1万2000人とのラジオリスニング

仕事中にラジオを聴く習慣がついてもう何年くらいでしょうか。家にテレビもないし、レコードを聴く以外はだいたいラジオを聴いているのですが、ここ8年ほど毎週欠かさず聴いている番組があるのです。それが「オードリーのオールナイトニッポン」なのです。TBSラジオ派の私が唯一贔屓にしているニッポン放送の番組です。(ビバリー昼ズや他のオールナイトニッポンもたまに聴きますが)先日そのオードリーのオールナイトニッポンの10周年を記念したイベントが日本武道館で行われたので、見に行って来たのです。人気番組ゆえチケットは争奪戦となり、私も先行の抽選で2度も落選しており、これはもう無理かと諦めムードの中、一般発売の抽選に申し込んだら運良く当たったのです。
リトルトゥース(番組リスナーをこう称します)である私としてはグッズも欲しいぞ!といざチェックすると、ラスタカラーに片仮名で「リトルトゥース」と書かれたリストバンドや、胸にデカデカと「リトルトゥース」とデザインされたスウェット、Tシャツなどがずらりと並び。その余りのダサに最初は思わずのけぞった私なのですが、番組内でそのダサさをいじっているやり取りを聞いていると不思議なものでどんどん魅力的に思えて来るのです。しかしリトルトゥースなどと書かれた衣服を己は日常で着るのかと何度も自問し、妻にも「そんなダサいTシャツ着ている人とは一緒に歩きたくないぞ」と宣告され、まあグッズなんてなくてもイベントだけ楽しめばいっかとリトルトゥース魂を心の内に忍ばせて武道館に向かったのです。
しかし九段下に向かう地下鉄に乗った時点でそこかしこに「リトルトゥース」と書かれたTシャツを着用している人たちがいるのであり。みんなリトルトゥース魂全開なのです。心の内に忍ばせていないのです。「LITTLE TWOOS」と英語表記で書かれたトートバックを持っている人たちもいて、あ、あの人もこの人もリトルトゥースなんだ!と気付いた時のテンションの上がりようったらないのです。グッズは前日から販売され、飛ぶように売れている状況をツイッターで見ていたのですが、みんな当日着用するために前もって買うのかとそこで気付き、リトルトゥース魂を心の内に忍ばせている場合ではなかった、周囲に表明すべきだった!と思い直したのです。(しかし表明するのが恥ずかしい気持ちもあるのがまたリトルトゥースらしさでもあるのかなと思ったりする私。)
そして地下鉄を出るとさらにいるわいるわ、リトルトゥース魂を表明している人たちが。ダサいと思っていたTシャツもお客さんみんなお洒落に着こなしており、見ていると一緒のチーム感があって何だかテンションが上がるのです。(特にダサさ全開のラスタカラーのTシャツを着ている人の多いことよ!)そして会場前に行くとさらに人々のリトルトゥース着用率が上がり。何しろ全国から1万2000人が集結しているのです。ここにいる人たちみんながリトルトゥースなんだと思うと何だか胸がいっぱいになってしまい、すでに泣きそうになっている44歳のおじさんがここにひとり状態です。部屋で作業しながら孤独に聞いていた、そして己のやさぐれた心を癒してくれた数々の放送をこんなたくさんの人たちと共有していただなんて。オードリーの2人と番組構成作家藤井青銅さんの等身大パネル前には記念撮影の行列が出来ていて、何と1時間待ちとのこと。何だここはディズニーランドか!オードリーはまだしも藤井青銅さんなんてただのおじさんだぞ!と思いながらも、ミッキーを見るかのような目線を青銅さんに送る私。私もみんなもどうかしているのです。
そんなどうかしている光景を眺めながら、著名人から贈られた花など見ながらいざ会場内に入るとさすが武道館は広いのです。バックステージ側も客席として解放しているのであらゆる角度からステージ上を見られるようになっているのですが、ステージ上はシンプルにラジオブースだけなのです。満員の武道館でただただラジオをやるというストロングスタイルなのです。期待に胸膨らませながら1万2000人のリトルトゥースと待っているといよいよ開演時間になり。
オードリーの2人が舞台に登場し、ラジオブースに座るといつもの土曜の夜カスミンと若林のトークが始まり。ラジオ番組をこの規模で共有する喜びたるやです。冒頭のアイドリングトークを経て若林がこの日披露したフリートークは青森のイタコにお父さんのお墓問題を聞きに行くという珍道中で。
若林「俺のお父さんがお隠れになって」
春日(クスクス笑う)
若林「お前何笑ってんだよ!」
というお馴染みのやり取りで番組では笑い話になっていますが、若林にとってお父さんの存在が大きかったことは彼の著書「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読めば明らかなのであり。詰めの甘いイタコとの間抜けなやり取りの描写が実にコミカルで面白く一級の漫談でありながら、青年が亡くなった父の声を再び求めに行く家族のドキュメントとしても深く考えさせられる内容で、最後に若林も同行したサトミツさんもイタコ自身も号泣したというオチには笑いの後に得難い感動があり、本当に素晴らしい語りでした。
片や春日もさんざ番組内で語って来た「狙ってる女」こと付き合ってる彼女との結納話を赤裸々に語り、こちらも週刊誌にスクープされ、お互いの家族とひと悶着ありというドタバタを語った一級の漫談でありながら青年が新しく家族を作ろうと一歩踏み出すドキュメントとしても何だかしみじみさせられる内容で、こちらも笑いの後に感動が押し寄せ、その感動をこれだけの人数と共有していることにもまた心打たれてしまった私です。
ヒロシのコーナーでの春日の彼女のサプライズ出演あり、バーモント秀樹、ビトたけしといった仲間のユルい演芸あり(でもビトさんの歌う「浅草キッド」にはちょっと感動してしまった私です)、松本明子、梅沢富美男の一流芸能人の芸も挟みつつ(若林のラップ最高でした!)、圧巻だったのはラストの30分に渡る漫才でしたね。春日の身体を借りてお父さんの声を聞くという若林のフリートークを振りに使った漫才でしたが、顔芸あり、ドツキあり、迫力満点の漫才でした。漫才は人(にん)だと言いますが、まさに2人の関係性と人柄が織りなす言葉のやり取りがスパークしておりました。
「もうお前とは漫才やってられないよ」
「お前それ本気で言っているのか」
「本気だったらこんな楽しく漫才やってないよ」
「でへへへ」 
のくだりもそうですが、若林がボケとして語った「一緒にコンビ組んでくれてありがとうな」という台詞にもグッと来てしまい、何というか笑いながら泣けて来る感じで、感情を揺さぶられました。最高でした。
終演後、気が付けばふらふらと物販に行き、リトルトゥースTシャツを購入している己がいました。日常で着ることがあるのだろうか、妻も一緒に歩いてくれぬぞと一瞬自問したのですが。しかし心が挫けそうになった時、土曜の夜の放送を聞きながら、そっと着用してみるのも良いかもしれないなどと思った私です。着用してこの日の感動を思い出すのです。イタコにお父さんの声を下ろしてもらうかのように。
しみじみラジオって良いなと思いながら帰路に着きました。声と言葉は癒しであると思いながら。

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