読み上げてみるに至り、
ぬらりひょん登場のくだりでは火曜サスペンス劇場風の
事件が起きまっせ的な恐ろし気な雰囲気で盛り上げ、
最後のオチでは「ズコッ!」などと鬼太郎がこけるサウンド
なぜか笑介」のオチの如く演出して付けてみたりし、
吉本新喜劇もかくやというくらいのオチに仕立ててみたのですが、
姪はそのオチに笑うこともなくただ猫娘を指差し、
「ねこむすめー」などと言うておるのですね。
いや、我が姪よ。ねこむすめーではないのだ。
今のストーリーを読み上げた私の演出はどうなのだ、と思いつつ
「いや、これの面白いところはだな。
ぬらりひょん登場の際の緊張感溢れる前フリを受けて
オチでの鼻をかむだけかい!というずっこけによる
緩和が笑いを誘うという図式なわけで、そこがミソなのだな。
緊張と緩和が笑いを誘発するわけだ、わかるか我が姪よ。」
と笑いのシステムについて私が解説を試みると
「うーん、わかんないー」とか正直に申すのですね。
まあそうだな、わからないよなー、と思いつつも
このストーリー自体如何なものか、
どうせならねずみ男の頭上にタライが派手に落ちて来て
「ぼいーん!」みたいなドリフ的なオチの方が
子供にはわかり易いのではないかと思うに至ったのですが、
まあ幼児の読むお話ですからねそもそも。
そこまで考えなくても良いわけなんですが。
つーか鬼太郎って一応妖怪漫画だし、
タライが落ちてぼいーんはないだろうという話ですけどね。


しかし「ゲゲゲの鬼太郎」に「げげげのきたろう」と
片仮名にもルビが振ってあるのが何だか新鮮で、
そうか幼児は片仮名もまだ読めないのだなーと思ったわけなんですが、
ルビがないと「ガガガの鬼太郎」と書いてあっても
ゲゲゲの鬼太郎」だと認識してしまう危険性があるわけで、
ルビって偉大だぜと私は改めて感心してしまった次第です。
ガガガの鬼太郎はゲゲゲの鬼太郎よりも風情がないですよね。


ガガガとゲゲゲの差異に気が付くようでないと
立派な乙女にはなれないぜ、我が姪よ。
と彼女を見やると姪は「そんなの関係ねえー」と
小島よしおの真似などをしていたので
私は「いや、関係あるのだよ」と思いつつ
どげんかせんといかんなーなどと思ったのです。
今年の流行語で。