スニーカーぶるーす@銀座

先日某メーカーのスニーカーを購入しようと思い立ち、
どうせならそのメーカーの直営店で購入したろうと銀座にあるラボまでわざわざ訪ねるに至ったのですが、
いざ店内に入り商品を物色するも店員さんは在庫管理だの電話番だの自分の仕事にかかりっきりで、
スニーカーを見入る私に対して「サイズお出ししますよ」だの「試着出来ますよ」だの
全く接客をする気配を見せないので「あれ、俺の姿見えてないのかな?」と
自分が透明人間になっているのではないかとの疑念を抱くに至り、
己の姿を鏡に映すと明確に見えているので「あれ見えてるよな」と安心し、
再び商品を物色するも店員さんはやはりノー接客で。
20代半ばくらいの男性ひとりで店番してたんですけどね。
小太りながらもデニムの上下とか着てお洒落な雰囲気を醸し出していて。
そのうち「これかこれのどっちかだな」と購入候補商品が決まったので
「履いてみていいですか?」とその店員さんに問うと「あ、はい」と返事したので
何だやっぱり私のことが見えていたのかと安心したのですが、
その店員さんはすーと無言で店の外へ出てしまい。
あれ、あの店員さん外へお出かけ?弁当でも買いに行ったの?と戸惑ったのですが、
恐らく在庫を取りに裏の倉庫かどこかへ行ったのだなと私は推測し、
ならばひと声「在庫を取って来ますのでお待ち下さい」とか言えばこちらも安心するのにと
彼の気の利かなさに駄目出しをしつつ彼の戻りを待つもなかなか戻って来ず。
私が悪人だったらこの隙に商品を抱えるだけ小脇に抱えて店を飛び出て、
銀座の街を疾駆し、追っ手の店員を完全に巻き、やっほうと勝利の雄叫びを上げ、
後に戦利品のスニーカーや洋服の類いをオークションにて売り捌き小遣いの足しにしてしまうところですが、
私は善人なので何も盗らずただただ彼の到着を待って。
そのうち彼がゆっくりとした足取りでスニーカーの在庫を持って来たので、
では早速とばかり片方履いてみて鏡で確認したり、サイズが合うかなど確認してみたのですが、
この期に及んでも店員はやはり無言を貫いているのであり。
普通ここで「サイズは如何ですか?」とか声かけるもんじゃないのと私は思い、
さらに気の利く店員だったら足元を手で触り「これくらいなら丁度良いですね」とか
「上のサイズも持って来ましょうか?」だの
「こちらは伸びる素材なので履いていくうちに馴染みますよ」だの
「こちらは色味も合わせやすくておすすめですよ」だの
「ウォーキングなんかにも最適なんですよ」だの
客に買わせようと促す行為に及ぶものではないのか?と思ったのですが、
その店員はそんな類いの言葉は一切発さず無言のままもう片方の靴の紐をゆっくり通していて。
む、それはもう片方も履いてみて下さいというメッセージかな?と私は彼の心の内を推測し、
その紐の通されたもう片方も履き、両足でフィット感を試すに至ったのですが、
普通は紐を通した時点で「もう片方もお試し下さい」とか言うもんじゃないの?と思い、
この店員は馬鹿なの?口が利けないの?接客という概念を理解していないの?と思い、
彼の顔を見るとただ阿呆の如く空を見つめていて。
それがまた悪気はなさそうなのが困るのであって。
何と言うか天然で気が利かない人のようなのですね。
さらには「こちらはおいくらですかね?」と値段を問うと
「えーと少々お待ち下さい」とわざわざカタログみたいな小冊子を捲って調べているのであり、
直営店はお前の会社の商品しか置いてないんだからそれくらい把握しておけよ馬鹿者と私は思い、
彼に「ぼけなす」というニックネームをその場で付けるに至ったのですが、
ぼけなすはその後もぼけなすっぷりを存分に発揮し、黙って空を見つめ続けていて。
