低音回想

この間ベースを新調したので、以前使っていたベースの方を処分することにしまして。前にギターをオークションで売却した時はハードケースをさらに段ボールで梱包したりなど発送が面倒くさかったので、もう楽器屋さんに持ち込むことにしたのです。もう言い値で結構、その場で引き取って下さいなという感じで。

しかしいざ売る前に全体のクリーニングなどしていると「ああ、これで広島のフェスに出演したなあ」とか「大阪と京都を回ったなあ」とか「恵比寿の天窓スウィッチ閉店しちゃったなあ」とか「これであの曲の録音したんだよなあ」とあれこれ思い出が蘇るものなのですね。最近は山田バンドのライブでベースを弾く機会が増えたので、ライブやリハの光景などが浮かぶのです。それでも新しいベースがすでにあるし、もうこちらは弾かないので「良い人に貰ってくれよう」と願いながら楽器屋に持って行ったのです。

下取りに出す時は「いくらになると良いなあ」と高望みするとがっかりするし、数々の思い出を安く見積もられた感じになるのが嫌なので「まあせいぜい5000円でしょ、いや。2000円でも良いのよ。思い出の方はプライスレスだから。演奏して来た旋律は心に残ってるから。安くて良いのよ〜」とかなりハードルを下げて臨むのですが、今回も目標金額2000円という破格値を設定して持ち込んだのです。でもきちんと念入りにクリーニングして少しでも印象良くする辺り、嫁に出す我が子に化粧を施し綺麗な着物で飾ってあげる親のような仕草になってしまいますね。大切に育てたベースちゃんをよろしくという感じです。
楽器屋に持ち込むと「30分くらいお時間かかります」とのことで、外に出て街を歩きながら「あのベースって御茶ノ水で買ったんだよなあ」とか「ブイブイ得意気に試奏するのが恥ずかしくて取りあえず音だけ出して、まあ良いっしょみたいな表情を作りながら買ったんだよなあ」とか出会いのことを思い出してしまうのですね。そんなこんなベース回想をしていたらすぐに連絡が来まして。
楽器屋に戻り「査定をお願いしていた五十嵐ですけど〜」と告げると「あーはい、こちらですね」と店員さんが書類をぱらりとめくった瞬間に金額が見えてしまったのですよね。2と次に続く0の数字が。一瞬ゼロの数がわからず「あれ、本当に2000円なの?嘘だろおい!私とベースの輝かしい青春の日々がにせんえんだと?ふざけんなよう!」と目標金額通りのはずなのに怒りが噴出したのですが、いざ落ち着いて金額を見せられたら2万円でした。ゼロをひとつ見失っていたのでした。直前に2千円かと思っていたので余計に2万円が高値に思われ、「ありがとうございます!」とすぐにその額で引き取ってもらったのですが、長年使い込んだものがその額なら御の字なのです。
行きに背負っていたベースがなくなり、軽くなった身体で帰路に着きながら「ベースくん、今までありがとう」と感謝の念を抱いた私です。このベース、次に誰の手に渡るのでしょうか。果たして。

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