曖昧な音を捉える思考 貸切り図書館43冊目

先日は恒例のイベント「貸切り図書館」の43回目をゲストに宮内優里さんを迎えてお送りしました。たくさんのご来場をありがとうございました。
宮内さんははるばる千葉の八街市からギターとたくさんの機材を抱えて鎌倉に来てくれたのですが、いざそれらをセッティングしてみると音響の関係で急きょスピーカースタンドが必要となり。鎌倉在住のギタリストで宮内さんと親しい秋元さんがたまたま現場にいて「あ、家から持って来てあげるよ」と、自宅に取りに行って貸してくれるという鎌倉連携プレーにより何とかリハーサルにこぎつけることが出来まして。(秋元さんありがとうございました。)
宮内さんはギターのハードケース上に鍵盤やらエフェクターやらルーパーやらをずらりと並べ、横には七つ道具よろしくトライアングルやらブラシやら打楽器系をまたずらりと並べて、ちょっとしたラボの様相でしたね。長年かけてこのスタイルに落ち着いたのがわかる完成された形で、見た目にもかっこよかったです。この日は満員御礼でお客さんがぎゅうぎゅうだったんですが、みなさんまずその目前のラボをパシャパシャと写真に収めておりました。
そして始まった本番では宮内さんはギター、鍵盤、打楽器の生演奏をループさせながらエフェクトをかけながらその場で楽曲を見事に構築しており、さながらその様は素材を包丁で刻み、味付け調理し盛り付ける敏腕シェフのようで素晴らしかったですね。美しく心地良いサウンドに酔いしれてしまいました。星野源さんをボーカルでフィーチャーした「読書」も貸切り図書館にちなんで歌ってくれたのですが、魅力ある低音ボイスで、宮内さんはボーカリストとしてもいけるのかとそのマルチぶりに感心してしまいましたね。ちなみに「宮内優里」で検索すると関連ワードに「宮内優里 星野源 何で」と出てくるそうで(笑)、最近星野源さんのファンになった人は何でこの宮内優里という見知らぬ人の曲にスターであるところの星野源が参加しているのか的なことを検索しているようで、「そりゃまあそうですよね」と自虐的に語っておりました。元々宮内さんが星野さんの歌を好きでボーカルを依頼したそうなんですが、その直後に星野さんが人気者になってしまったそうで。しかしこの曲を入口に聞いてくれる人が多いので感謝しているそうです。実際この日も曲名を告げた時点で客席から拍手が起こっておりました。
そして本の紹介のくだりでは以下の本を挙げてくれました。
原田宗典「十七歳だった!」
五十嵐大介「リトル・フォレスト」
クリス・アンダーソン「FREE」
プチ鹿島「教養としてのプロレス」
斉藤斎藤「渡辺のわたし」
宮内さんは若い頃色々な本を読んだり音楽を聞いたり映画を見たりとひたすらインプットばかりしていて、その頃に自分でも音楽を作り始め何とかデビューを目指したもののなかなか結果が出ず。そこで一旦インプットをやめてテレビのバラエティを見たり漫画を読んだりして、音楽も変に気負わず楽に作るようにしたらデビューが決まったそうなんですが、原田宗典のエッセイ本はそのインプットをやめてた頃に読んだそうで。私も一時期ハマって読んでましたが、軽妙な文体とユルい内容でさくさく読めて面白いんですよね。宮内さんは今回紹介するにあたってまた読み直してみたらおじさんになった今の目線だとまた違う読後感があって良かったそうです。私もちょっと読み直してみたくなりましたね。
「リトル・フォレスト」はこれの映画音楽を宮内さんが担当したとのことで。依頼を受けて原作を読んだら面白かったので快諾したのだそうです。この映画のために書き下ろしたという曲を続けて演奏してくれたのですが、とても美しい曲で映像が浮かぶようでした。
あと宮内さんは一時期ビジネス書にハマってかなりの量を読んだそうで、「FREE」はその頃読んだうちの1冊だそうで。無料という手段を使ってどう売り上げに繋げるかみたいな話で、実際宮内さんもフリーで自分の音源を配ったり、色々試みたそうです。結局たくさんビジネス書を読んでもあんまり変わらない、良い音楽を作るのが一番大事だと語っておりましたが、フリーで配布した音源を聞いて映画音楽の話が舞い込んだりしているのだから決して無駄ではなかったのでしょう。
宮内さんはプチ鹿島さんがマキタスポーツサンキュータツオ両氏とやっているラジオ「東京ポッド許可局」を愛聴しているそうで、プチ鹿島さんの半信半疑で物事を見る視点や、プロレスのようなグレーで曖昧なものを面白がる姿勢に共感を覚えるのだそうです。この「教養としてのプロレス」は世の出来事をプロレスを通して解説する鹿島さんの語り口の面白さが味わえる1冊だそうで。私も東京ポッド許可局のリスナーなので何だか嬉しいセレクトでしたね。プロレスに明るくないのでこの本は未読だったんですが、読んでみようと思いました。
斉藤斎藤氏は歌人で「渡辺のわたし」は彼の歌集なのですが、テレビで「変わった短歌を詠む人」として取り上げられてるのを見て興味を持ち、電子書籍で買ったら後日何故か紙の本が送られて来たそうで。この本の中から宮内さんの気に入った歌をいくつか選んで読んでくれたのですが、一回聞いただけだとよくわからない歌も宮内さんの「これはこういう状況でこういう気持ちを歌ったと思うんです」と解説が付くとみなさん「なるほど〜」と感心していて。私も短歌が好きなんですが、短い文章ゆえ読む側の読解力や感性も問われたりするのですよね。言葉の背景まで面白がる力や想像力が必要というか。宮内さんの秀逸な解説を聞きながらこの人の短歌を読む感性や考察力は素晴らしいなあと感心してしまいましたね。
宮内さんの音楽は主にインストで即興なのですが、ひとつひとつの音に対して「この音はこういう気持ちで鳴らしている」と向き合いながら演奏しているそうで、また同時に曖昧で答えのないグレーなものも面白がりながら演奏をするようにしているそうで、その姿勢が今回の本の紹介から垣間見えてとても興味深かったですね。インストながらもかなり言語的な思考で鳴らされているのだなと。インプットを一旦やめて気楽に音楽に向き合ったらデビュー出来たみたいな、発想の転換や試行錯誤を経てここまで来たという話もそれこそビジネス書のそれみたいでトークも面白かったです。ぜひまたライブを体験したいなと思いました。
貸切り図書館、次回は5月7日にゲストに金佑龍さんを迎えてお送りします。そちらもぜひよろしくお願いしますということで。