私、アトムの足音を聞いて

冨永昌敬監督の「アトムの足音が聞こえる」を鑑賞しました。
内容に触れた感想を書きますのでご注意下さい。


鉄腕アトムの音響デザインを担当した大野松雄氏のドキュメンタリー作品ということで。
アトムの音響と大野氏については過去にもブログで触れましたが、私は好きなのですよね。
電子音楽作品として。
http://d.hatena.ne.jp/fishingwithjohn/20081119
今回の映画はタイトルからしてアトム時代の話に焦点を当てたものかと思ってたんですが、
彼の半生を追うような内容になっていてなかなか面白い作りでしたね。
アニメの効果音とは何なのかとか電子音楽とは何なのかとかから始まって。
途中までなかなか大野氏が登場しないのでどうなってんだとハラハラしましたけどね(笑)。
シュトックハウゼン電子音楽を紹介するのに波形を映すという表現が新鮮でした。
(その後も電子音楽の紹介は全部波形でしたね)
アニメの効果音についても当時の現場の人たちの貴重な証言が聞けて良かったですね。
アトムからガンダム、ヤマトへと続く系譜も紹介されていたし。
野宮真貴さんのナレーションがお姉さんが子供に教えてあげる風な物言いで、
これが堅いドキュメントとは異なった雰囲気で良かったですね。
NHKの教育番組を意識した作りだったんでしょうか。
証言者を紹介するフォントも洒落ていて独特だし、
音響担当のパードン木村氏の電子音の散りばめ方も新鮮でしたね。
結局だいぶ経ってから主役の大野氏が登場したんですけど、
彼が現在手掛けている仕事が知的障害の方々の施設での歌とお芝居の出し物の音響というもので。
大野氏は現在80歳だそうなんですが、矍鑠として大変元気で。
知的障害の方にも施設の職員の方にも慕われていて、
そこでにこにこと笑う大野氏が何だか天使のような生き物に見えたりしました(笑)。
アトムの音響を作り出した人が今はこういう場所で音と関わっているのですね。
聞けば昔から精薄の子供たちを追った映像を撮ったりもしていたらしく。
それがずっと続いているのですね。
そんな現在を過している彼が過去に手掛けた音楽も紹介されていて、
初めて見る映像も多数あってあれは貴重でしたね。
勿論アトムについても言及されていて。
手塚先生と喧嘩した話も出て来ましたし(笑)。
大野氏自身は「適当にやったら出来た、出来たから録音した」みたいな話ぷりでしたけど、
適当であんな未知の音が作れるわけがないと思うんですけどね。
彼が話すプロの定義として「手を抜いても気付かれないレベルの物を作れるのがプロ」と
あくまで手抜きとか適当を前提にしてプロ論を語っていましたけど、
オープンリールを操作して「こうやって音を出すんだ」みたいに実演した彼に
「これも実は手を抜いているのかもしれませんね」
みたいなナレーションを入れてたのには笑いましたね(笑)。
まあそんな発言出来るのもプロとしての自信があるからでしょう。
彼の魅力的な人柄がアトムの音響の可愛らしさに繋がるような気がして何だか腑に落ちた次第です。
しかしこれを見ているとティアックのオープンリールが無性に欲しくなりますね。
キュッキュッと擦って宇宙の音を出してみたくなります。
実際若い人たちで複数のオープンリールで曲を構成するバンドも紹介されていましたが。
電子音て未来感があるのにどことなく懐かしい感じがするのが魅力なんですよね。
大野氏の最近のコンサートの模様も紹介されていましたが、
彼の新しい音源も発売されてるようなのでぜひ聞いてみようかと思っています。
そういやレイ・ハラカミ氏も大野氏についてコメントしてたんですが、
居酒屋の喧噪で何言っているかよく聞こえなかったのは演出だったんでしょうかね。
DVD化されたらもう1回見てねということでしょうか(笑)。
アトムの誕生が2003年なので今やアトム以後の時代を生きているわけですが、
当時2003年の未来の音をバリバリのアナログ機材で作っていたというのは改めて驚きです。
現世にない音をクリエイトした偉大なる音響デザイナーの素顔に迫った好作品です。
ぜひ興味ある方はご覧になると良いでしょう。
取りあえず「鉄腕アトム 音の世界」は必聴です。
これのアトムの飛行音など聞きながら空を飛んだりすればあなたもアトム気分を味わえます。


しかし原発問題に揺れる2011年においてアトムだのウランだの口にするのも何ですけどね。
手塚先生は今何を思っていることでしょう。
原子力エネルギーに明るい未来を夢見ていたアトムの世界。
これから生まれる科学の子たちに明るい未来はあるのでしょうか。
そんなことを思いながらアトムの足音を聞いている私です。
何だか映画の内容と関係ない締めになってしまって恐縮ですけども(笑)。
http://www.atom-ashioto.jp/