蒼天におたまじゃくし

現在巷を賑わせているおたまじゃくしが空から降って来た事件ですが。
「晴れのちおたまじゃくし」なんて天気があり得るのでしょうかね。
村上春樹の「海辺のカフカ」に空からヒルが降って来るシーンがありますが。
それをふと思い出したりしました。
不思議な現象が起こるものです。


私が思うにこれは石川県在住の小学生の兄妹タツヤとミカの鼻歌が原因でしょうね。
兄のタツヤ(小5)と妹のミカ(小2)は毎日田んぼの畦道を30分かけて歩き
自宅から小学校まで仲良く手を繋ぎながら通っています。
歩いてる途中にはいつも自作の歌を大きな声で歌っています。
主に妹が作詞をし兄が作曲をして、それを2人で歌いながら登校するのが日課なのです。
毎日のことなのでレパートリーもどんどん増えて行きます。
「かえる3兄弟の恋」
「走れドーナッツ先生」
「私はバレリーナPART2」
などのヒットチューンが続々と生まれました。
それらを毎日畦道に響かせながら登校しているのです。
「私たち良い曲ばっかり作ってるよね」
中田ヤスタカ超えたんじゃねーの」などと悦に入りながら。
その兄妹の歌を聞く者は兄妹の他にいませんでしたが、
畦道を吹き抜ける風の神様「風太郎」が実は熱心な彼らのリスナーでした。
上空を舞いつつ毎日彼ら兄妹の歌を聞き「良い曲だなあ!」と感動し、
好きな曲を歌ってくれるとありがとうの意味も込めて
優しい風を吹かせて彼らを心地良くさせるなどしておりました。
余りに彼らの曲が良いので風太郎は隣町に住む仲間「風之助」にも聞かせようと
ある日ふと思い立ちました。
しかしどうやって曲を伝達すれば良いのかかわりません。
直接彼らの歌を録音するレコーダーも持っていないですし。
ダウンロードしたデータをメールで送信というわけにもいかないのです。
そこで風太郎は20世紀的な方法を思い立ちました。
そう、譜面による伝達です。
風太郎は突風を田んぼに吹かせ、たくさんのおたまじゃくしを上空に巻き上げました。
そして電信柱の電線を五線譜に見立て、おたまじゃくしを並べ始めたのです。
まずは一番好きな曲「かえる3兄弟の恋」からです。
「えーと確かAメロはこうだったな」などと言いつつおたまじゃくしを並べて。
電信柱に配置されたおたまじゃくし。
そこに風を送り込むとそれがメロディーとなって放たれるのです。
風太郎は兄妹のベスト曲をおたまじゃくしで採譜すると満足したように微笑み、
えいやっとばかりに強風を送り込み、電線を伝わせて隣町の風之助に送ろうとしました。
ものすごい勢いで電線を滑って行くおたまじゃくし。
そこら中に兄妹の作ったメロディーが鳴り響きました。
そしてそれが無事風之助の元に届けられようとしたその時!
たまたま電線で羽根を休めていた渡り鳥たちの群れに当たってしまったのです。
吃驚して飛び上がる渡り鳥。
ものすごいスピードでおたまじゃくしは電線から飛び散りました。
不協和音を空中に放ちながら。
そしてそれは橋の上、車のボンネットの上、屋根の上、木々の枝の上、
校舎の裏庭の池の中、車輪の下などに落下するに至りました。
メロディーの残骸となっておたまじゃくしは町に降ったのです。
まるで雹のように。星の欠片のように。


失敗したと風太郎は落ち込みました。
しかし風之助はちゃんと聞いてたのです。
電線を走るおたまじゃくしの奏でる無垢な美しき旋律を遠くに。
そして後日風之助は風太郎の元を訪れ「素敵な音楽をありがとう」と伝えました。
そして2人一緒に並んで兄妹の歌声を聞きました。
いつものように畦道を歌いながら歩くタツヤとミカ。
そこへふっと一陣の風が吹き抜けました。
「あれ、お兄ちゃん、今何か聞こえなかった?」
「うん、確かに。『ありがとう』と聞こえた気がしたな」
きょろきょろ辺りを見回す兄と妹の前髪をふっと揺らす微風。初夏の匂い。
タツヤとミカは再び歩き出しました。
2人で。
ぎゅっと手を繋いで。



みたいな物語が背景にあったんじゃないかと私は思うのですが如何でしょうか。
まあ全部私の想像ですけどね。