片方の、手袋を買いに

この時期、手袋が路上に落ちているのをよく見かけるんですが、
片方だけが落ちているというケースが多いのですよね。
手袋をしていて携帯を操作する時とか鞄から物を取り出す時とか、
細かい作業をする際に利き手の方だけ手袋を外したりするせいだと思うんですが、
片方だけを落とすと何とも寂しい状況に陥りますよね。
残った片方は充分使えるのに片方だけでは手袋として機能しないという。
片方だけ手袋を装着してもう片方の手は裸というのは見た目に変だし、実際寒いですしね。
お笑いコンビと同じく両手分ペアでこその手袋なのですね。
(その際どっちがボケでどっちがツッコミなんだって話ですが)
落とした片方だけを追加で買うというわけにもいきませんですし、
片方をなくすと両方なくしたのと同様のダメージを受けるので気を付けないといけません。


この間道を歩いていて右手の手袋が落ちているのを発見し、
その後しばらくして左手の手袋を発見した時は余程戻ってさっきの右手を拾い、
左手とペアにしてあげてどこぞへ届けようかと思ったものの、
よくよく見たら右手が男性もので左手が女性ものだったのでそれもならずで断念したものです。
右手が男性もので左手が女性ものというペアの手袋が路上に落ちているという状況は
何だかわけありなストーリーを想起させてそれはそれで情緒がありますけどね。
この手袋の主の2人は繋がっているのかと。
道をゆく男性の右手と女性の左手は堅く繋がれ、
「私たちは永遠にこの繋いだ右手と左手を離さないから手袋は必要ないのさ!」
と叫びながら男性は右手の手袋を捨てて女性は左手の手袋を捨てて、
生活のすべてを捨てて、手に手をとって丘を越え山を越え、そして北へ、
永遠の愛を信じ続けて、許されぬ道へ。
みたいな駆け落ちの途上に片方の手袋がそれぞれ捨てられた可能性もなきにしもあらずなわけで。
そうだったら尚更右手と左手とペアにしてあげれば良かったですけどね。
その捨てられた手袋がまだ温かければ「そう遠くには行ってないはずだ!」と
追っ手の者に足取りのヒントを教えてしまうことになるので気を付けなければなりません。
あの右手と左手の主は今頃どこで何を想っているのでしょうか。
それぞれ片方の手袋をなくして。


誰かの落とした右手と誰かの落とした左手がペアになれるように
片方の手袋拾得品専用置き場にて手袋コンシェルジュみたいな人が
「あなたの今しているその白い右手の手袋に合うのはこの赤い手袋ね」と
マリアージュよろしく落とし物の手袋から合う物を選んでくれるサービスとかあれば
片方の手袋墓場に亡骸を増やさずにすむものを、とふと思ったりしますけどね。
緑の手袋にはこの赤い手袋をぶつけてノルウェイの森にするのよ、とか。
まあどこの誰が落としたかわからない手袋を装着する人がいるのかって話ですけどね(笑)。
細い女性用の可憐なデザインの手袋にビッグサイズの薄汚れて破けた軍手を合わせて
右手の美女と左手の野獣、と悦に入るのも一興ですけどね。
片方の手袋の寄る辺なさたるや、と路上に落ちている手袋を見て想いを馳せる次第です。
私が知らないだけで手袋の片方売りをしているショップってあるんでしょうかね。
「これの左手だけ欲しいんですけど」とかで買えるような。
もしあったとて、片手で小銭を見せて「このおててに合う手袋下さい」と言って来る者あれば
注意して見た方が良いですね。
その手がきつねの手である可能性もなきにしもあらずです。