私、苦役列車を鑑賞し

西村賢太原作、山下敦弘監督の「苦役列車」を鑑賞しました。
例によってネタばれありで感想書きますので鑑賞前の方、ご注意下さい。


まず主演の森山未來くんの演技力、佇まいがとても良かったですね。
日雇い労働者の体にがっつり仕上がっていたし
(彼の優れた身体性はモテキの時にも散見されましたが)、
今回は目つきひとつだけでも雄弁に心情を訴えかけていて、
役そのものに成り切っていたような印象です。
主人公はその日暮らしのどうしょうもないキャラなわけですが、
どことなく可愛げがあるような設定になっていて、
その可愛げが彼のちょっとした目つきや仕草できちんと表現されていましたね。
家賃を請求されて謝る時や人に物を頼む時の子犬のような目とか。
(ヒロインの前田敦子と友達になれて喜ぶくだりが可愛かったですね)
喧嘩を挑む時や目や世の中を見下す時の目もきちんと憎しみを携えていて。
とてもモテキの幸世くんと同一人物に見えないという。
(その駄目っぷりに於いて若干キャラ被ってる面もありますが)
排泄物を出しまくる体当たり演技が全然無理してないように見えて自然でしたね。
食事シーンひとつとってもその食べ方にそれっぽさが滲み出てましたし。
(ご飯に醤油とみそ汁かける作法に役柄が表れてました)
この人いい役者だなあと改めて感心した次第です。
原作の西村賢太先生の一連の私小説はその身も蓋もない人間の駄目さや
情けなさの行間から滲み出る妙なおかしみが魅力だと思っているのですが、
そのおかしみが発揮されていたのは寧ろ原作にないシーンだったように思え、
そこら辺山下監督の味なのか脚本のいまおかしんじの手腕なのかわかりませんが、
「おかしくてやがて哀しい」みたいなやり取りに私は魅力を感じました。
スナックで動物ごっこに興じる羽目になるその前後のくだりとか。
あのマスターの妙に筋肉質な体にライオンズのキャップにセーターという。
後ろにぬいぐるみが置いてあるあのディティールですよ。
あの独特の間の哀愁と笑いが同居するくだり、山下節という感じでした。
あと前田敦子のキャラですが、意外にもハマっていましたね。
古本屋でバイトしていて読書家で(19歳であんな量の本を所持している子いるんでしょうか)、
しかも主人公のあんなキャラをある程度は受け入れる懐の広さという。
隣人の下の世話をするくだりとか西村先生は絶対書かないシーンだと思いましたが、
あの妙な間のくだりは個人的に好きでしたね。
傍観に徹する主人公の佇まいといい、その後の異様な行為に及ぶくだりといい。
これ山下監督の世界だなと。
高良健吾と3人で海に行くシーンの青春映画っぷりもそんな感じでした。
森山未來があれだけ白ブリーフを穿きこなしているのは素晴らしいと思いました)
AKBのトップアイドルに下の世話させたり下着姿で濡らせたり、
結構挑ませてるなと思いましたが、きちんとそれを演じていて、
前田敦子、なかなかやるなという感じでしたね。
豪雨のシーンとか、あれNG出すと大変だったでしょうが、
1回でオーケー出せたんでしょうか。
あそこもなかなかの迫力でしたね。
素の顔だとあんまり美人じゃない辺り素材として色々な役が出来そうですし、
もっと汚れ役とか演じる彼女も見てみたい気がしました。
森崎書店の日々」で全然古本屋の店員に見えなかった田中麗奈より余程良いです。
あの絶妙にダサい感じの衣装も良かったですね。
伊賀大介の衣装が今回も冴え渡っていたように思います。
主人公の仕事着と女子と会う時用の服(ちょっとお洒落になるんですよね)はリアル感ありました。
仕事の後は汗をかくから塩で白くなる辺りとか。
高良健吾コシノジュンコのトレーナーやラルフローレンのポロとか。
(それを格好よく着こなしていて主人公の対比が際立っていて良かったですね)
あと原作にない部分でマキタスポーツのキャラと演技は適材適所という感じで、
なかなかあれはぐっと来ましたね。
スナックで歌うシーンとか実はこの作品の中でも一番の感動どころだと思うんですが。
あの歌唱は響きましたね。
あそこで自分がやりたいことを語る森山未來の目もとても良いんですよ。
相手への憐れみとか自分の情けなさとか色々な感情を携えていて。
前半の貝のエピソードも妙な哀愁とおかしみがあって私は好きでしたね。
マキタスポーツは今後役者としても活躍するんじゃないでしょうか。
まああと難を言えばですが、若干長かったような気もしますね。
3年後が付くんだったら前半もっとシェイプ出来たんじゃないかと思ったんですが。
主人公が一心不乱に走るシーンは「ボーイズ・オン・ザ・ラン」で見たような感じで、
これで終わっちゃったら何だなあと思ってたら意外な変化球がありましたね。
急にそういうの放り込むんだ?って感じで。
あの先生に寄せたウィッグはちょっと笑っちゃいましたが、
体がきちんと3年後になっていたには凄かったですね。
ラストはやはりあれなんだろうなという気はしました。
あそこに着地しないと物語終わらないですからね。
シンコの音楽は全然ヒップホップじゃなかったですが、
あの脱力した感じはスチャダラに通ずるものがありましたね。
(一応「スチャダラパーの悪夢」が前フリになってたんですかね。)
そんなわけで傑作!というほどでもないですが、なかなか楽しめました。
私は山下監督のファンなので次回作もまた見てみたいと思っています。