歩く紫陽花

もう6月も終わりだなんて。
時の流れの早さを食い止める呪文でもないものでしょうか。
もしあれば日々ふとした時にその呪文を唱えるものを。


先日はふと思い立ち官邸前で行われているデモを見学して来ました。
ツイッターでその状況を見聞きするにつけ、
これは一度現場を見ておきたいと思ったのです。
国会議事堂前駅の改札を出るともうプラカードを持った方がちらほらと見え。
「抗議活動の方は2番出口へ」と書いてあったのでそちらへ出てみるとすでにかなりの人出で。
私が着いた時はもう19時を過ぎていたのでかなり佳境に入っていた頃だったんですけどね。
とりあえずわけもわからず歩き出すと車道を挟んだこちらと向こう側の歩道に人が溢れていて。
「再稼働反対!」というフレーズをみなリズムに合わせて声高に唱えており。
私はどこが官邸前なのかデモの列がどういう状況なのかよくわからないまま歩き出し、
取りあえず持参したレコーダーのスイッチをオンにしてこの状況を録音するに至ったのですが、
みんな「NO NUKES」とか「原発反対」とか思い思いのメッセージが書かれたカードを掲げており。
「さいかどーうはんたーい!」と息の合った合唱が沸き起こっており、
初心者で勝手もわからぬ私としては盛り上がる現場に突然入り込んだ素人のようで
「いやー丸腰で来ちゃったなー」と戸惑いと気恥ずかしさも感じたのですが、
歩きながら観察すると私のように「取りあえず見学に来てみた」みたいな手ぶらの人も多く、
さらに驚いたのは子供や赤ちゃん連れのお母さんがかなりの数いるのですよね。
みんなベビーカーを押しながら参加していて。
さらには年配の方の姿も多くて。
普通におじいちゃんおばあちゃんがこんな喧噪の中をカードを掲げて歩いていて。
私はそんな3世代の市井の人々がこれだけ集い練り歩き、
さらにはドンドンとリズムを鳴らす打楽器の音と「さいかどうはんたーい!」の掛け声に、
完全に幼少の頃に見た夏祭りの光景を思い出し、
この人々が集い声を上げる高揚感は久しぶりだなと思ったのですが、
ただ祭りと違うのは周囲を固めるのは出店ではなく警察官で、
「わっしょい」の代わりに「再稼働反対」だということなんですけどね。
あとで録音した音を聞いてみるとやはり祭り囃子のように聞こえ、
こういうところにも日本人の気質が自然と出るのであろうかと思ったのですが、
それがまあ心地良いというか、しっくり来るリズムなんですよね。
不思議と郷愁のようなものを覚えたというか。
メッセージを掲げる人もいれば奈良美智氏のイラストを掲げる人もいるし、
清志郎の写真を掲げる人も結構な数いて。
私はそれを見ながら清志郎が生きていたら今どんな歌を歌うんだろう、
この状況を見て何て思うのだろうとか考え、何だか胸が熱くなったのですが、
こういうカードも家でちまちまと自作し、思いを込めてここへ持って来たのだなと思うと
素晴らしい表現活動じゃないかと思った次第です。
今回のデモはツイッター上で紫陽花革命と称されているようですが、
それにちなんでか紫陽花をあしらった看板を掲げている人もいて、
そういう工夫も美しいなあと見ていて感じました。
紫陽花を付けた棒を掲げている親子連れなんかは自宅に於いて
「ねえお父さん、この紫陽花何に使うの?」
「これを棒に付けて掲げながら歩くんだよ、再稼働はんたーいて言いながら」
「へー綺麗だね。私も一緒に手伝うね」
なんて言いながら親子で共にせっせと作成し電車に乗って官邸前に赴きデモに参加し、
この娘は「お父さんと一緒にあじさいを持ってかんていまえを歩きました。
たくさんの人が声を上げてたいこを鳴らしてお祭りのようでした。きれいでした。」
なんて日記に書くのであろうかと親子の家庭風景にまで想いを馳せたりしたのですが、
参加している人たちそれぞれに物語があるわけですからね。
身内が福島の事故で避難せざるを得なくなったとか、
想いの重さはそれぞれあることでしょう。
それぞれの想いがひとつ場所に集約されているわけです。
ヘリが空撮する情報が出回っていたせいか光る物を持っている人が多く、
喧噪の中をそこかしこに光が放たれて幻想的でもあり。
列に混じって歩きながら人の多さを確認し、これはかなり凄いことじゃないかと改めて思いました。
特にトラブルもなく殺伐とした雰囲気も皆無で、
警察官も高圧的な態度もなくピースフルなデモだなあという印象を持ちました。
あれだけ子供とお年寄りがいるというのも凄いことです。
結局その状況を目の当たりにし、色々な想いを巡らせているうちにデモはすんなり終わり、
参加したようなただ見学しただけのような微妙な感じで終わったんですが、
まあそれでも意志を持って現場に足を運んだのは確かですからね。
今回のなし崩し的な大飯原発再稼働もそうですが、
その向こう側にある自分たちの声を全く聞き入れない体制とシステムに疑念と怒りを抱き、
その意志を持った者同士がそれを共有し行動として示す現場に
現代に生きる社会人として、いち表現者として参加してみたい気持ちになり、
そしてそれを実践したというわけです。
このようなデモでそうそう簡単に体制がひっくり返るとは考えていないし、
デモに赴いただけで政治活動に参加した気になって自己満足する気もないですが、
取りあえず行ってみたくなって行ってみたというわけです。
今回のデモはそんな感じの気軽さでも受け入れてくれるような雰囲気だなと思いました。
気になった人は足を運んでみると良いかもしれません。
まあ途中喉が渇いて「ビール飲みたいな〜」と思うような不届きものっぷり全開で参加しといて
偉そうなことあまり言えないんですけどね。
国会議事堂前周辺にはコンビニがないという物理的な理由で飲めなかったんですけどね。
みんな飲み食いなどせずに掛け声を上げて練り歩いておりましたが、
まあ飲み食いする環境があるとゴミも出るし邪魔ですからね。
20時になるとすんなりデモも終わって。
コンサート終了後みたいな感じでみんな解散して去っていくんですよね。
混乱もなく、スマートな終わり方だなと思いました。
仕事終わりにふらっと寄ってみると言っていたあぐちゃんと現地で遭遇したので、
ちょいと乾杯して帰るかということになり、
「そういえばレバ刺しを食べるラストチャンスじゃね?」ということで
お店を探すも金曜の夜はどの店も込んでいて。
何とかレバ刺しを出す店に行くも直前で売り切れという残念な結果に終わり、
こっちの方の革命には乗り切れなかったのですが、
まあ考えてみればレバ刺し普段からそんな食べないですからね。
レバ刺しを諦めて、デモを見学した、そんな6月の終わりになりました。
デモ参加者は主催者発表で20万人とのことで、
さすがにそれは盛り過ぎなんじゃないのと思ったんですが、
まあでも数万人はいたよなあというざっくりした実感はありました。
次の日各紙、扱いや規模こそ違えど報道はされていたので、
デモンストレーションの効果はあったのでしょう。
(読売が全く報道してなかったですけどね。)
デモは毎週金曜日に行われるとのことなので、
また機会があれば今度は何かしらの小道具を用意して
(ビールも事前に飲んで行って・笑)
参加してみようかなどと思った次第です。


紫陽花を掲げていたあの親子はデモ後家に帰って、
その花をまた花瓶に入れて飾ったのでしょうか。
革命に掲げられた花を。