酔いどれの熱 貸切り図書館24冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の24回目、ゲストにアナログフィッシュの下岡晃さんとQUATTROの潮田雄一さんを迎えてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。
この日は夕方から店を閉めてライブ用に会場の準備をし、先に来るはずの下岡さんの入りを待つもなかなか来ず。もしかしたら潮田さんの方が先に来ちゃうかもなと思いつつ待っていると「すみません、遅れました〜」と下岡さんが現れ。まあ全然大丈夫ですよと準備し、下岡さんにリハをして貰いながら潮田さんの到着を待つも潮田さんの方もなかなか来ず。おかげで下岡さんはかなり長い時間リハが出来たのですが、予定時間を大幅に過ぎても一向に潮田さんが現れないので一同さすがに遅くないかと心配になり。事故とかに巻き込まれてないか?まだ寝てるなんてことはないか?と我々と下岡さんとで話しつつ、外を見るとすでにお客さんが並んでいるのであり。おいおいお客さんが先に来ちゃってるじゃんなどと話しているうち開場15分前になってようやく「すみません、遅れました〜」と潮田氏が現れ。結構な遅刻ながら彼はあせる様子もなくどっしりと落ち着いており、残り15分で敏速にセッティングと音出しを行い、ほぼ定刻で開場に漕ぎ着けたのはさすがだなと感心した次第です。さらには我々がドリンクを用意していたら「ビール下さいー」といきなりガソリンを入れるのであり、潮田氏はひょっとしたら大物なのかもしれないと我々すぐに思った次第です。
そしてすぐに迎えた本番、一旦出掛けて戻って来た潮田氏は今度は缶ビールを片手に持っているのであり、「え、もう2本目?」と驚いたのですが、どっしり落ち着いていたのでまあ大丈夫なのかと我々は見守る姿勢に入り。そんなドランカーっぷりを見せた彼ですが、歌と演奏は本当に素晴らしく。緩急のあるギタープレイは繊細で美しく、変則チューニングを多用した独特なコード感に音響的なアプローチもあり、歌声も透明感がありとても引き込まれました。歌詞も面白い世界観でしたね。「墓場の猫」というインスト曲にもセンスを感じました。冒頭ディランの書籍「タランチュラ」を朗読するという導入も良かったです。紹介してくれた本は以下のラインナップでした。
ボブ・ディラン「タランチュラ」
小山清 「日日の麺麭・風貌」
川崎長太郎 「抹香町・路傍」
ロア・バストス 「汝、人の子よ」
若尾裕「親のための新しい音楽の教科書」
田中小実昌 「ポロポロ」

ディランの「タランチュラ」は何と初版で古本屋で6000円もしたとか。私は再発のほうを買いましたが、初版を入手している辺りに気合いを感じた私です。他の物を見てもまだ若いのに実に渋いセレクトで、酒と文学を愛す彼のキャラがだんだん掴めて来た感じでした。小山清太宰治の弟子なんだそうで、晩年失語症になりながらも書いたという小説をちょっと読んでみたくなりました。最近読んだ中でも特に面白かったという「親のための新しい音楽の教科書」にも興味を惹かれましたね。ビールをぐびぐび飲みながら歌い演奏する彼の姿は少年のようであり人生を極めた老人のようでもあり、面白いキャラだなあと感心した次第です。演奏後もすぐに「ビール下さいー」とガソリンを入れておりました。
そして続けての登場は下岡晃さんで。下岡さんはアナログフィッシュの曲は勿論、古いアメリカのフォークソングやcakeというバンドの曲などの日本語カバーなどたくさん歌ってくれました。彼の味わいのある歌声が堪能出来てとても良かったですね。リハ時に「抱きしめて」という曲がすごく好きなんです、という話をしたら「あ、じゃあ今日やりますよ」と急きょリストに入れてくれ。(この日「抱きしめて」が聞けたのは私のリクエストのおかげです・笑)。「危険があるから引っ越そう」という歌詞で始まるこの曲が実は震災前に書いたものであると知って驚いたのですが、シンプルな言葉遣いながらも心に響いて来る切ない歌詞で、今のこの時代の日本の空気を反映した歌だなとしみじみ思いました。新譜からの曲も結構やってくれて嬉しかったですね。バンドとはまた違って歌そのものが剥き出しになる感じがとても良かったです。紹介してくれた本は以下のラインナップでした。
