下北右往左往の人

先日下北にて「竹中直人の匙かげん3」という芝居を鑑賞したのですが、
これは私の友人のD氏が大の竹中直人ファンであり、
彼の舞台がある度に毎回私を誘ってくれていて、言わば我々の恒例行事となっているからで、
我々の友情を確かめ合う意味でも見に行かんとなあと忙しい中出かけたわけなのですが、
まあ結論から言うとD氏は観賞後「意味が分からん」とがっかりしてるのであり、
「オレの好きな竹中直人じゃないよう」と半ば泣きそうになっていて、
私はフォローの意味でも「きみの分からない竹中直人もいるさ」と励ましたのですが、
正直私も「つまらねえ!」と久々に直球で思った次第なのであり、
何だか冬の風の冷たさを肌にひしひしと感じた夜となったのでした。
しかもD氏は本多劇場に行くの4回目なのに駅から道に迷うという衝撃のアクションを見せ、
本多劇場ってどこだっけ?」と電話がかかって来てから20分後にようやく姿を現し、
「いやー見知らぬ住宅街に出ちゃった」と言うのであり、
「あんた、本多劇場を求めてどこまで彷徨ったんだ」と私は爆笑したのですが、
思えばそれくらいのことで爆笑出来た我々は幸せだったよ、と後に思った次第です。
今回の脚本はチェルフィッチュの岡田氏で、
私は彼の演出の「三月の5日間」も「フリータイム」も観賞後「面白い!」と感銘を受け、
彼の小説もその後唸りながら読んだクチなのですが、
その世界と今回の有名女優さんの出る芝居のサイズとは若干合わないような気がしましたね。
ほとんど会話劇なんですが演者が理解して喋ってないような印象を受けてしまいました。
ただのヒステリックな自意識に翻弄されてる面倒な女みたいで(実際そう演じてますが)、
北の国からの蛍ちゃんが痛々しく見えてしまいました。
はっきりと明言しないけど人と人との間に漂う険悪なムードとか、
会話の微妙なやりとりに見え隠れする嫉妬や憎悪や何やらが
単刀直入に物を言う輩によって浮き彫りにされるという結構深いテーマで、
これって小説で読んだら面白いだろうなと思ったんですが、
竹中直人と蛍ちゃんと荻野目慶子の出るメジャーな舞台で
そんな地味で暗いもの誰も求めてないのでは?と思ってしまいましたね。
言葉の構造が小難しいので「結局何の話?」と途中で理解を諦めてしまいましたし。
(最後「結局そんな話?」と軽くのけぞってしまいましたが)
ちなみに会話しながらビール飲んだり林檎齧ったりなどの動きはありますが
ダンス的なアプローチではないし、チェルっぽい要素は希薄な印象でしたね。
会話の内容をただ静かに運ぶという演出だったと思うんですが、
もっとサービスたくさんしてくれないとチケの値段高いですからね。
そんな中でも良かったのは音楽と衣装と舞台美術と蛍ちゃんの美貌でしょうか。
生の蛍ちゃんは本当に綺麗でしたね。
ジャージ姿でるーるるーとか言ってたのに。
まあ竹中氏の芝居の世界と岡田氏の高度な脚本とは合わないということだけでしょう。
どっちが悪いとかいう話ではない。
私はどっちも好きだ。
そういう結論でひとつよろしくお願いしたい所存です。
誰にお願いしてるんだって話ですが。
しかし「東京日和」での中山美穂もそうでしたが、
「精神の不安定な美女」を演出するのが好きなんですかね竹中氏は。
D氏は「大丈夫かなあ竹中直人」と今後の彼の舞台の行く末を心配しておりましたが、
私は駅から本多劇場へ行くのに20分迷うD氏の行く末を心配してしまった次第です(笑)。
走れば数十秒の立地なんですけどね。