ユーのカーのキー

今日うちのお店に車で訪ねて来たお客さん(30代くらいの夫婦)がひとしきり買い物をし、
いざ帰りかけたところ旦那さんの方が再び店に戻って来て「すいません!」と言うので何かと問うと、
「実は車内にキーを置いたまま閉めてしまって車が動かせないんです!」とのことで。
何という重大なミスをさらりとやってのけたのだろうかと旦那さんの顔をまじまじ見てしまったのですが、
まじまじ見たところで鍵が開くでもなくドアが開くでもなく。
何かしらの助けを呼ぶのであろうかと思いきや、
「家にスペアがあるので一旦取りに帰ってまた拾いに来るので車を置いていっても良いでしょうか?」とのことで、
車をうちの駐車場に置いたまま夫婦はとぼとぼと電車で帰りまして。
その背中を見送りながら、たったひとつの鍵がないだけで人は簡単に移動手段を失い、
ひいては時間と労力を失うのだなと鍵の重要性を再認識した次第です。
幸いだったのは夫婦がちゃんとコートを着用していたということで、
これが「どうせ車だし」と防寒の手を緩め車内に脱いでいたら大変な事態になるところです。
寒さにぶるぶる震えながら帰らなくてはなりません。
また買い物目的だったので財布を持っていたというのも幸いでした。
財布も車内だったらどうやって家に帰れば良いのかという話です。
しかし電車で帰りまた電車で戻って来て、さらに同じ距離をまた車で帰るという行程は
はっきり言って無駄足だし、何とも空しい時間の浪費です。
(聞いたら電車で1時間半くらいの距離でした)
私だったら電車での道中に本を必死に読んで「読書の時間が作れたぜ〜」と思うか、
何駅か分はあえて走って「ジョギングの時間が作れたぜ〜」と思うか、
電車内でぐっすり寝て「睡眠不足解消だぜ〜」と思うか、
いずれにせよ「この時間は我が人生に於いて無駄ではないのだ」と思い込むことに全力を注ぐような気がします。
もしくは「この時間は車への愛情を再確認する時間なのでむしろ必要なのだ」と思ったり。
しかし車の方は車の方で「あれ、俺おいてけぼりじゃね?」と不安に思ったりしないんでしょうかね。
その空白の3時間に於いて。
「ひょっとして捨てられたとか?」と自分の行動を振り返り反省に至ったかもしれません。
「型が古いから?あたし飽きられちゃったのかな。燃費も悪くなって来たし。
そういえばご主人近頃『エコ』だの『ハイブリッド』だの『電気自動車』だの言ってたわ。
このまま見知らぬ場所に置き去りにされて捨てられちゃうんだわ、あたし。
かつてはあんなに愛してくれたのに!雨上がりの夜空にぶっ飛ばしてくれたのに!」
となぜ急に口調が女子になったのかわかりませんが、拗ねてしまうかもしれません。
いざご主人が電車に乗って迎えに来て「さあ帰ろう!」とエンジンをかけたら
「うわあ、やっぱり迎えに来てくれたんだあ!」と喜んで「ぶろろろろぅ!」と
快調に飛ばすことでしょう。
渋滞もすいすいと走り抜けて。
信号も一度も赤に引っかからずにノンストップで。
空調も寒くなく暑くもなくジャストな温度に調節されて。
それもすべてこの車の機転によるものなのですが、主人は気が付いていないのです。
途中休憩で降りてふと正面を見るとライトのところが濡れています。
「あれ、オイル漏れかな?」と拭いてやるご主人。
いや違うのです。それは車の涙なのです。
車の嬉し涙なんですよ、ご主人。
そんな車とご主人の愛情物語が展開されれば良いのにと星に願ったりした次第です。


ところで夫婦はどんな車に乗って来たのだろう、
放置してて中は大丈夫なのかしらと裏の駐車場に見に行ってみたら、
長渕剛が歌の題材にしそうなごっついジープでした。
理由もなく二度見してしまった私です。

まさかジープで来るとは

まさかジープで来るとは