雨音と酒に包まれて 貸切り図書館26冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の26冊目を、ゲストにロンサム・ストリングスさんとスーマーさんを迎えてお送りしました。生憎の雨模様ながらこの日は満席で、ぎゅうぎゅうの客席からの熱気に応えるかのような熱い演奏がステージ上で繰り広げられました。
まず登場したのはロンサム・ストリングスの4人で。エレキギターにスティールギター、バンジョーにベースという4本の弦楽器が織りなすアンサンブルは時に叙情的で時に情熱的で、聴きながらそれぞれ異なるシーンの映像や物語が想起され、その世界にぐいぐい引き込まれてしまいましたね。桜井さんの超絶ギターを弾く姿はまるで刀を捌く侍の如き様相で、近くで見ながら痺れてしまいました。原さんの達人技のバンジョーも見事でしたし、リトルテンポ、KIRINJI、青山陽一ファンとしては田村玄一さんの生スティールギターは鳥肌ものでした。ベースの千ヶ崎さんは前回の比屋定さんに続いての出演で、その職人技に改めて感心してしまいましたね。私が初めて聞いた時に度肝を抜かれたCSN&Yの「Deja Vu」のカバーや、Cityの「Snow Queen」も聞けたし、数々のオリジナルの名曲群にも静かに興奮してしまった私です。玄一さんのソロ曲もとても良かったですね。
本の紹介のくだりでは原さんが「私はまたか、と思われそうですがこれを」と笠原潔著「黒船来航と音楽」という本を挙げてくれました。お馴染みのネタなのか客席からは「出た〜」みたいなリアクションでしたね。幕末のペリー来航がもたらした日本への洋楽流入についての研究書だそうですが、そもそも原さんはペリーが黒船に幕府側の役人を招いて披露したバンジョーを使った音楽劇「ミンストレルショー」の研究と再現をする活動をされているそうで。毎年春にペリー来航を記念して「横濱バンジョー祭り」なるイベントを催しているんだそうです。ペリーとバンジョーが直接結びつかなかった私ですが、黒船来航には音楽的にも大きな意味合いがあったのですね。読んでみたくなったのですが、原さんが買い占めたせいで(本当かどうかわかりませんが家に40冊あるそうです・笑)アマゾンの在庫がなくなったそうです。興味持たれた方は原さんに直接問い合わせてみては如何でしょうか。続いて千ヶ崎さんは「じゃりン子チエ」を挙げてくれて。ツアーなどで地方に行く度に古本屋で買うそうなんですが、ダブり買いを避けるために持っている巻のメモを見ながら買うという、巻数の多い漫画あるあるを語ってくれました。桜井さんは文学部出身でよく小説を読むんだそうですが、「本1冊で人生変えられたことなんかない」という旨の発言をされて。玄一さんに「逆に本1冊で人生変わっちゃうような桜井さんなんか嫌だ」と返されていましたね。そんな桜井さんが挙げてくれたのは1973年の国鉄時代の時刻表で。昔の時刻表は古本屋でも安く入手出来るんだそうですね。本の紹介で時刻表を持って来た方は初めてです。自分の生まれた年の生まれた沿線の時刻表を眺めてみるのも時を超えたロマンがあって面白いかもなあと思いましたね。あとは今読んでいる本ということで島尾敏雄「夢の中の日常」と、奥様の桜井季早さんが書かれたエッセイ本「YES」を挙げてくれました。「YES」はロンサムのツアーのことなども書かれているそうで。私も終演後に恐縮ながら奥様からいただいてしまったので、ぜひ読ませていただこうと思います。玄一さんは「特に愛読書はない」とのことで(笑)、本の紹介はありませんでした。らしい感じだなと思いましたね。
熱く渋い演奏で魅了してくれたロンサムに続いてはスーマーさんの登場で。まずはバンジョーで1曲弾き語りしてくれ、その後はギターでその太く甘く渋い歌声を聴かせてくれました。フォーク、カントリーなど土着的なサウンドに人生を謳う歌詞は酒が似合うもので、私もついつい飲みながらしみじみ聴き入ってしまいました。高田渡さんやなぎら健壱さんなど酒の似合うフォークシンガーの系譜だなと思いましたね。後半はロンサムのメンバー全員がバックを務め、がっつりと演奏してくれまして。スティールギターやバンジョーの音の入ったスーマーさんの歌がまた良いのですよね。「雨がひらひら」という曲を歌い終わる頃に会場を雨の音が包むというミラクルも起き。お客さんも「あれ、この雨音は演出?」と思わず天井を見上げておりました。(molnは雨音が強く響くのです)。
紹介する本を忘れて来たというスーマーさんですが、高木市之助著「詩酒おぼえ書き」という本を紹介してくれまして。この本に載っている酒についての句にメロディーを付けたという「酒三更」という歌も披露してくれました。これがまた雨音の聞こえる会場でいい塩梅で響いておりました。高木市之助という人の名前は初耳だったのですが、国文学者の方だそうで。渋いセレクトだなあと感心した次第です。そんな感じでほろ酔いながら最後まで楽しめましたね。
終演後はロンサムさんは7インチ3枚しか持って来ないという商売気のなさで、スーマーさんもCDが完売してしまったそうで売るものがないという状況でしたが、お客さんはみなメンバーさんに話し掛けたりサインを貰ったりして交流されておりました。かくいう私もスーマーさんとロンサムさんのCDにちゃっかりサインをいただいてしまいました。(スーマーさんのアルバムは売り切れる前に事前に入手しておきました。)ロンサムさんのはベスト盤を持って行くのも何だかなあと迷ったのですが、亡くなった先代ベーシストの松永さんの写真が大きく載っているライナーが気に入っているので、そちらを持参し全員にサインを書いていただきました。千ヶ崎さんは「俺、演奏に参加してないけど」とのことでしたが、ぜひにとお願いしました。すっかりただのファンというやつです(笑)。良い記念になりました。
スーマーさんはよく野毛の呑み屋に出没するそうで、それなら我々も同行したいという話で盛り上がりました。そのうちスーマーさんと飲みに行く我々の姿がSNS上に見られるかもしれません(笑)。この日はメンバーさんやスタッフさんやお客さんもお酒をよく飲まれていて、スタッフさんも「ロンサムは酒が進むバンド」と公言されてましたが、そのせいもあってより濃密な空間になったのかもしれません。雨からの隠れ家でほろ酔いながらじっくり聴く一夜。とても良い夜でした。
貸切り図書館、次回はTICAさん、tico moonさんを迎えて12月20日に行います。そちらもぜひよろしくお願いしますということで。