確かな光 貸切り図書館40冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の2017年初回にして、記念すべき40回目を高野寛さんをゲストにお迎えしてお送りしました。たくさんのご来場をどうもありがとうございました。高野さんとは去年広島のフェスでご一緒し、その時に「こういうイベントがあるんですけど出演していただけませんか」とお声を掛けたのですが、まさかこんな早くに決まるとは思わず。新年早々高野さんの歌声が聴けるとあり、テンションが上がっていた我々なのですが、お客さんも同様で会場は満員御礼でございました。
今回は高野さんのリオの写真集を過去に出版していて、我々にも近しいミルブックスの藤原さんがスタッフとして駆けつけてくれまして。藤原さんが間に入って色々働いてくれてリハも本番も順調に進みました。現在高野さんは週1で京都の大学に講師として通っているとのことで、新幹線移動が大変だとか、若い生徒さんたちはみなCDを買わないとか、色々興味深い話を聞かせて貰いました。高野さんくらいだとアナログレコードをたくさん所有しているのかなと思ったら、新幹線での長時間移動という生活スタイルもあり、やはり音楽は全部リッピングしてデータで保存しているのだそうです。本番でも話してくれましたが、近頃の大学生はCDプレイヤーも持っていないし、そもそも今のmacにはCDを取り込むところさえないという話に時代を感じましたね。(まあ思えば私もレコードか、PCに取り込んだデータのどちらかしか聴いてませんですけどね。)
そんな雑談などしつつ迎えた本番ですが、新旧取り混ぜた選曲にカバーも多数あり、さすが先生だけあってトーク運びも巧みで、素晴らしいステージでしたね。YMOの「Cue」のカバーを聞きながら「そういえばYMOが再び盛り上がったのって高野さんが司会をしていたソリトンという番組がきっかけだったんじゃなかったっけ」と懐かしく思い出しました。実は私は「ソリトン」のTHE BOOMの宮沢さんがゲストの回の公開収録を見に行ったことがあり、それを高野さんに話したら「よく抽選当たったね〜」とのことでしたが、確か知り合いが番組のADか何かで観覧に誘われたような覚えがあるのですよね。そんなことも思い出し勝手にぐっと来てしまった私です。「歌詞がとても文学的だと思う」とのことで細野さんの「終わりの季節」を歌ってくれたり、ボブ・ディランの「時代は変わる」に高野さんが日本語の訳詞を付けたものを歌ってくれたり、「普段ほとんど小説とか読まないんだよね」と仰る高野さんですが言葉へのアプローチの仕方に作家性を感じましたね。実際高野さんの書く歌詞にも文学性を感じますし。高野さんは唯一浪人時代に太宰や芥川など近代文学を読み漁り、それ以降はほとんど読んでないそうなのですが、その熱心に読んでいた時代のことをもっと聞きたかったような気もしますね。(それはまあ次回に期待ということで。)
そんな高野さんが紹介してくれたのは2冊とも漫画で。まずは東村アキコ著「かくかくしかじか」という作品で。漫画家を目指し美大生になった主人公の青春を描いた自伝的作品だそうですが、高野さん自身も芸大出身で共感出来る部分が多々あり、笑えるし泣けると絶賛されていました。美大や芸大出身者はとにかく変わり者が多いとのことで、実際高野さんは大阪芸大に入学し自分よりも変わり者がたくさんいて救われたと話しておりましたね。高野さんは大学時代から曲を作り始めたそうなので、その頃からアーティスト高野寛が形成されたのでしょうが、東村さんが作中で言うところの「頭がお花畑でピーターパン状態」な芸大美大生という特殊な存在について半ば自虐的な目線で語っていたのが面白かったですね。高野さんの創作の秘密を紐解くのに「芸大出身」というのが大きなキーワードになりそうです。そんな高野さんも今やそんな大学生を教える方の立場なのがまた面白いですけどね。
もう1冊はこうの史代著「この世界の片隅に」で。映画がSNSなどで評判になって見に行ったそうなのですが、あまりに素晴らしかったので原作本も手に取ったとのことでした。映画もさながら原作の方もとても丁寧な表現がされており、膨大な取材力を感じさせる何気ない1コマの描写や台詞のないシーンに込められた情報量など、きめ細かい筆致に感銘されたそうです。またもう1冊「暮らしの手帖」の戦争時の記事を書籍にまとめた「戦争中の暮しの記録」という本も一緒に紹介してくれて。「この世界の片隅に」の中にもこの本を資料として描いた部分があるそうで、実際に写真として見るとまたリアルに感じると話されておりました。「この世界の片隅に」は基本ほのぼのとしたコメディタッチなので、だからこそ戦争の恐ろしさや痛みが際立つとのことで、映画を見て感動した人は漫画の方もお勧めとのことでしたね。ちょうど藤原さんが原作本を貸してくれたので、私もじっくり読んでみようと思いました。ちょうど映画を見た後だったので高野さんの感想をうんうん頷きながら聴いてしまいました。その後声優ののんさんについての話に絡めて「逃げ恥」とか「君の名は」についての話なども飛び出し、授業中に先生が話してくれるちょっとした雑談みたいで面白かったですね。高野さんご自身も言ってましたがこのくらいの小さい会場でお客さんの顔が見える範囲で喋るのにちょうど良いお喋りで、ある意味貴重でしたね。そんなトークの後に聴く「確かな光」も心に沁みましたし、「おさるのナターシャ」や「夜の海を走って月を見た」(高野さんのトリビュート盤で山田氏がカバーしたバージョンもまた良いのです)「虹の都」など名曲をたくさん聴けて大満足のステージでした。そんな素晴らしいステージを届けてくれた高野寛さんに感謝です。
貸切り図書館、今年もマイペースで開催されていくと思います。もし機会があればぜひにということで。よろしくお願いします。