結局ぼけなすが一切何も言ってくれないので私は「うん、ちょうど良いかな」だの
「シンプルで合わせやすいよね」などと鏡を前に自己完結し、
「じゃあこれにします」と告げると彼は「ありがとうございます」と
ぼけなすなりに頑張って箱にスニーカーを入れてレジを打つも
おつりの札が足らなかったようで「少々お待ち下さい」と今度は裏に引っ込み
金庫から札を取り出しているのであり。
もたもたと金庫から札を取り出している様子がこちらから丸わかりで、
さらには手前のレジが開けっ放しになっていて札も何枚か見えているのであり、
私が悪人だったらこの隙にレジから札を抜き取り商品を抱えるだけ小脇に抱え、
銀座の街を疾駆し、追っ手の店員を完全に巻き、やっほうと勝利の雄叫びを上げ、
後に戦利品のスニーカーや洋服の類いをオークションにて売り捌き小遣いの足しにしてしまうところですが、
私は善人なので彼が札を持って来るのをただただ待って。
後にようやくおつりを受け取ったのですが、さり気なく彼の手を見ると薬指に指輪をしていて。
え、このぼけなす結婚してるの?と私は動揺し、
こんなぼけなすでも結婚出来るという事実に驚愕の念を覚えたのですが、
意外に合コンとかの場面ではこんなぼけなすでもモテるのではないかと私は想像し、
「お仕事何やってらっしゃるんですかあ〜?」
「うん、まあ一応アパレル関係のね。某メーカーのラボで働いているんだ」
「え〜有名じゃないですかあ〜すご〜い!」
「今度遊びに来なよ、サービスしてあげるよ」などと調子に乗ったりして、
そのぼんくらギャルが本当に靴を買いに来たらここぞとばかりに足をいやらしく触り、
「きみは綺麗な足してるね。この靴がピッタリだよ。俺のシンデレラはきみさ」
などと調子よく口説いてるのではないかと思い、
仕事の現場では気が利かず一切使えないのに
ことそっち方面ではちゃっかりうまくやっているタイプの人間ているよな〜と思い、
俺はきみみたいな輩を信用出来ないのだ、買うのをやめる!と言えば良かったかなと
店を出て数分経ってから思い、
しかし今更店に戻って「きみの接客が余りにぼけなすなので返品します」というのも何であり、
さらには「お前みたいな奴が合コンでモテてるのは許さん」と心の狭さを露呈するのも何なのであり、
(まあ合コンでモテてる設定は私の想像に過ぎないのであり)
商品自体は良い物なので返品する理由はないのであり、
銀座まで怒りに来ただけというのも徒労以外の何物でもないのであり、
そのまま買ったスニーカーを抱えて帰るに至ったのですが、
この何とも言えない気持ちを何と表現したら良いのかとしばし悶々とした次第です。
またぼけなすくんは店を出る時に「ありがとうございました」とドアを開けてくれたりして、
「え、そんなとこだけ気が利くの?!」とさらに驚愕を覚えてしまったのですが、
「お客様のお帰りにはドアを開けること」というのは恐らく上司から何回も言われてることで、
そこだけ阿呆みたいに守っているのが丸わかりなのであり、
「悪気はないのに本当に気が利かないやつ」という事実に何だか哀しい気持ちになってしまった次第です。
たまたま接客スタッフがいなくて事務をしているスタッフが代わりに店番していたのか、
直営店だから接客しなくても客は確実に買うので黙っている方針なのか、
色々な要因を考えるも結局は「ぼけなすくんがぼけなすだから」という理由に自分の中で落ち着きました。
そんな哀しい理由があって良いんでしょうか。
ぼけなすくんは家に帰って嫁に「今日もスニーカー売れたよー順調だよー」とか自慢しているのでしょうか。
ぼけなすくんが偉いんじゃない、スニーカーを作っている優秀なスタッフが偉いんだと
彼に朝まで説教したい衝動に駆られながら銀座の街を疾駆した私です。