ジョージ・オーウェル動物農場
T・オブライエン「ニュークリア・エイジ」
雑誌 スペクテイター
中崎タツヤ 「もたない男」
伊丹十三 「ヨーロッパ退屈日記」
池波正太郎 「食卓の情景」
クリストファーロイド 「137億年の物語」
「ニュークリア・エイジ」は読んでるうちにその世界にのめり込み、主人公と自分を重ね合わせ過ぎてあぶないと思い最後まで読むのを躊躇したという読書体験を語ってくれました。そこまで読ませるこの作品の強度も、そんな距離感で読書を出来る彼も凄いと思いましたね。スペクテイターという雑誌は名前は勿論知っていましたが、私自身読んだことはなく。これは彼の一番好きな雑誌なんだそうで、最新号で特集されているというポートランドについて語ってくれました。中崎タツヤの本は私も断捨離本ばかり置いてある歯医者で待っている間に一気に読みましたが、断捨離の向こう側という感じでとにかく物を持たない生活をしているのですよね。下岡氏は最近読んだ本で一番面白かったと絶賛していましたが、確かに物に溢れた暮らしをしている人は読むと衝撃を受けるかもしれません。伊丹十三については映画「たんぽぽ」の話をしてくれましたが、彼は女性の身体に海老を乗せて食べるという奇妙にエロい描写が印象に残っているとのことで、私もこの映画の食べ物とエロが同居する描写に衝撃を受けたので聞いてて共感を覚えました。また見直したくなりましたね。昭和の作家の書いたエッセイに惹かれるという最近の読書傾向を語ってくれましたが、彼の社会を見据えながら綴る言葉の端々にその影響もあるのだろうなと思ったりした次第です。
そんな下岡氏のライブ中、潮田氏はビールとワインを3杯もぐびぐび飲んでおり、さすがに酔っぱらって来たようであり。「この人本当に飲むなあ」と思いながら見ているうちに迎えたアンコールで下岡氏が「折角だから最後に潮田くんと一緒に何かやりたいと思います!」と彼をステージに呼び出しまして。まさかの出番に潮田氏はふらふらになりながらも出て行き、その場で「AmとFとCの繰り返しで」「こういうストロークの仕方で」と下岡氏にレクチャーされ、「Night fever」という曲を2人でセッションしてくれまして。いやーこれがまた本当に素晴らしかったですね。ハンドマイクで熱くラップする下岡氏と酔いどれながらもストロークアルペジオと強弱つけてギターを弾く潮田氏とのコンビネーションも良く。結果的にこれがものすごく盛り上がり、イベントは大団円を迎えたのでした。ナイスな下岡さんの計らいでした。
そしてライブ終了後にはみんなで食事でもして帰りますかと相成り。近くのお店で軽く飲んだのですが、潮田氏は「山猫をロックで!」と冒頭からぐびぐび飲み。最後には完全に酔っぱらい、箸を何度も落とし、その度に店員さんが持って来てくれるというコントのようなやりとりを繰り返し、面白かったですね。彼はクアトロというバンドの他、王舟氏のサポートなどもしており、みなさんどこかで見かけることがあるかもしれませんので、見かけたらそれだけの酒飲みナイスキャラだとお思い下さい。そして下岡さんとはアナログフィッシュのアンサンブルについての話をし、「最近のぼくら」という曲のとてもシンプルなサウンドの反復はヒップホップの影響なのかと聞くと「というよりもミーターズみたいなR&Bとかファンクの影響ですね」とのことで、彼らがバンドで目指している音について色々聞くことが出来ました。バンドのアンサンブルもとても魅力的なんですが、こういう弾き語りでもぐっと伝わるような歌の強度が中心にあるからこそなんだろうなとソロのステージを見て実感した次第です。今回も面白いイベントでした。
貸切り図書館、次回は比屋定篤子さんを迎えて10月25日に行います。ぜひそちらもよろしくお願いしますということで。