桜とリンゴとナイフ

先日、葉桜など見つつ公園のベンチにてゆったりと昼食など摂っていたところ
見知らぬおっさんがふらっと私の目の前に現れ、
ごそごそとビニール袋を探ったかと思うと突然果物ナイフを取り出したので、
すわ殺人鬼か、刺されるのか俺、死ぬのかこの春の良き日に、と一瞬あせったのですが、
そのおっさん次に大きなリンゴを取り出し、果物ナイフでそれを食べやすく切りながら
やおらしゃくしゃくと美味しそうに喰らい始めたので
なーんだリンゴを食べるためだったのかと死を回避した喜びに安堵したのですが、
しかしこのおっさんリンゴを食べ終えたら「さーて人を刺そうっと!」と
やおらその刃を私に向けてくる可能性もなきにしもあらずなのであり、
私はこの人が突然殺人鬼に豹変しませんように!と祈りながら
ひやひやしながら昼食を続けたのですが、
人が殺人鬼にならないように祈りながら食べるご飯は案の定美味しくないのであり、
このおっさんがナイフさえ出さなければと残念に思いつつぐもぐと咀嚼をした次第なのです。
よくよく考えたらこんな白昼に(夜の方が恐いけど)ナイフを屋外に持ち出し、
人の集まる場所である公園にて使用するとはけしからん輩なりと思った次第ですが、
リンゴを食べるためにナイフを使うというのは別に悪い事ではないのになとも思う訳で、
家だとオーケーだけど外に持ち出すと厄介なことってあるものだよなと思ったりしたのです。
あのおっさん職務質問されたら大変な目に遭うのに。
どうしてもリンゴを外で食べたかったのでしょうか。
そんな季節なのでしょうか。


ここ最近の寒かったり暖かかったりと不安定な気候はどうしたことか、
いい加減落ち着きなさいと小1時間ほど説教したい衝動に駆られたりもしたのですが、
春ってそういやそういう奴だったなと諦めてみたりしています。


おっさんがナイフで切った一片のリンゴをぽとりと地面に落とし、
即座にそれを拾い上げたのでまさか食べるのではと思ったら
私の視線に気が付いたのか、やおら遠くの木の方へ放り投げました。
私が見ていなかったら拾って食べていた可能性大な雰囲気でしたが。
リンゴは弧を描いて桜の木の下へと落ちていきました。
リンゴの破片はそのうち桜の木の下で腐って肥やしにでもなるのでしょう。
ニュートンが引力を発見した時ってこういう瞬間だったのかもしれない。
そんなことを思ったりもしたのですがどうなのでしょうか。